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360.骨騎団との戦い

「もう一度聞く。俺と戦うのか?」


「ええ。私の立場は勝利でのみ維持できる。戦わずして従うことはできない」


 ロドリグは手にした剣をクルクルと回し、その回転を静かに押さえて構えた。


「……お前は死にたいのか」


「既に死んでいます。ふふふ、わかってますよ。あなたの言いたいことは。確かに私は疲れたのです。人を率いることに、戦うことに、死にながら存在することに」


「そうか。なら、楽しい楽しい戦いに引きずり込んでやろう」


 俺は朧偃月を抜いて斬りかかかった。

 その上段からの攻撃を、ロドリグは剣で受け、そして円を描くように受け流す。


「ふふふ。確かに私は疲れています。けれどもやすやすとやられるとは思わないでいただきたい」


 受け流された俺の大太刀はあらぬ方向へ流され、その隙にロドリグは剣を振るう。

 その攻撃は受け流しから、流れるような円を描き、勢いを増しながらこちらへ向かってくる。


 俺はその剣を拳に魔力を集中させる“暗黒拳ダークナックル”で防ぐ。

 本来は攻撃力を上昇させる魔法だが、防御にも有効だ。

 少なくとも、今は。


「そうやって歯を剥いた肉食動物のような顔の方が似合っているぜ」


 暗黒拳で弾いた剣をロドリグが引き戻すうちに、俺は朧偃月を握り、突きを放つ。

 とたんにロドリグの剣が縦回転し、俺の突きを弾き飛ばす。

 弾いた勢いのまま、縦に一回転した剣は下方向からの振り上げとなって俺に向かってくる。


 攻撃を弾かれたばかりの俺はその斬撃をバックステップで回避、するもロドリグは剣の柄から手を離した。

 剣は一直線に俺に向かい、回避行動中で硬直していた俺の胸元へ吸い込まれるように突きささる、前に剣を蹴りあげて攻撃を回避する。

 だが無茶な動きのせいで、ロクに受身も取れずに地面をゴロゴロと転がるはめになった。


「これでも王国の一軍を武威でもって預かった身だ。剣技には自信がある」


 転がりつつもなんとか姿勢を整え、俺は再度構えをとる。


「回転を利用した剣術。見たことのないものだった」


「そうだろうとも。私の独自の剣術だからな」


「だが見切った」


「何?」


 いぶかしむロドリグに、俺は斬りかかった。

 ロドリグは先ほどと同じように剣で受けようとした。


「早氷咲一刀流“霜踏”」


 神速の抜刀術において、いくつかある攻撃ではない技の一つ。

 それがこの“霜踏”である。

 抜刀術において重要な要素の一つ“踏み込み”を移動に使った高速移動術である。

 神速の移動術でロドリグの受けをかいくぐり、俺は彼の後ろから剣を振った。

 だがさすがにロドリグも剣を修めているだけあって、ギリギリで防御に成功する。

 だが不十分な防御でそのまま吹き飛ばされる。


 今度はロドリグがゴロゴロと転がる。


「くくく、卑怯とは言うまいな?」


 回転が得意とあってロドリグはすぐに立ち上がる。


「言わないとも。凄まじい速度だ」


「俺の悪い癖なんだ。どうも相手の攻撃を見たくてな」


「そのまま殺られてくれればいいのに」


 ロドリグは構え、俺も構える。


「そうもいかんのでな!」


 俺は大太刀を振る。

 ロドリグは受ける。

 ぐっと足に力を入れる、ふりをするとロドリグはさきほどの経験からか後方を警戒した。

 だが、俺は“霜踏”へは移行せずにそのまま攻撃した。

 驚いたロドリグは防御しようと動く。


「小技を!」


「テクニックと言ってくれ」


 防御は間に合わず、ロドリグは斬られた。

 左肩から斜めに右の脇腹へ抜けた大太刀の刃、ロドリグはしかし、笑った。


 その笑う顔を見た時、俺は思い出したのだ。

 こいつはすでに死者だということに。


