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38.新しい仲間と顔を合わせたら微妙な顔をされた

「松明と油紙は買ったか?」


「はい。海ですから、濡れないように油紙は必須ですよね」


「師匠、食料はどうする?」


「乾物を二日分、生物はあまり持っていかないようにする」


 食料は依頼主である水運ギルド持ちだ。

 船に冒険者四人分の余剰くらい積めるだろう。


 それにしても、と俺はリヴィとバルカーの様子を見る。

 昨夜帰って来たリヴィは疲れきっていたし、バルカーはポーザのことを見て失神したらしい。

 何か、をやってきたことはわかる。

 まあ、俺に内緒にしたいこともあるだろう、と聞かないでおく。

 それに勝手な行動をしたのは俺も同じだった。


 ポーザをパーティに加えると言った時の二人の微妙な顔。

 まあ、どちらも直接“メルティリア”と戦闘していない分、拒否反応は少なかった。


 そして、四人でややギクシャクしながら、買い物に来たのだ。


「リーダー、なんかボク、嫌われてる?」


 とポーザがひそひそと聞いてくる。


「いや、どう扱っていいのか、戸惑ってるんだろ」


「リーダーって、そういうの気にしない?」


「気にしてたら、暗黒騎士から冒険者に転職してない」


「……それも、そうか」


 と納得した顔のポーザ。


「ギアさん、買い物はこれくらいでいいですか?」


 なぜか、ギアさん、とそこだけ強調してリヴィが俺の右腕を取る。

 ポーザと俺の間に割り込むような形だ。


「すげえ、リヴィエール。ナチュラルにポジションを取りやがった」


 とかなんとか、バルカーが呟いている。


「うん、これでいいだろう。支払いは足りたか?」


 一応、パーティの貯金からいくらか持ってきていた。

 なぜか、ティオリールから報酬が出ていたので余裕はある。


「はい、余るくらいでしたよ」


「ああ、そうだ。リーダー、ボクも冒険でちゃんと活躍するから、今の分は貸しにしてほしいな」


 ポーザが俺の左腕を取る。

 いつの間に移動した?


