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377.次期大君

「リーダー、こっち!」


 俺を呼ぶ声がした。

 しかも、これは懐かしい呼び方だ。


 というか、見たことのある顔だ。


「ポーザ……か?」


 他人の空似にしては似すぎている。

 だが、ここは異世界だ。

 異世界のはずだ。


「説明は後からするから!」


「お、おう」


 仲間たちに目配せして、俺はポーザの後について走りだした。



 震閃組の隊士のだんだら羽織が街中を走り回っている。


「おうおう、走っておるわ三下どもめ」


 窓から外を眺めていた青年が楽しげに笑った。

 ポーザに連れてこられた俺は、このアシカワの街の民家に隠れていた。

 その民家にいたのが、この怪しげな青年である。


「人が苦労しているのが楽しいのか?」


「いや、普段こちらを小バカにしている奴らが苦労しているのが楽しいのだ」


「……そうか」


「貴公、ゴリョウを倒したそうだな?」


「この国では有名人らしいな」


「ラビリスの誇る最強の武人だ」


「最強の武人でも、大君の私設憲兵の副長でしかないのか?」


「彼はな、農奴の出身なのだ。奴隷身分から這い上がり、剣の才覚だけで大君の私設憲兵の副長にまで登り詰めた。おそらくはもっと上を行く」


 聞いたような話だ。

 おそらくは俺より才能があって、俺より努力したのだろう。

 俺は百六十年あまりをかけてようやく魔王になった程度でしかない。


 今の時点では俺が上だった。

 それだけでしかない。


「震閃組は嫌いでも、ゴリョウは好きか?」


 青年はくっくと笑う。


「私の代にはもっと強くなっているであろう?それが我が手に入るのなら好感も持てよう」


「次の権力というのは簡単には手に入らない。誰もが狙っているからな」


「それは知っている。だからこそ公の継承者という肩書きは重要なものとなる」


「ギリアル・ラビリス。次期大君か」


 そう、ポーザを使って俺たちを招き寄せたのがこの青年、次の大君の可能性が一番高い男、ギリアルだった。


「貴公らとは利害が一致する」


「話次第だ」


 利害が一致しようが、考えが一致しなければ長い関係にはならない。


「私の父親はこの国の大君だが、その他に霊帝騎士団赤組第一騎“大紅蓮”ギシラスという肩書きを持っている」


「めちゃくちゃ関係者じゃねえか!」


「言うたであろう?利害は一致する」


「……霊帝騎士団は、十年前の変貌の前を覚えている奴らのはずだ。そして、現状に不満を抱いている。違うのか?」


「父親は確かに十年前に変わった。自分は天竜帝国の煌子だったと言い始めた」


「確か、東方の、この国のもとになった大帝国だったか?」


「そうだ。だがしかし、そんなことはあり得ない。ラビリスと天竜帝国は数百年以上没交渉なのだし、だから父親がおかしくなったと思ったのだよ」


「そりゃあなあ」


 確かに十年前に世界は変わった。

 しかし、変わった後の世界は変わる前を覚えていない。

 ゆえに、覚えている人々の話は妄言にしか聞こえないのだ。

 ギリアルは父親がおかしくなったと思った。

 だが、父親からしてみれば己以外の全てがおかしくなったのだ。


「それから父親はオリエンヌという男に傾倒した。領地を、活動資金を、人員を与えて、自ら騎士団に参加した。ラビリスの国政が傾きつつあっても、だ」


 見知らぬ世界の見知らぬ国など、彼にとって何の意味も無かったのだろう。

 元の世界、彼にとってそれだけが大事だった。


「で、霊帝騎士団と対峙する俺たちを引き込んで、あんたは何がしたい?」


「決まってる。父親を、大君ギシラスを倒すのさ」


「父親でも、か?」


「国に仇なすなら、父親とて、君主とて倒さねばならぬ。それが為政者というものだ」


「俺に何をさせたい?」


「大君の排斥に対する群臣たちの意見は一致している。強権的な君主はみな嫌がる。私はそれを十年かけて取りまとめてきた。国のほうで障害はない。貴公にはそれ以外、つまり霊帝騎士団を相手にしてほしい」