 ロドリグは斬られたことにまったく痛みを感じていないようだった。

 そして俺にしがみつく。

 斬られた上半身だけでなく、残った下半身も倒れこむようにおれに巻き付く。


「最初のロドリグを倒すとはなかなかやるな」


 という声が砦の方から聞こえた。

 砦の入口が開けられ、そこに栗色の髪をした青年が笑顔の張り付いた顔で立っている。


「テメェ!」


「ふふふ。いい姿だ。身動きがとれまい?」


 二番目のロドリグは手にした剣をぐるぐると回転させ、こちらへ向かってきた。

 すでに最初のロドリグの意識はないようだ。


「燃やせ“獄炎華・朧偃月”」


 大太刀から炎が吹き出し、最初のロドリグの亡骸を焼き払った。

 その勢いのまま、俺は向かってきた二番目のロドリグを迎撃する。


「な!?」


 大太刀の峰から噴き出す炎が攻撃を加速させ、向かってくるロドリグの先を取る。

 驚愕した顔のまま、二番目のロドリグは斬られた。


「死にたいとか疲れたとか言ってたよな?言行不一致じゃねえか」


「それは最初のロドリグの言葉であって、我々の総意ではない」


 砦からロドリグの声がした。

 門のところにまたロドリグがいた。

 それも三人。

 物見櫓からもロドリグが顔を出す。

 奥の本陣からも何人かのロドリグが顔を見せた。


「おい、何人いやがる」


「我々、骨騎団は全てロドリグだ」


「ああん?」


「私の能力、“模倣”によって骨騎団の全員の魂と姿を調整し、全員をロドリグに変えたのだ」


「どっかの騎士たちと同じような能力か。向こうだと能力なんてのは魔王の継承者だけのものだったのにな」


「強き者ギアよ。お前も我々の軍門に屈し、ロドリグとなるがいい」


「断る」


「選択肢などない」


 姿を見せたロドリグが一斉に襲いかかってくる。


「無数!我輩も手を貸したほうがよいか?」


「いや。あれなら負けない。大丈夫だ」


「数多!さきほど一人でも苦戦してたであろう?」


「さっきも言ったが悪い癖なんだ。最初から本気を出せばこんなに面倒にならないのにな」


「本気?まだ本気ではない、と?」


閻魔天ヤマラージャ


 全身が赤と黒の炎に包まれる感覚。

 サラマンディア一族に伝わる炎を操る能力の顕現だ。


「閻魔!これは炎であるのに、骸である我輩にもなんと暖かく感じる」


「闇の炎だからな。死者には暖かいだろう」


 無数のロドリグに向けて、俺は“獄炎華・朧偃月”を振るう。

 噴き出す炎の赤とその刃がまとう炎の黒が艶やかな紋様のように揺らめき、それが流れ去った後に残る全てを斬り裂いた。


 斬られたロドリグたちはその炎の中で、ゆっくりと顔や姿を変えながら消えていった。


「変化!?いや、ロドリグに変えられた骨騎団の者が元の姿になって呪いから解き放たれていくのか!」


 襲いかかってきたロドリグたちは一撃で全滅した。

 そして、砦の中から青ざめた顔のロドリグが現れた。

 その姿は今までのロドリグと同じように見えるが、やや年を重ねたように見える。

 老けている、と言ってもいい。

 今までが青年なら、壮年とまでは言わないが三十半ばに見えるのだ。


 おそらくあれがロドリグの死んだ時の姿なのだ。


「虚ろの兵団に続き、我ら骨騎団も全滅か」


「もう一度聞く。本当に俺とやるのか?」


「能力も使い果たした。部下もいない。戦う意味はない。だが」


 とロドリグは剣を構えた。


「だが、最後まで戦え、と私の中で何かが叫ぶのだッ!」


 ロドリグは全身で回転しながら斬りかかってきた。


 それは今夜一番心踊る斬撃だ。


 俺は“獄炎華・朧偃月”の炎を噴かして突進。

 ロドリグの剣が降りる直前に、彼を斬った。


 闇の炎に焼かれて、ロドリグは炎上した。

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