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387.雷光の終幕

 閻魔天ヤマラージャ状態の強化された神速の抜刀術で全ての雷光を斬り消した。


 赤と黒の炎をまとった俺の姿を見て、カンタータは笑う。

 物ほしくてたまらない子供のような笑顔だ。


「ああ、素晴らしい。それが君の本当の能力なんだね」


 サラマンディア家の血統がもたらした力だから、本当の能力といえばそうなる。


「そろそろ決めるぞ」


「君を殺して、その能力もいただく!」


 電光の剣で斬りかかってきたカンタータの一撃を、“獄炎華・朧偃月”で受け止め、力押しで打ち落とす。

 床に落ちた剣に目もくれず、カンタータは電光を生み出し剣に変えて突いてくる。

 それを片手で受け、“鳳凰”の炎で雷光を消し飛ばす。

 爆炎を噴き出す大太刀でカンタータの胴を両断する。

 剣も雷光も失ったカンタータは防ぐこともできずに斬られてしまう。

 それでも、彼の切断面からバチバチと青白い電光がほとばしりはじめるのを、俺は見た。

 とっさに大技を一つ放つ。


「獄花火!」


 それは炎をまとった魔力の剣を発生させ、全方位攻撃をする技だ。

 炎の剣はカンタータの電光を巻き取り、拡散していく。


「電光が!?」


 電光が奴の復活の鍵なのだ。

 だからこそ、その電光を乱し、拡散させてやれば復活はできない。


 焼け焦げた身体を両断されたまま、カンタータは床に落ちた。


 剣の才も、能力の組み合わせも、死者から得た能力も、俺には届かなかった。

 それは、百余年を鍛練に費やしてきた俺と、十年と才能で鍛え上げたカンタータ。

 時間だけが俺と奴を隔てた。


 もしくは、目的の差か。

 元の世界に戻り、彼女の笑う世界をつくろうとする俺。

 強くなるだけを、目的としたカンタータ。


 その差。


「終わりだ」


「……まだ、終わりじゃない。俺は復活できる。何度でも蘇り、お前に勝つまで」


「いや、お前は終わりだ。見えないか、お前にまとわりつく死者の姿を」


「……え?」


 切り裂かれたカンタータの胴が修復されるのを阻むように、うすぼんやりした何かが上半身と下半身を押さえつけている。


「無念の死を遂げた死者がお前を押さえつけている」


「な、なんだ!ザレオル!?クラウン!?…兄上!!?」


 能力とは魂の力だ。

 その個人の資質、記憶、経験から導きだされたものだ。

 それはつまり、その人自身であるとも言える。

 能力を取り込むとは、その人の魂を取り込むことに等しい。


 俺の中にいまだに獣人のジレオンの魂が宿っているように。


 その取り込み方がよくないやり方であったなら、死者は逆に取り込もうとしたり、恨みを晴らそうとしてくるかもしれない。

 それがカンタータをいま襲っているモノの正体だ。


 死んだ騎士だけでなく、彼が害した人々も見えているらしい。


 やがて、カンタータの顔色は蒼白となった。

 血が流れすぎて、命がこぼれ落ちているのだ。


「あ、ああ……」


 と呻いて、カンタータは動かなくなった。


 俺は亡骸に手を合わせる。


 そして、先へ進んだ仲間たちを追って走り出した。



 そんな俺を止めたのは月桂樹の葉の形をした石から放たれた光だ。


「聞こえるか、止まれ」


「おおっと、その声はローリエか?」


 エルフの統治機構“樹楽台”の構成員の一人であるローリエは、俺とエルフの連絡を担当している。

 そのために持たされているのが、この月桂樹の葉の形をした石だ。

 ローリエの姿を投影して会話ができる便利な石だ。


「ああ。石の場所からするとラビリスとメイズの国境あたり、霊帝騎士団の拠点だな?」


「よくわかったな」


「メイローズの貴族になって、ラビリスの内乱に関わって、そして霊帝騎士団。ちとこの世界に介入し過ぎではないか?」


「いや、この世界の方から俺に関わってくる、と言ったほうが正確だぞ」


「相変わらず、だな」


 最初に会った時と比べると、ローリエもずいぶん物腰が柔らかくなった。

 エルフの規則として、他種族とは話をしない。

 格下とは目も合わさない、というものがあるらしいが、それを守っていたころは話もできない有り様だった。

