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381.内乱の終わり、北からの脅威

「オルディン卿が?」


 ギシラスとバラを加えた俺たちは戦場へと向かっていた。

 すでに大君の降服は伝えられている。

 大君とギリアルの戦いは終わっている、はずなのだ。


 だがそこで軍を動かした者がいた。

 それがミノ領の主であり、ギリアルの支持者であったオルディンだった。

 後方、つまり味方から攻撃されたギリアルは戦場の中に消えた。

 死亡こそ確認されていないが、生存は厳しいのではとポーザが魔界雲雀で情報を伝えてくれる。


「バラ、ギリアルは次の、いやもうすでに大君だ。守ってやってくれ」


「御意。必ず、お救いもうす」


 ギシラスの頼みに力強く頷き、震閃組の残党を率いて戦場に突進していった。


 戦場は、その場にいる人数に比べて戦っている者の数は意外に少ない。

 それはオルディン卿のこの行動が突発的なものであり、他の領主たちとの連携が取れていないためだ。

 大君を倒したという混乱の中で、ギリアルを害す。

 オルディン卿の失敗は、大君敗北の報告を受けて戦闘が止まったタイミングでの襲撃を行ったことだ。

 これは非常に目立った。

 味方を襲うという行動は、それに値する理由がなければ非難され、同意を得ることが困難だ。

 普通はしない。


 要するに、完全に終戦したと思われた戦場でオルディン卿と震閃組(と俺たち)がなぜか戦い続けているという状態なのだ。


 わけがわからない、と言ってもいい。

 なので、大君側もギリアル側もその大多数が戦闘に参加せずに様子を見守っている。


「ギリアルを探せ」


「ギリアル様を見つけるんだ!」


 とギシラスと震閃組が戦場を駆けていく。


「なんで大君がギリアル様を探しているんだ!?」


 とオルディン卿の配下が混乱している。

 敵対していたはずの大君側の兵や、震閃組がギリアルを保護しようとしているからだ。


「バラ!ギシラス!オルディンの兵は相手にするな!まずはギリアルを救出する」


 震閃組の隊士がオルディン兵を相手にしつつ、倒れた者たちを確認していく。


「なんだ、あれは……わけがわからぬ」


 とオルディン卿も呆れたような声をもらす。

 彼は大君とギリアルの共倒れを狙い、今回の内乱を引き起こした。

 人並み以上に野心を持つ梟雄と呼んでもいい人物だ。

 そのまま新たな大君としてラビリスに君臨する気であったのは間違いない。


「お前は急ぎすぎたんだよ」


 俺はそのオルディンの前に姿を見せる。

 居丈高な印象は前のままだが、今は興奮しているからか息が荒い。


「貴様……!?……ギリアルの協力者か」


「大君は生きている。そして正式にギリアルに大君の位を譲渡している。いいか?お前のしたことは主君殺しだ」


「ギシラスが生きて、ギリアルに大君の位を譲っただと」


 オルディン卿はわなわなと震えている。

 戦場の混乱に乗じて大君親子を害して、戦乱終結の大功を持って自身が大君になる、という野望が崩れてしまったからだ。

 それどころか、大君殺しの罪で裁かれる可能性すら出てきた。


「諦めろ。ギリアルが生きていればまだ助かる可能性があるぞ」


「ふ、ふざけるな!私が大君だ。大君になるのだ!お前も、ギシラスも、ギリアルも今ここで倒してやる!」


 激昂したオルディンは刀を抜いた。

 そのまま突進してくる。

 貴族剣術を会得しているらしく、ぎこちなさはなく流れるような動きだ。


 だが、それだけだ。

 特筆するところはない。

 ほとんど動くことなく、刀を弾き、峯で叩くとオルディンは昏倒した。


 本格的な戦闘が始まる前に混乱は収束した。


 誰も彼も興奮していた。

 戦争の後の興奮。


 その興奮を一気に冷めさせる驚くべき知らせが届いた。


 生きていたギリアルも、ギシラスも、バラも、各軍を率いる武家貴族たちも、それを青ざめた顔で聞いた。


