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384.内乱の開幕

 ついに俺たちは騎士団の本拠地“天権宮メグレズのみや”に到着した。


 それなりに覚悟はしていた。

 騎士たちとの戦いになることを、だ。


 しかし、俺たちの前にある騎士団の本拠地はそれどころで無かった。


「しかし、こいつは……戦場じゃねえか」


 ロドリグが呟く。

 彼の言うとおり、城塞だったとおぼしき“天権宮”はそこらから煙があがり、壁は一部が崩れている。

 騎士たちの亡骸がいくつか転がっており、その顔には恐怖が張り付いている。

 天権宮の中からはまだ戦闘中らしき叫び声と、金属の衝突する音、爆発の音などが聞こえてくる。


「……死んでいるな」


 ギシラスが亡くなっている騎士の亡骸を見て、呟いた。


「……ああ」


 ゼルオーンが無表情で、ほとんど自動的に返事をする。


 この二人は霊帝騎士団の騎士である。

 霊帝騎士団に所属する者は全員が何らかの能力とそして“不死”を持っている。


 しかし、ここにいる騎士たちは亡くなっている。

 蘇生する様子もない。


 つまり、これは。


「オリエンヌ殿が亡くなったか、彼の持つ神器“魔の大釜”が失われたか」


「どちらにしろ、いい情報ではないな」


「騎士団に何が起こっている?」


 俺の問いにギシラスが答える。


「襲撃者、あるいは内乱だろうな」


 その言葉に反応するようにドンと鈍い音がして、建物の壁が弾けとぶ。

 そこから転がってきた人物に俺は見覚えがあった。

 その名を呼んだのはギシラスだ。


「アリア!大丈夫か!?」


 うう、と呻いた白い鎧の女騎士アリアはギシラスの顔を見てホッとしたような表情を見せた。


「ご無事でしたか」


「それがしは無事だ。一体何があった」


「その前にあれを退けねば!」


 壁をアリアごとぶち破ったのは、道化の仮面を顔に張り付けた巨漢だった。

 巨人ほど大きくないが、筋肉が肥大化し顔とのバランスが崩れて、見ていて気味が悪い。

 その道化の顔とのミスマッチさが、さらに不気味さを加速していた。


 道化の顔を見て、ギシラスが信じられない、というように叫んだ。


「まさか、クラウン殿か!?」


「ええ。あれは彼の成れの果てです」


 クラウンと呼ばれた道化の巨漢は、その体に見合わぬ速さで跳躍した。

 そのまま空中で拳を握り、落下の衝撃を加えた打撃を放つ。

 飛び退いた俺たちのいた場所に、拳が突き刺さり地面が陥没する。


「おいおい、騎士団の道化は脳筋系なのか?」


 俺の軽口に「そんなわけなかろう」とギシラスが反論する。


「クラウン殿は、能力“踊る人形”を持つ。これは分身を呼び出す能力と言われているが、それぞれクラウン殿と同じ肉体を持っている。増える前に倒すしかない!」


 とアリアが叫んだ。


 確かにその能力は危険だ。

 石の壁もぶっ壊すような奴が何体も出てきたら危険きわまりない。


 だが、隙だらけだ。

 その大振りの攻撃も、攻撃後の反撃があることを考慮していない動きも、なんなら移動の最中も。

 斬り込む機会はいくらでもある。


 そういえば騎士たちは不死だ。

 復活されることも考えて、細かく刻んでおこう。

 なにせ、胴を真っ二つにしたゼルオーンも時間をかければ復活できた。


 踏み込み。

 “獄炎華・朧偃月”を発動、爆炎を噴き出す大太刀で一気に斬る。

 下からの切り上げで腰から肩まで斜めに斬り、返す刀で左胴を入れ両断。

 さらにとどめで右肩から袈裟斬り。


 連続攻撃は全部決まり、道化のクラウンは崩れ落ちた。


「よし、クラウンは道化組とはいえ第一騎の実力はある。気を付けて……?……あれ?」


 ギシラスが気合いを入れるが、すでにクラウンは事切れていた。


「復活は……しないようだな」


「そうだな……って、いつの間に斬ったのだ!?」


「さっきだが……見えなかったか?」


 ギシラスがごくりと唾を飲んだ。

 そういえば、こいつとは立ち合っていなかった。

