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361.獣の遠吠え

 本体のロドリグが倒されたことで、骨騎団は壊滅した。


「驚嘆。まさか本当に一夜で虚ろの兵団と骨騎団を倒すとは」


「さて、と。お前の本当の目的を教えてくれないか。インガス」


 骸魔導師の顔が笑みを浮かべた。


「驚異。我輩の目的とはなんのことであろうか」

 

「例えばそうだな。骨騎団がメイローズの陣地跡に隠し持っていた“獣の遠吠え”を確保すること、とか?」


「不可思議。それを我輩は誰にも喋ってはおらぬが」


「そもそも、お前らが長年争っていたのはそのためだろう?戦闘本能だけで何十年と妄執が続くわけはないからな」


「妄執?我輩はせっかく骸魔導師になれたのだから、その兵器を手に入れてさらなる高位の存在を目指そうとしただけである」


「さて、それがそんなに出来のいい代物ならいいがな」


 その時だった。

 どこからか、何か唸るような音が聞こえた。


「聴覚!今のは」


「前兆の前兆といったところか」


「絶叫。あれは遠吠えなどではなく、叫びである」


「そんなことはどうでもいい。来るぞ」


 メイローズの陣地跡を二分する堀から何かが飛び出した。

 それは虎のような獅子のような、しかし全身を鉄や錆びた金属で構成した獣だった。

 この世界にはない言葉で言うなら“機械”だ。


「不理解!これは一体!」


「インガス、ゴブリア、ゴブールやるぞ!」


「「御意」」


「了解。我輩も参戦しよう」


 その動きはまさに猫科の動物のそれだった。

 跳び跳ね、引っ掻き、噛みついてくる。

 ただその巨体とバネやゼンマイなどで構成された想像以上の威力が厳しい。


 その力は俺と拮抗している。

 俺は朧偃月を振るいながら、機械の獣の攻撃を抑え込む。

 動きの止まった獣に二人の赤帽子が攻撃を加えていく。

 インガスは意外なことに“土魔法”の使い手であった。

 地面を緩ませ、機械の獣の足をとったり、土の塊をぶつけてダメージを与えたりと、攻守に使える魔法だ。


 彼の故国であるダンジオン王国は、魔法で陣地を構築することを得意としていたらしい。

 そのため、彼のような土魔法使いが多かった。

 死後、骸魔導師になったため、魔力も魔法制御力も上昇したインガスは魔人の平均値に近いレベルにまで達していた。


 だが、まだ決め手が足りない。


 機械の獣は速く、そして重い。

 “閻魔天”状態かつ“獄炎華・朧偃月”でようやく防げるレベルだ。

 攻撃を防げば腕かジィンと痺れるし、突進を体当たりで防げばぶつかった肩から足にかけて体が軋む。


 だいたいなんだよ、この世界は!

 どいつもこいつも、強すぎるんだよ!

 俺だって向こうでは“魔王”だぞ?

 魔界ではトップクラスだし、人間界でも勇者に勝ってる。

 強い部類にいる、はずなんだがなあ。

 “焦熱”のソーラアには追い詰められるし、“破壊騎士”ゼルオーンは死なないし、エルフは不気味なほど強いし、そしてこいつは単純に強い。

 要は苦戦続きで、疲れがたまっているだけだ。

 そう判断する。

 まあ判断しようが戦闘中なのは変わらない。


 俺とインガスでようやくダメージをくらうのを阻止している感じだ。

 赤帽子たちも的確にダメージを与えてはいる。

 だが、決め手に欠ける。


 拮抗状態が続く。

 そして、そんな時に一手間違えてガタガタと崩れてしまうことは俺も何度か経験がある。


 そう、インガスの仕掛けた土魔法の罠に機械の獣が慣れはじめて回避され、パターン外の行動にゴブールがテンパり攻撃を外し、それに連係しようとしていたゴブリアも攻撃を外した時。

 ほぼ全力で右前足を振り下ろされて俺が防御するも、獣が後ろ足で立ち上がり左前足で殴ってきた今とかだ。


「これは、マズいか!?」


 “獄炎華・朧偃月”は全力噴出で右前足を押し上げているため、左足は防げない。

 もし、この身に“暗黒鱗鎧アビススケイル”か魔王の力があったなら、物理攻撃の直撃でも耐えられるだろう。

 しかし、無いものは言っても仕方ない。

 腕の一本も覚悟するか。


 と、決意した時。


 俺に迫ってきていた機械の獣の腕が回転する剣に斬り飛ばされた。


「ヒャッッッハー!!!」


 という雄叫びとともに。

 雄叫び?