「なるほど、利害の一致、か」


「受けてくれるか?」


「俺たちはこの国では反乱罪に問われているらしいな?」


「らしいね」


「外を出歩けば捕まるわけだ」


「まあ、そうなるな」


「他に道は無い、とでも言いたいのか?」


「他に道はある、と?」


 ギリアルの余裕の表情。

 普通に考えればこの男に協力しなければ、俺たちはこの国で活動できない。


 だが。


「ああ。この国まとめて沈めてやる、という手段もある」


 面倒ごとに首を突っ込むのはもう性分だ。

 だが、向こうから吹っ掛けられるのは正直イライラする。

 だから、まとめて全部潰すのが手っ取り早い。

 幸い、俺にはその力がある。


「ほ、本気か?」


「俺はバラ・ゴリョウを倒している。意味がわかるか?お前らの最強の手駒でも俺には敵わないってことを」


 ゆっくりと、しかしギリアルに確実に伝わるような殺気を滲み出していく。

 じわじわと、目の前にいるのが罠に嵌められて困ったタヌキではなく、怒り狂っているドラゴンだと教えるように。


「リーダー、王子様、お話すみました?」


 と、部屋に入ってきたポーザの顔色が変わる。

 一触即発!?と叫んでいる。


 あわてて俺のことを止めるように頭をぐわんぐわんと振り回される。


「お、おい」


「落ち着いて、リーダー!リヴィエールちゃんと離ればなれでイライラするのはわかるけど、他の人に当たらない!」


「違う。そうじゃない」


「それならいいけど。王子様がなんか怒らせること言いました?」


「け、結果的には、そうなってしまった、かな」


 ひきつった顔でギリアルが俺たちを見ている。


「気をつけてくださいよ?このギアって人は本当に怒らせてはいけないんですから」


「き、肝に命じよう」


「おい、ポーザ。ギリアルとの話は終わりだ。協力すれば良いのだろ?」


「そうそう。この国では少なくとも味方なんだから、あんまりいじめないでよ」


「それはもういい。後は、お前の話だ」


「うんうん。ボクもそれをそろそろ話そうと思ってさ」


「わ、私は外した方がいいな。群臣との打ち合わせもあるし」


 と、あわててギリアルは立ち上がり、部屋から出ていった。


「王子様ってやっぱり忙しいんでしょうね」


「そうなのだろ。現状について意見のすり合わせをしたい、こちらでの俺の仲間も呼ぶぞ?」


「いいけど、その人たちは知ってるの?」


「俺が異世界人だとは話している」


「そうなんだ。なら、いいかな」


「ゴブリア、話は聞いていたな?みなを呼んでくれ」


「御意」


 と、ゴブリアが動き去った気配がした。

 あまりにも見事な隠形にポーザが普通に驚いた。


「え……あれ、なに?」


「仲間だ」


「さすがリーダー、としか言いようがない……」


 やがて、別室にいた仲間たちがやってきた。


 ゴブリンの赤帽子であるゴブリアとゴブール。

 霊帝騎士団から実質的に抜けることになったゼルオーン。

 スケルトン・ウォリアーのロドリグ。

 エルフの“宿り木”ミスルトゥ。


「個性的なメンバー……」


 とポーザが呟いている。


「待たせたな。これからの方針が決まったのと、ここにいる俺の元の世界でのパーティメンバーの話を聞こうと思ってみなを呼びつけた」


「元の世界……彼女も世界を超えてきた者……」


「まずは自己紹介するね。ボクはポーザ、職業は魔物操士。契約した魔物を呼び出して使役することができる。そして、誤解がないように言っておくとボクは厳密には世界を渡っていないんだ」


 全員がポーザに興味を持ったところで、話がはじまった。


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