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352.世界の変貌、俺はそれを忘れなかった

 ローリエとの会話を終えて、俺は潜んでいるはずの赤帽子を呼び出すことにした。


「いるか?」

 

「御身の側に」


「同じく」


 最初に聞こえたのがゴブリアで、次がゴブールだ。


「無事に入れたか」


「というよりは入れてもらえた、と言う方が正しいです」


「我らはこの中でほとんど諜報活動を行えませんでした」


 ミトラクシアは俺の側に仕える二人の赤帽子のことに気付いていたようだ。

 俺の連れということで樹楽台には入れてはもらえたが、中を調べることはさせてもらえないか。


「監視がキツそうだものな」


「目視による監視なら免れるすべはあります。ですが」


 ゴブリアは悔しそうに言った。


「ですが、なんだ?」


「魔法による障壁が至るところに仕掛けられています。さらに障壁がない場所にも魔力探知機センサーがあり、それに引っ掛かるとすぐにエルフどもがやってきます」


「そうか」


 竜胆の村でも思ったがエルフたちによる監視はかなり厳重だ。

 “根の宮”や“宿り木”、“樹楽台”といったエルフ独自の施設や技術が多い。

 それを守るために監視の目がキツいのだろう。


 しかし、隠密に特化したゴブリンの進化形態である赤帽子の技術でも潜り込めないとなると、エルフたちはやり過ぎな気もする。

 まあ、今回は俺に被害はないし、エルフは協力してくれるということで、赤帽子たちには無理をさせないことにした。


 話し終わると二人はまた気配ごと消えた。


「相変わらずスゲェな、あんたのゴブリン」


「頼りになる。俺の目の代わりだよ」


 この世界の常識なんかをよく知らない俺にとって、事前にそれらを調査してくれる二人はかなり大きな存在となっている。


「目、か。あんたにとって、人間もエルフもゴブリンも等価値、ということか」


「まあな。この世界ではどうかは知らんが、俺がもといた魔界では十七の知性ある種族が存在していた。そして、魔王軍にはそれらがごたまぜになっていたからな。別にエルフだ、ゴブリンだと気にはしない」


「十七……それはあれか?犬だの猫だのも加えて十七か?」


「知性ある、と言っただろ?単なる動物ではなく、考え、語り、道具や魔法を使う種族が十七だ」


「そいつは、まあ、なんというか。俺には考えもつかんな」


 だが、あんたの何事にも動じない性格の理由がわかってきた気がするぜ、とゼルオーンは言った。


「聞いてもいいか?」


 と、今度は俺が逆にゼルオーンに尋ねた。


「あん?」


「一度自分を殺した相手に同行しているのはなんでだ?」


 不死、あるいはそれに類する何かをゼルオーンは持っている。

 しかし、そんなものがあろうと己を殺した相手についていこうとは普通は思うまい。

 騎士団、とやらの襲撃の手引きをしているのかとも思ったが、グリーサの街ではそんなことはなかった。


「十年くらい前だったかな。俺たちの世界は変わった」


「変わった……?」


 ゼルオーンは話し始めた。


「俺は霊宮王国れいきゅうおうこくという国で騎士をしていた。若く才気に溢れていた俺は瞬く間に高位の騎士へと出世した」


 それを自分で言うかな。


「その国は最高神である魔法の神や暁の神を信仰する国ではなく、世界にあまねく満ちみちている精霊を敬う国だった」


 精霊信仰アニミズムだったか。


 古来の魔法には三つの発動方法があり、その一つが精霊との契約による魔法だ。

 ただこの方法は、精霊が世界を去ってしまったため使えなくなってしまったと聞く。

 だが、この世界にはまだ残っていたのだろう。

 あるいは残されていた、か。


 ちなみに残りの二つは今も使われている。

 魔力を使う、魔力魔法。

 これはいわゆる普通の魔法、というやつだ。

 あとは神に祈ることで発動する神聖魔法。

 ただ、これは神々の主たるラスヴェートが神々をあまり地上に関わらせないと決めたために、なかなか発動できない、と言われている。


 精霊はこの世界を去ったが、似たような存在が魔界にいることを俺は知っている。


 魔界では、彼らは霊族と呼ばれていた。

 これは強い感情の発露によって、一時的に膨れ上がった霊魂=魔力が元の生物から離れたものがベースになっていると以前に聞いたことがある。

 そのため、強い感情そのものを司る名をつけられていることが多い。

 例えば、怒りの発露で誕生した“憤怒の精霊”、悲しみから生まれた“悲哀の精霊”などだ。

 また、それは死者が亡くなる時に転生しなかった残存魔力も含まれる。

 往々にして、それは“憎悪”とか“怨恨”とか負の霊となることが多い。

 中には死ぬときに感情を発散しきってふよふよと漂う浮遊霊になる者もいる。

 いずれにしてもそれは死者本人ではなく溢れた感情、溢れた魔力が形を成したものだ。

 そう考えると、霊族というものは生物よりは魔法に近い存在なのかもしれない。

 ただし、彼らは魔法や造られた魔法生物とは違い、意思や思考があり、魔界の多種族と交流をしていた。

 彼らは霊族という一つの種族である。


 ゼルオーンの国にいたのはどちらなのだろうか。


「豊かな国だった。騎士や兵士は精強で、国は富み、子供たちが笑って遊べる。そんな国だった」


 何か懐かしむようなゼルオーンの顔。

 蝋燭の灯りがうっすらと彼を照らしている。


 その顔にスッと影が差した。


「だが、ある日世界は変わった。精霊たちが突然いなくなり、魔法は変化した。新たな女神が降臨し、人々はその以前の記憶が書き換えられていった」


「……」


「怖かった。恐ろしかった。精霊の加護を無くした俺たちの国は、歴史ごと書き換わった」


「歴史ごと……?」


「ああ。あんたは異世界の人だから信じてくれるかもしれん。精霊の加護が無かったとされた俺たちの国は、発展なぞ最初からせずに荒れ果てた荒野に変わった。いや、荒野だったと書き換わったんだ」


 精霊の力で発展した国だから、それが無かったと歴史が変えられたら国ごと消えてしまった、と。


「そこに国があったことを、そこにいた人々は覚えていなかった。それどころか、近隣諸国の誰に聞いてもそんなものはない、と答えられた。俺は自分がおかしくなったと思ったね」


「だが、今はその記憶が正しいと思っている?」


「ああ」


 ゼルオーンの暗い瞳が灯りに照らされない夜闇にぎらりと輝いたように見えた。


「他にもいたんだ。俺のように覚えている者が」


 その書き換えに不具合があった。


 ……十年ほど前の話だからよくわからない。

 いや、待てよ。

 確かグリーサの遺跡の祭壇でラスヴェートが言っていたな。

 こちらと向こうでは時間の流れは違っている。

 ここでの一年は向こうでは一日ほどだ、と。


 だとしたら、ここの十年前は向こうで十日前になる。


 確か、夜中にリヴィが『時間停止ワールドオーダーをかけられたかも』と言っていたことがあった。

 あれも確か十日前。

 十年前に起きた変転、その原因はここの支配者であった神がリヴィに神の座を譲ったことから起きたのではないか?

 その影響が、最高神の変化とか、歴史の書き換えに繋がったのでは?


「やがて、俺たちは集った。世界の変化を覚えている。そして元の世界を取り戻す意志持つ者が、な」


「それが、もしかして」


「そうだ。それが俺たち、霊帝騎士団だ」


 そうやって、彼らは生まれた。

 世界を糺し、元の世界を取り戻すために。

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