「気にするな。パーティに誘ったのは俺だ。冒険が軌道に乗るまでは負担は請け負うさ」


 ビキッと右腕に力が入る。

 そう、ポーザを俺がパーティに誘ったと発言したあたりでだ。


「へえ、ポーザさんはギアさんに誘われたんですか?」


「そうだよ。ボクの力を必要としてくれてるってことだよね?」


 左腕にもバキッと力が込められる。

 両腕を極められて、身動きが取れない。


 助けを求めるようにバルカーを見ると、光速で目をそらした。

 かかわりたくない、という態度がその動きに現れている。


「ギアさんの隣にはわたしがいますので、ポーザさんは後衛をしっかりとお願いしますね?」


「遠慮せずとも魔法使いは後衛にいればいい。ボクは魔物での力を借りられるから前衛もこなせる。リーダーの隣でね」


「そんな無理しなくていいんですよ、ポーザさん」


「大丈夫ですって、リヴィエールちゃん」


 二人の少女に挟まれ、苦笑いをする俺。

 そして、その後ろを荷物を両手についてくるバルカー。

 これが、“ドアーズ”の日常風景……になったら嫌だな。


「あ!あ!?おれたちのリヴィエールちゃんの他に!?」

「バカな!二人目!?」

「なんでおれたちはモテないのに奴だけ!」

「ハアハア、リヴィエールちゃん、ハアハア」


 と、いつもの冒険者たちに目撃され、妙な噂が拡がりはじめたのを俺は知らなかった。


 とりあえず買い物を終え、荷物の支度をするためにリヴィの家に集まる。

 女子二人は大事な話し合いがあるから、とリヴィの部屋に行った。

 俺とバルカーは居間で荷物詰めだ。


「いや、すごいッスね師匠」


「女子のことか?」


「いや、師匠のことです」


「なにが、だ?」


「強いうえに女の子に優しいなんて完璧じゃないでスか」


「……いや、リヴィはともかく、ポーザは成り行きだ」


「成り行きであんなに……なつかれるなんてありえない、と思うんですけど」


「と言ってもなあ」


「俺も、師匠や“黄金”やラウ師くらい強かったら……」


「落ち着け。俺は別として、“黄金”とかの英雄とやらはスタート地点から違う。追い付こうとは思わないほうがいい」


「俺は、俺はもっと強くなりたいんです、師匠!」


 それは、いつもと違って真剣な顔だった。


「俺はお前の師匠になったつもりはないんだがな。一つ聞くぞ。お前にとって強さとはなんだ?」


「強さ……それは、誰にも負けない力」


「よし、ならばその先を考えろ。誰にも負けず、勝ち続けて、そしてどうなる?」


「え?」


 バルカーは予想もしていない問いを返され狼狽する。


「孤独の廃墟。それが誰にも負けず、の最後だ。それは本当にお前が欲しいものか?」


 勝って、勝って勝ち続けて、全てを倒したら、そこには自分しかいない。

 誰もいない、壊れた世界。


「い、いいえ。違います。それは……違うッス」


「強さの答えは一つじゃない。今はまだ答えを出さなくてもいいし、とりあえず誰にも負けずを目指してもいい」


 それに、と俺は口には出さないが誰かがバルカーのことを手助けしてくれていることを悟っていた。

 “成長促進”の効果がバルカーの身体にかけられ、彼の修行を底上げしている。

 確かに、今のバルカーは三級冒険者の平均の強さだ。

 俺や英雄のような規格外の強さには程遠い。

 しかし、バルカーの年にしては強いことは確かなのだ。

 “メルティリア”や“アンラックド”のようなリオニアスの最強を競っていた奴らがいなくなって、そのあとたった一人、自称とはいえ最強の気概を持っていた男だ。

 上を目指すのは悪いことではない、しかし焦ってよじ登ってはいけないのだ。

 それを、バルカーには悟ってほしいと俺は思っている。


「師匠は、ギアさんはどうしてそんなに強いんスか?」


「……俺はな、ただ長く生きてその分だけ他の奴よりちょびっと上回っただけなんだ」


「え?師匠、いくつでしたっけ?」


 そう言えば年のことはリヴィにしか言ってなかった。


「俺が雑種ハーフの魔人だって言ったっけか」


「いい!?聞いてないッスよ」


「まあ、ほとんど人間と変わらんよ。もし通報するならしてもいいが、リヴィ以外は許さん」


「うわぁ、リヴィエール愛されてるなあ。師匠を官権に引き渡すなんてしませんよ」


「んで、純血の魔人は不死だ。加齢で死なない。俺は半分人間混じりだから死ぬ。ただし寿命は長い。いくつまで生きれるかは知らんが今は百六十八だ」


「168!?うええ、なんかすごいス。想像の斜め上だった……」


「人間がたとえば五十年かけて到達する境地があるなら、俺はそれに百年費やした。謂わば時間的なズルをしたというわけだな」


「でも、師匠が強いのは事実ですよ。それに時間が長いのも、ある意味才能というか」


「才能か。俺の見立てだとな。お前の才能は俺を超えている。それは間違いない。ひょっとしたら、勇者パーティの武道家“碧木”に迫るかもしれんぞ」


 と、俺は笑うが、バルカーの顔はひきつっていた。

 うむ、あまり軽々しく勇者パーティのことを口にするべきではないな。

 こいつらにとっては救世の英雄なわけだし。


「いやいやいや、俺なんてそんなんじゃないッス」


「鍛えてみなきゃわからんだろ」


「それはそうスけど」


「ああ、忘れてた。バルカー・カルザック……すまなかった」


「な、なんスか!?いきなり」


「俺と、お前たちの親を殺した奴は同じ魔王軍の者だ。俺自身の責というわけではないが、同胞の犯した罪、謝っておく。それで許されるとは思っていない」


「ちょ、止めてください師匠!いや、確かに俺の親父は殺されましたよ。でもそれはあの魔獣の軍団の仕業でしょ?師匠のせいじゃないっスよ」


「わかった。ならもうこの話はしない」


「師匠に頭下げられると心臓に悪いッス」


 本当に気にしていないのか、バルカーは俺を咎めることはしなかった。

 いつの間にか、俺の中にあったリオニアスの人々への申し訳なさ。

 それはつまり、ここの人々のことを近しい者として見ているからだろう。

 単なる隣人から家族、仲間とまで言えるような。


 そして、女子二名は休戦協定を結んだ、と後から報告があった。



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