 なんというかあふれでる感情をそのまま叫びだしたような声。


 夜空に舞い上がったのは骸骨だった。


「解き放たれた俺はライフイズオーバー!夜が俺に暴れろとささやいているッ!」


 なんか叫んでいる。

 というか、見たことのある鎧を着ているんだが。


「怪奇!まさか、まさか、ロドリグなのか!?」


 とインガスが驚いている。


 ロドリグ?

 さっき俺が燃やした?

 そう言われると全身からぶすぶすと煙が出ている。


 え?

 ゾンビを燃やしたからスケルトンになって復活したってことか?


「そのトウリッ!闇の炎によってアンデッドとして浄火された俺は、スケルトンウォリアーとして三回目の生を受けたんだゼ」


「なんか、性格変わってないか?」


「陽気。我輩の知るロドリグとはまったく違いますな」


 さて、ロドリグに腕をぶった切られた機械の獣はバランスを崩し、さらに俺が前足を押し上げたことでゴロリと転がった。


「ヒャッッッハー!!俺様に腹を見せるとは可愛いネコちゃんだぜ。おらよっと」


 舞い上がった空から、スケルトンのロドリグはぐるっと回転した。

 そのままぐるぐると落ちていき、機械の獣の腹部を切り裂いていく。

 吹き出すのは褐色の液体。

 血ではなく油のようだ。

 体内で油が流れるのか、それでどうやって動いているのだろう。


 ギシギシと古い金属が軋むような音をたてながら機械の獣はのたうち回った。


「さあ、御大将、あんたの出番だ。この夜の戦いをバシッと決めてくれや!」


 獣の腹の中から聞こえた声。

 と、ともに獣はドンっという重い衝撃とともに宙に浮いた。

 無防備なその姿は確かに好機。


 ダッと駆け寄り、俺は獄炎華・朧偃月を鋭く一閃。


 機械の獣の頚部に断裂。

 そして機械の頭部がゆっくりとずり落ち地面に転がる。

 そして、そのまま動きを止めた。

 それで終わりだった。


「終わった、か?」


 俺の身にまとわりついていた“閻魔天ヤマラージャ”の炎が消えていった。

 次の瞬間、ひざをつきそうになるほど疲労が襲ってきた。

 やはり、これは体力を大きく消費する。


 動けない俺を置き去りにインガスが機械の獣へ駆け寄った。


「好機!見つけた。見つけたぞ」


 獣の頭をごそごそあさっていたインガスはやがて、両の手で掴める大きさの球体を取り出した。


「おい、インガス!」


「入手。我輩はついに“獣の遠吠え”を手に入れた」


「その珠が、か?」


「正答!これこそが全てに死を与え、アンデッドとして復活させる秘宝ぞ。これを使って我輩は更なる力を得る」


「まさか、ここで使う気か!?」


「試行。何事も試して見ねばなるまい?さあ、手始めにギア殿。アンデッドとなり我輩の尖兵となるのだ」


「止めろ」


「不止。もう遅い。さあ、“獣の遠吠え”よ、その真の力を示せ」


 インガスが魔力を注ぐと、鈍色だった珠が輝き始めた。


 そして、吠えた。


 ウルオオオオオオオオオオオオオン。


 と言う遠吠えは、ゴーレン平野に響き渡った。


 その遠吠えが止まった時、そこにはインガスはいなかった。

 彼がいた位置には輝きを失った“獣の遠吠え”の珠が転がっていただけだった。

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