 それがいまや、軽口をたたくまでに緩和されている。

 これもまた、一つの成長なのだ。


「それで、用はなんだ?」


「オリエンヌ・メイスフィールドだ」


「霊帝騎士団の首魁だろ?今から会いに行くぞ」


「どうせ戦うのだろう?心配はしていない。むしろ、その後だ」


「戦った、後?」


「お前たちがいるのは北辰宮という遺跡の一つだ」


「聞いたぞ。七つの宮を全て押さえると時間を操れる、とか」


「それは正確な表現ではないな」


「どういうことだ?」


「この世界はお前のもといた世界と関わりが深い。似たようなものが多いとは思わなかったか?」


「確かにな」


「それは、お前のいた世界をコピーして作られたからだ」


「元が同じなのか」


「まあ、この情報はエルフの上位四名と私しか知らないがな」


「ミトラクシア殿に教えてもらったか?」


 ローリエの上司にあたる偉いエルフのミトラクシアは、なぜか俺に好意的で、いろいろ協力してくれている。


 ローリエは図星をつかれたようで苦笑した。


「はは、まあそうだ」


「確かに別の世界と同じもので造られたとか言っても、普通の人じゃ理解はできんわな」


「私もお前がいなかったら信じなかったさ」


「それで、この世界と俺の世界が似ていることがなんだ?」


「私もよくわからないが、二つの世界は時間の流れが違うのだろう?」


 この世界の一年は、元の世界の一日にあたるらしい。

 300倍も時間の流れが違うのだ。


 それが俺がこの世界でいろいろ回り道をしている理由だ。

 向こうは大変なようだが、余裕はある、と今まで思っていた。


「そうだ」


「なんでも神と面会するため、違う時間の流れを調整するために、北辰宮はあるのだという」


「神と面会するために、時間を調整する……」


「つまり、二つの世界の時間の流れを同じにする、ということだ」


 なるほど、と俺は思った。

 騎士団の連中が信じていた時間を操り、時間を巻き戻す、というのはどうも難しいような気がしていたのだ。

 だが、時間の流れを調整するくらいなら、難易度は低い。


「オリエンヌはそれを知っているのかな……」


 ふと会ったこともない敵の首魁の目的が気になった。


「もし、その騎士団の首魁が北辰宮を動かしていたら、お前の余裕が無くなるとミトラクシア様は言っていた」


 確かにそうだ。

 時間の流れが違うための余裕だ。

 元の世界と同じになったら、余裕は無くなってしまう。

 急がなければならない。


「情報助かった」


「もう一つ、ミトラクシア様によると時間が調整されると北辰宮の中に霊峰への道が開くとのことだ」


「霊峰?」


 どこかで聞いたことがある単語だ。


「世界で一番高い山だ。神の座所とも謂われている。いまだ踏破したものはいない」


「そんな山が……そこに向かう道……ああ、神と面会できるんだっけか」


「おそらくな。だが、いまだ誰もやったことのないことだ。お前も充分に気を付けろよ」


「ああ、ありがとな、ローリエ」


 エルフは顔を真っ赤にした。

 照れているようだ。


「わ、私の護符を預けたのだ。無駄にしてもらっては困る」


 会話をできるようにしてくれている月桂樹の葉の形をした石、護符はローリエから譲られたものだ。

 ローリエが作ったものだとも聞いた。


「よくこんなのを造れるな。尊敬する」


「わ、私の家に伝わる古い石を加工しただけだ。それほどでもない」


「改めて、礼を言う。ありがとう」


「気を付けろよ。そして、もう一度樹楽台に来い。今度はエルフ式の食事をふるまってやる」


「ああ、楽しみだ」


 通信はそこで途切れた。

 通信は俺とローリエの魔力を消費する。

 俺は問題ないが、ローリエが方が限界だったのだろう。


 突然できた時間制限。

 霊峰という新しい目的地。


 オリエンヌは。

 そして彼の元へ向かった仲間たちの安否は。

 元の世界はどうなっているのか。


 諸々を考えつつも、俺は足を前に踏み出す。


 霊帝騎士団の本拠地、天権宮メグレズのみやの無機質な廊下を俺は駆けていく。

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