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359.骨騎団

 無刃斬・獄花火。

 そうまるで花火のように俺の周囲から花が咲くように広がっていった炎の刃は周囲に潜んでいる幽霊を切り裂き、燃やしていった。


 その炎は虚ろの兵団の全てを燃やし尽くした。


「壮観。まさかこれほどの使い手とは。我輩の判断は間違っていなかった」


 チンッと音をたてて、俺は朧偃月を納刀した。

 あたりは元の静寂を取り戻し、生きているものも死んでいるものも動きを止めた。


「インガス。ここらは片付いた。次へ向かうぞ」


「了解。わかった。では骨騎団のところへ向かおう」


「ゴブリア、ゴブール、準備はいいか?」


「「御意……」」


 二人の赤帽子はそれぞれ短刀を鞘に収めた。

 幽霊たちを倒すのに活躍してくれた二人だが、なぜか少し気落ちしているように見えた。


「落胆。この赤帽子らはお主の活躍に追い付けなくてガッカリしておるのよ」


「そうなのか?」


「そんなことはありません」

「正直言うとその通りです」


 と、二人のゴブリンは違うことを同じタイミングで言った。


「何でもいい。それぞれの感想はそれぞれのものだ」


「「御意」」


 俺たちは再び、夜の平野を歩きだした。



 骨騎団の拠点はメイローズ王国軍の陣地跡の片側にある。

 片側、というのは陣地のあった場所が真ん中で何かに切り裂かれたようにわかれているのだ。

 その切れ目は深く陥没しており、人間では飛び越えられないほどだ。

 ここで何があったのだろう。


「ダンジオン王国軍の侵攻に兵力で劣るメイローズ王国軍は果敢に防いだが、徐々に押されていった」


 いつの間にか、俺たちの隣に騎士風の若者が立ち説明を始めていた。

 栗色の髪がウェーブした優男。

 口元に張り付いた笑みは優しげだが、どうにも胡散臭い。

 そもそも死者が夜毎争うこのゴーレン合戦場跡地に、人間などいるはずがない。

 幽霊どもはほとんどが“虚ろの兵団”に所属していたはずだから、こいつは人間の皮を被ったゾンビかスケルトン、もしくは幻術で人の顔を見せているリッチだろう。

 しかし、リッチはインガスの配下になっているはずだから、皮を被っているのか。


「追い詰められたメイローズ王国軍は禁じ手を使った。それは“けだものの遠吠え”と呼ばれる兵器でした」


「獣の遠吠え、か」


「不可視のその攻撃はその発動に、まさに遠吠えのような恐ろしい爆音をたてるのです。その音が轟いた瞬間、戦場にいたものに皆等しく死が訪れたのです。メイローズの陣地に穿たれた亀裂はその時のものです」


「不可視の全体攻撃、兆候はあれど音を聞いた時点でアウトか。厄介だな」


「不快。我輩はその音を覚えておる。そして、魂を削り取られるような衝撃を」


 優男は続けて言った。


「だが使った本人も知らなかったでしょう。その兵器の副作用とでも言うべき現象」


「副作用?敵味方全員をぶっ殺してそれで終わりじゃないのか?」


「その兵器の効果で死んだ者はアンデッドとして甦り、そしてその地に縛られて戦い続けるという本能を植え付けられるのです」


「埋伏!バカな、我輩はそんなことをされておらぬ」


「ではお聞きしましょう。“骸の法”のインガス。なぜ我々は益もないのに数十年もの間、戦い続けなければならなかったのか。確かに我らに命は無いが、それでもこうまでする理由は無かったはずです」