 俺と刃を交えていないと言うことは、俺の実力を知らないということだ。

 彼以外の面々は、アリアも含めてまあ、そうだろうな、という顔で見ている。


「まさか、本当にバラ・ゴリョウを倒したのか?」


 と、ギシラスはラビリスの剣士の名をあげた。

 ギシラス自身を除けば、ラビリスという国の中で最強であることは間違いない男だ。


「倒した。信じられないか?」


「今なら……信じられる」


「ま、まあ強者がこちら側というのは心強いことには違いない。追手が来る前にここを離れよう」


 とアリアが言った。

 敵地の真ん前でおしゃべりをしているのはマズイ。

 俺たちは城塞の外の宿舎らしい建物に隠れることにした。


「それで何があったのだ?」


 アリアとは仲間であったギシラスが聞く。


「団長が、いやオリエンヌが全騎士を召集したことが始まりだ」


 疲れたような顔でアリアが言う。

 メイローズにやってきて、ゼルオーンをボコボコにした時と比べると別人のようだ。


「全騎士を、か。それがしは呼ばれておらぬな」

 

「召集の目的は二つあった。一つはギシラス殿が巨人に敗れた、ということ」


 それはラビリスの大本営発表なので、公式な事実だ。

 真実は、まあ見ての通りギシラスはピンピンしていることでわかるだろう。


「もう一つは?」


「七つの北辰宮が全て攻略された、との知らせだった」


 北辰宮は、このイグドラール世界に七つある古代遺跡だ。

 騎士団はこの遺跡を攻略しようとしている。

 七つの遺跡を制覇すると時間を操ることができると言われているためだ。

 これによって、時間を十年前に巻き戻し、変貌を食い止めるという。


 だが、それはおそらくできない。

 時間を巻き戻すことはできるかもしれない。

 しかし、変貌はリヴィがイグドラールを受け継いだことで世界が変化したことで起こった。

 たとえ、時間を巻き戻しても、すでに変化した時間軸に戻るだけだ。


 それを騎士団は知らないのだろう。


「そうか……ついに」


「だが、私たちの望んだ答えをオリエンヌは口にしなかった」


 アリアのため息まじりの言葉が続く。


「彼は世界の変貌を解決する気はない、と言ったのだ」


 アリアたちほとんどの騎士団員は戸惑った。

 これまでの言葉と違う。

 変貌によって失われた過去を取り戻すために、騎士団は造られたのではないのか、と。

 詰め寄った騎士もいた。


 しかし、それらの騎士は一太刀で屠られてしまった。


「誰がやった?団長なのか?」


「いや、カンタータだ」


「青組第一騎“晴天の霹靂”カンタータ、か」


 大仰な名前である。

 騎士団はどうもそういった名前や二つ名をつける傾向にあるな。

 ちらりとゼルオーンを見る。


「なんだよ?」


 こいつは確か、異能組第三騎“破壊騎士”ゼルオーンだったか。

 そして、ギシラスを見る。


「どうした?」


 赤組第一騎“大紅蓮”ギシラス。

 うん。


 そしてアリアは。


「なにか?」


 白組第一騎“百戦錬磨”アリア。


 名前で能力が測りづらいのは利点なのか、不利なのか。


「それで、内部分裂まですぐ行ったのか?」


「カンタータを止めようと何人かの騎士が斬りかかったが、瞬時に斬り伏せられてしまった。まさか、あれほどの強さとは思わず」


「あの軽薄な男が……まさか」


 めちゃくちゃ強いのに隠していたパターンか。

 あまり相手にしたくないな。


「そして、オリエンヌは我々に歯向かうものは騎士としての能力を剥奪すると言った」


 能力は奪われ、不死性は暴走させられてしまう。

 能力は魂を参照して形作られる。

 ゆえに能力が奪われれば意志も奪われる。

 不死性は暴走し、肉体を変容させる。


 その結果が、さっき斬った道化のクラウンだ。

 意志なく他のものを襲うだけの巨漢。


「オリエンヌ殿は何を考えているのだ」


 とギシラスは天権宮を見た。

 その顔からは何も読み取れなかった。

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