 巨人軍が攻めてきた、との知らせである。


 巨人との最後の戦いは約百年前のことだと言われる。

 巨人の王デイダラを倒したことに端を発するラビリスと巨人の戦いは何百年も続き、ようやく終わった。

 それから、人間たちは巨人の脅威を忘れていた。


 だが、人間たちの内乱に乗じたのか巨人たちは住みかである北の山々から降りてきた。


 ついさっきまで内乱で争っていた二つの軍は矛を納め、手を取り合うことを余儀なくされた。


 損傷が少なく、多くの人々が集まれる大君の本陣に各軍の代表者が集うことになった。


「巨人たちの意図はわからない。しかし、今我々が人間同士で戦いあっている場合ではない!」


 本陣でギリアルは居並ぶ諸侯の前で声をあげた。

 全身傷だらけだが、それが妙に威厳があるように見える。

 その後ろには後見役としてギシラスが、護衛としてバラが立っている。


 外敵の来襲によって国がまとまる例というのは枚挙に暇がないが、今回はもその法則でラビリスはまとまった。


 ここで、ギリアルが適切なリーダーシップを取ることができれば、彼のもとでラビリスはまともな国として生き残っていくことができるだろう。



「というわけで巨人軍に会いに行きましょう」


 今後の対応を話し合うギリアルらとは別に、俺たちは集まっていた。

 ゼルオーン、ミスルトゥ、ロドリグ、ゴブリア、ゴブール、ポーザ、そして俺だ。

 ポーザの号令で集められた俺たちは、ギリアルたちとは別に今後どう動くかを決めなければならない。


 ギリアルからの“大君を倒す”という依頼はある意味では達成されたからだ。


 巨人軍の意図は分からないが、このままラビリスを出て霊帝騎士団のところへ行くというのはどうも不義理な気がする。


 そう思っていたところにポーザの先の発言だった。


「会いに行く?」


「そうだよ」


「巨人はラビリスを攻めてきたんじゃないのか?」


「違うよ」


「なぜ、それがわかる?」


「この国の巨人はね。もう人間たちとかかわりあいになりたくないから百年かけて移動する準備をしていたんだ」


「移動の準備……」


「元々、このラビリスは巨人のものだった。でもラビリス人たちがやってきて奪い取ってしまった。何百年も取り返そうとしたけど、巨人たちは疲れてしまったんだね」


「向こうの巨人たちとはずいぶん違うんだな」


 俺の知る魔界の巨人たちは、勇猛かつ強靭な戦士の集団だった。

 魔王軍と激戦を繰り広げた歴史があり、俺自身もその戦いの後の小競り合いに関わったこともある。


「そうだね。環境の違い、気質の違いっていうのもあるけど、戦士系の巨人たちはみんな倒されてしまったっぽいからね」


 確かに何百年も戦っていればそうもなろう。

 戦闘によって仲間たちがどんどん死んでしまえば、戦争そのものに忌避感を持つのも当然だ。


「だがなぜ急に移動を始めた?それもラビリス人にわざわざ見えるように」


「リーダーはさ。リオニアスのリヴィエールちゃんの家に戻る気はないんでしょ?」


 なんの話だ?


「戻れるなら戻りたいさ」


「うんうん。でも、そこに無人だからといって見も知らぬ誰かが勝手に住み着くのは嫌だよね?」


「嫌だな」


 あの家にはたくさんの思い出がある。

 そして、それ以上にリヴィもたくさんの思い出を持っているはずだ。

 そこを誰かに踏み荒らされると考えるだけで嫌な気分になる。


「巨人たちも同じなんだよ」


「いなくなるとはいえ、あの北の山々は巨人にとっての家、思い出がたくさん詰まった場所か」


「そういうこと。だから巨人たちは最後に人間に自分たちが脅威だと思わせた上で移動することにした」


「だが急にそういう考えにはならないだろ?戦争を忌避するような奴らなら特に」


「うん。これはイアペトスさんの考えなんだよ」


「うん?」


 その名前はどこかで聞いたことがあった気がした。

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