「反論……。それは人間とは戦いの本能を持っているから。争うことを魂の奥底に刷り込まれているからでは」


「なぜあなたは生前に準備していないのに、骸魔導師リッチになって復活できたのです?あなたがた“骸の法”のほとんどがリッチですよね?」


 そうなのだ。

 骸魔導師リッチは希少な魔物だ。

 なぜなら、死後に変異するために様々な準備が必要だから。

 少なくとも三年は死後のために様々な道具アイテムや儀式などを行い、復活のための誰にも知られない部屋や館などを用意しなければならない。

 それでも成功率は五割といったところだ。


 まれに魔法使いの才能を持つ者がその死後、骸魔導師に変異することはある。

 だが、インガスたち“骸の法”のリッチたちのように集団で変異した例はない。


「至極。そのとおりだ。これは我輩らは奇跡と呼ぶしかないと思っておる」


「妙な奇跡もあるものですね?我々は兵器の副作用説を曲げるつもりはありません。ところで、あなたは誰です?」


 その騎士らしき若者はようやく俺を見た。


「俺はギアだ。この地に1つ都市を造ろうと思っている。そのために骨騎団のロドリグ殿を説得したいと思っている」


「都市を?人間社会、王国政治に首を突っ込むために、この死者の平野に?なかなかどうしてぶっ飛んでいる人ですね」


「どうも君の話しぶりだと数十年の戦いにうんでいるような、そんな気配があったのでな」


「もし、そうでなければどうしたのです?」


「俺は根っ子では武人だ。武を、力を信奉している。ゆえに斬るしかない」


「有無を言わせず叩き斬る。シンプルな解決法ですね」


「単純な方がわかりやすく、そして早い、ということもある」


「確かにそうでしょうね。……さあ着きましたよ。ここが我ら骨騎団の拠点です」


 メイローズ王国陣地跡には小さな、しかし頑強そうに見える砦があった。

 例の陣地を二分する断裂をうまく堀のように使い、拠点を壁で囲んである。

 物見櫓も見える。


「こいつは……攻めるには難儀しそうだな」


「我々は数が少ないですからね。それを補うのにしっかりとした砦が必要でしょう」


「あるいは砦に引き寄せて、後方から精鋭部隊が強襲し敵軍にダメージを与えて悠々と砦に入り防備に回るとかできるな」


「いい策です。昔、虚ろの兵団にやった時は面白いように潰せましたよ」


「伏兵!?まさか我輩らを誘い込んで」


 インガスがめちゃくちゃ動揺しながらあちらこちらを見た。


「落ち着けよ。やるならこいつらはとっくにやってる」


 平野に密集していた虚ろの兵団と違って、こいつらは砦を作り、作戦までこなす。

 自意識があるのだ。

 ならば逆に話し合いの余地はある。


「その通りです。今宵はギア様、インガス様、それに後ろのお二方も客人でございます。たいしたおもてなしもできませんがゆるりとおくつろぎください」


「武官出のはずだが口がうまいな?」


「さて、私自身のことを口にしましたでしょうか?」


 栗色の髪の青年はその笑顔の張り付いた顔を向けた。

 だが、その目は俺のことを観察しているように鋭い。


「骨騎団の団長、ロドリグ。そうだろ?」


「……」


「沈黙は答えだぞ」


「いつ、お気付きに?少なくとも私はただの案内役のつもりでしたが」


「半分はハッタリだ。そうだな、お前は常に自分たちのことを我々、もしくは我らと言っていたな」


 我々、という言葉は組織を代表する時に使う言葉だ。

 それに強調的に優位に立つ語感がある。


 つまりは、ここにある組織の長。

 骨騎団のロドリグ、ではないか、という推論だ。


「そのくらいのことで……?」


「それにな。お前は生前メイローズの将軍であったのだろう?普通、軍を率いる者は後方で指揮をするものだ。しかしお前は“獣の遠吠え”に巻き込まれて死んだ。つまり兵らと共に戦う、前線に出る頼もしい将軍だったということになる。裏を返せば全てを己でやりたがる人種だということでもある」


「成り上がりの将軍なものでね。前線にいなければ兵はついてこないと思っていたのだよ」


 青年、いやロドリグの顔つきが変わった。

 微笑みを止めただけだが、その顔には厳しさが宿っている。


 俺は覚悟を決めた顔をしたロドリグに言った。


「俺たちは話し合うことができる。それともやるか?」


 ロドリグは「いいだろう」と言いながら剣を抜いた。

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