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365.メイローズ王宮にて

 都市としての幻影のゴーレンがようやく完成した。

 魔力をミスルトゥに渡して造り上げられた幻影は、完成度が高い。

 かなり接近してもそれが幻影とはわからない。


「これで準備が整ったというわけだ」


 ゼルオーンが楽しげに言った。


「そうだ。早速メイローズ王都へ向かう。ゴブリンたちの仕込みはできているらしいからな」


 俺たちの背後にはボルフェティノ商会から買った奴隷たちが、兵士の格好をして待機している。

 いや、彼らは奴隷ではあるが正式にこの都市ゴーレンに所属する兵士である。

 書類もいじって、彼らの奴隷身分を無くし平民として生きられるようにしてある。

 彼らにはまだ知らせてはいないが、いずれ教えておこう。


 ついさきほどまで存在しなかった都市ゴーレン。

 その領主として、俺はメイローズに乗り込む。


 メイローズ王都の城門で当然のごとく俺たちは止められた。


「ゴーレンから来た?あそこは幽霊の出る廃地だ。あんなところに都市なんかあるわけがない」


「それは貴殿の意見かね?それともメイローズとしての公式見解かな?」


 俺は衛兵にそう言った。

 この程度の拒絶は想定済みだ。


「なんだって?」


「メイローズ王国法領主貴族の項四条の三、理由なく貴族の王都への出入を止めるべからず、とある。そして、俺はゴーレンの領主を名乗り、通行許可証(偽造)を見せている。君はそれでも止めるのか?」


