386.雷光と爆炎
青組第一騎“晴天の霹靂”カンタータ。
その能力“晴天の霹靂”は電光を自由自在に発生させ、そしてそれを物質化して剣のように操ることができる、というものだ。
空中を自在に動き回る電光の剣は、俺を周到に狙ってくる。
さらに厄介なのは、電光の剣はいつでも元の電光に戻すことができる、という点だ。
回避したはずの剣が電光となって襲ってくる、というのはダメージは大したことがなくても戦闘予測に不確定要素となってくる。
要するに、カンタータの攻撃パターンが読みづらいということだ。
そして、一番問題なのはカンタータは剣術の天才だ、ということだ。
師匠である“剣魔”シフォスに匹敵する剣の腕を持っている。
最高の剣士が、自由自在に電光の剣を無数に操る。
おそらく、ギシラスやアリアでは相手にならなかっだろう。
俺は継承戦で入手したいくつかの能力を統合して得た“見切り”によってカンタータの剣と電光の剣を避けていく。
「はっは、避けるね。避けられるんだ!なら、もっと速く、もっとたくさん!」
カンタータはさらに電光を増やす。
それらがてんでばらばらに俺を狙ってくる。
飽和攻撃をされると“見切り”も効きづらくなってくる。
やがて相手の攻撃が届き、斬られていく。
だが斬られたところから炎が噴き出し、その炎が俺を癒していく。
自動回復能力“鳳凰”を発動させているのだ。
これも、継承戦で得た能力を統合して得たものだ。
「痛いことは痛いがな」
電光の乱舞をゆっくりと抜けて、朧偃月を振る。
その鋭い一撃をカンタータは輝く剣で防ぐ。
「ずるくない?当たっても回復してんじゃん」
「避ける場所すら与えない攻撃をするからだ」
「あー、まー、たしかにね」
仕方ない、とカンタータは笑う。
「何が仕方ないというんだ」
「君がいくつも能力を使うからさ。こちらも奥の手を出さざるを得ない。そう“踊る人形”」
能力発動と同時にカンタータの姿が七つに増えた。
肉体を分身させる能力。
俺はそれを聞いたことがある。
だが、それは別の人物の能力、としてだ。
「道化のクラウン、だったか?」
「そう。道化組第一騎クラウンのね」
「オリエンヌが剥奪した能力を」
「そう。能力をね。もらっちゃったんだ」
七体のカンタータが無数の電光を撒き散らしながら攻撃してくる。
“剣魔”なみの速さと正確さで。
それなら、対処できる。
「“無刃斬・獄花火”」
俺は師に勝ったのだから。
俺の周囲に浮かび上がった魔力の剣が、炎を帯びて花火のように爆散していく。
その炎は、雷光を巻き込み散乱させていく。
七体のカンタータも、爆炎の範囲内におり、炎に包まれた。
「広範囲攻撃も備えてるんだ。厄介だなー」
全身に焦げた跡がありつつも、致命的なダメージをカンタータは負っていなかった。
おそらく“踊る人形”の分身を盾にして、爆炎をやり過ごしたのだ。
「厄介なのはお互い様だ。お前だって似たようなことをしていただろ?」
「はは、確かにね」
タンっと軽やかにカンタータは踏み込んできた。
そこから繰り出される一撃は、想像以上に速い。
神速に限りなく近い速さだ。
限りなく近い、がしかしまだ、カンタータの剣は神速と呼ぶには遅い。
俺が後から出した抜刀術で、カンタータの剣は弾き飛ばされ、天井まで突き刺さった。
「なにそれ?速すぎない?」
「なに、俺の抜刀術は見よう見まねだ。もっと速い奴もいる」
「抜刀術、ね。ラビリスか、天竜帝国に伝わっていそうな剣術だ。もしかして、君はそちらの出身なのかな?」
探るような声。
俺の出身を当てても、それをどう勝負に活かそうというのか。
まあいい。
答えてやる。
「残念だったな。俺は、そもそもこの世界の人間ではない」
踏み込み。
そして俺式早氷咲一刀流“炎柱斬”。
刃に炎を乗せて、神速で斬る。
赤い残光が見えたら、もう斬られている。
カンタータは見切ることが出来ずに胴を両断された。
「うわぁ、驚きすぎて斬られちゃった」
そう声を発したカンタータは、自身を雷光へと変えた。
青白い電光になって、ヴィンという振動音を残し、俺から距離を取る。
充分な間合いをとって離れ、カンタータは実体化する。
斬ったはずの胴も、鎧も元のままだ。
「自身も電光に変えられるのか」
「うん。まあ完全に切り札。とどめを刺す時にしか使わないつもりだった」
その顔は不満げだ。
「騎士はみな、不死では無かったか?」
「あれは、弱くなる。必ず勝てると踏んでから死なないとダメだ」
「なるほど。無計画に突進しても、ダメというわけか」
「そうそう。必ず勝つ。それが第一だ」
「百戦百勝はダメだ、と古人は言っているがな」
「聞いたことないね。……そういう謎知識、この世界の人間ではない、と言ったよね?」
「おう」
「どういうこと?」
「世界はここだけではない」
「へぇ……それで君は、この世界に何をしに来たんだ?俺たちの邪魔をしに来たのか」
「それがな。なんかよくわからないものに元の世界から吹き飛ばされてな」
敵対心をあらわにしていたカンタータの顔に面白がるような表情が浮かんだ。
「よくわからないもの、か。それで、なんでここまで?ここに来たって、君の世界とやらに戻る方法なんか、無いよ」
「そうとも限らん。どうも、オリエンヌ殿がやろうとしていることは世界を揺るがそうとしている。そこに何かきっかけがあればな、と俺は思った」
「なら、頭を下げて、教えて下さいって言えばいいじゃないか。なんで反逆者と協力して攻めてきているんだ?」
「それは、まあ成り行きだな」
「わけがわからないね」
「それに、希望を与えてそれを奪うようなやり方は、好みではない」
「道理より好悪を、感情を優先するんだ?」
「ああ。俺はそういうふうにやる」
「なら君を倒す。俺は君と相容れない」
カンタータは再び、無数の電光の剣を浮かび上がらせる。
天井に突き刺さった輝く剣も、一度雷光に戻り、カンタータの手に戻り、また物質化する。
便利だな。
俺も構える。
「俺式早氷咲一刀流“雷雨”」
神速の抜刀術、縦斬りの一撃は。
「“鼓動”」
アリアの部下だったザレオルの能力だった“鼓動”。
身体能力を増加させて、俺の神速に追随し始めた。
「いくつ能力を持ってやがる!」
「さあね。騎士の数は百人足らず、そのうち何人が死んだかな」
「死んだ騎士の能力を得ることができる、のか」
死んだ騎士は数十人というところか、その数十人全てから能力を得ることができるとしたら。
カンタータの隠してある手札は何枚あるのか。
「それだけじゃない。俺は見つけた。能力は組み合わせることができる」
カンタータが言ったことは、俺のやったことと同じだ。
剣だけではなく、どれほどの才を持てばここに至れるのか。
カンタータは電光の剣を巻き上げて叫ぶ。
「踊る鼓動の霹靂」
振動する電光の剣がいくつも分裂して、一斉に向かってくる。
さっきは獄花火で消し飛ばしたが、この数はさすがに無理だ。
例えば全部食らって“鳳凰”で復活するという方法はあるが、このあとオリエンヌとも戦うことを考えると温存しておきたい。
なら、ここはこれでいく。
「閻魔天」
全身が炎に包まれる。
しかし、温かな感覚。
俺は勝負を決めるべく、大太刀を振るった。