「し、しかしゴーレンに都市があるなどと聞いたことが……」


「お、おい」


 対応していた衛兵とは別の衛兵がやってきた。

 その手には地図と貴族の名称表を持っている。

 庶民はなかなか貴族がどのくらいいて、どこに領土を持っているか知らないものだ。

 衛兵はそれでは勤まらないので、ああいうもので勉強するのだろう。

 もちろん、あれも書き換わっている。


 それを見せられた衛兵1は顔面が真っ青になった。

 血の気が引きすぎて、真っ白に近い。


「し、失礼いたしました。私の知見が不足しておりましたッ」


「ほう?ゴーレンなどというものは存在していない、と君は言っていたな?」


「い、いえ。私が……」


「はっはっは。なに誤解が解ければよいのだ。長年、王宮に参内しなかった私にも非があるのだ。さて、陛下をお待たせしては悪い。通してくれるかな?」


「ど、どうぞ!」


 という感じで城門は開けられ、ゴーレン一行は中に入った。


「口八丁とはこのことだな」


 城門が見えなくなったころ、ゼルオーンが俺にそう囁いた。


「何がだ?」


「可哀想な衛兵さんは今もぶるぶると震えているだろう」


「勉強不足がいかんのさ。たとえ昨日今日増えた都市だとしてもな」


「ゴーレン太守は恐ろしいねえ」


 やがて、俺たちは王宮に入り「ゴーレンの領主が謁見しに来た」と伝えさせた。


 その情報が伝わると王宮内は騒ぎになった。

 今まで見たことも聞いたこともない都市の領主が現れたのだ。

 しかも、それが存在する都市だということはどんな資料にも記してあった。

 税に関する資料にも、歴史書にも、きっちりとだ。


 しばらく待たされて、俺たちは中に案内された。

 ただし、護衛は一人まで、武器は預けること、という条件が付けられた。

 まあ、それはある意味当然だし、正直武器が無くても王宮を制圧できる。


「ミスルトゥ、来い」


「あら、わたくしでございますか?」


「ああ。ゼルオーンには兵士たちを見てもらわなきゃならんからな」


「別に俺が見てなくても反乱なんかしないと思うぜ」


 と、ゼルオーンが言った。

 まあ、こんなある意味敵地のど真ん中で反乱なんかしないだろうけど、念には念を入れて、だ。



 ギアは知らないことだったが、このゴーレン都市軍となった戦闘奴隷たちはギアに心酔していた。

 戦闘訓練を兼ねて、入手した能力のチェックをしたのだが、五百人を相手に互角どころか上回る戦力のギアにみな惚れてしまった。

 私財をはたいて自分達を買ってくれた、ということも知れ渡り、さらにもともとこの世界のギアへの好感度が高いこともあって、心酔というところまで行ってしまったのだ。

 なので、彼らが裏切ったりすることはありえない。



 美形のエルフであるミスルトゥを従えて、王宮を進む俺に廷臣や使用人たちの目が止まる。


「注目されてますわね」


「お前に見とれてるんだろ」


「ゴーレンの領主様に興味津々なのでは?」


「それならそれで面白いかもしれんがな」


 そんな俺たちの前に偉そうな男が一人現れた。


「これはこれは噂の幽霊ゴーレン都市の領主殿ではないか。メイローズの王宮は広い。迷子になっておるのではないかね?」


 くっくっく、とこちらを馬鹿にするような態度の貴族だ。


 事前に調べた情報によると、おそらくこいつは王国西部にある中都市ヤッハルの領主のヤードニア伯爵だろう。

 年は三十手前だが独身、そこまでは覚えている。


「そうですな。ヤッハルあたりと違って王宮内の装飾など目の保養となりますゆえ、ゆっくりと歩いておりました」


「ヤッハルあたりがなんだと?」


「ええ風光明媚とは名ばかりの田舎町ですからね。そんな都市とはまったく違うでしょう」


「名ばかりの田舎町、だと!?」


 自らの領地を貶されて、ヤードニアは怒った。

 憤怒の表情を浮かべて、今にも拳を俺にふるおうとしている。


 しかし、その拳がふるわれることはなかった。


 ヤードニアの後ろから屈強な男が二の腕を掴んでいる。

 攻撃を止められて、ヤードニアは怒りのままその男を見る。

 そして、絶句した。

 その男に、ではなく、男の後ろにいる人物に、だ。


「王宮内で攻撃をするなかれ。貴族としての最低限のたしなみだぞ、ヤードニア伯」


 静かに笑みを浮かべ、しかし有無を言わさぬ口調。

 年の頃は二十後半、金髪に同じ金の瞳。

 端正な顔立ち。

 若くして一つの派閥を取り纏めているほどの才知。

 その名は。


「ライルール候……」


 とヤードニアは口にした。

 その呼び方には畏怖と恐怖が含まれている。


 ライルール侯爵は、メイローズ王国の西部における中心都市ゲフナの領主だ。

 その領内には豊かな穀倉地帯、金鉱山が含まれ、ゲフナも商業都市として名高い。

 侯爵も、幼年期に王都で王候貴族のための学校に通っており、そこで現在の王子マクラーレンと友人となっている。

 人脈、地位、領地の豊かさ、全てを兼ね備えているのだ。

 そして、マクラーレン王子を次代の王とするべく、王子派閥を形成している。

 ヤードニア伯もその王子派閥の一員であり、ライルールの護衛に腕を掴まれていても振りほどかないのは、それだけライルールを恐れているから、だった。


「こら、ケイディ。ヤードニア伯が痛がっているだろう。手を離してやってくれ」


 ケイディと呼ばれた屈強な男はヤードニアの腕を離した。

 のそりと動いてライルールの後ろに立つ。


「これはライルール候……不様なところをお見せしました」


「ヤードニア伯。私はこのゴーレンの領主と話がしたいのでね。もし、領地経営で相談があるなら後で聞こう。今は無理だが」


「い、いえ。侯爵のお手を煩わせるわけには参りません。ここでお暇させていただきます」


 と出てきたばかりのヤードニアは逃げるようにここを離れていった。


「やれやれ、もっと気概があればヤッハルも発展するだろうにね。そう思わないかね?無爵無官のゴーレン領主殿」


 その口調はヤードニア以上に嫌みな感じだった。


 俺は笑顔を見せながら言った。


「黙れ」


 と。

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