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35.道端に落ちているものを拾って持って帰る

「というわけなんだよ」


「はぁ、リヴィエールちゃんはともかく、うちの兄にまでフラれたんですか。そして、この娘を拾ってくる」


 と、やや呆れ顔のニコである。

 俺が知るなかで最高に旨い飯を作れるのは、この娘なので今回も頼ってしまった。


「はぐはぐはぐはぐ、もぐもぐもぐもぐ、ごきゅごきゅごきゅごきゅ」


 と一心不乱にニコが造った食事を食らうポーザ。

 ちなみに薄汚れたローブ等は洗濯してもらった。

 今は、ニコが昔着ていた服を借りている。


「美味しいですか?あんまり急いで食べると喉つまりますよ」


「むぐ、ぐ!」


「ほら、言わんこっちゃない」


 と喉をつまらせたポーザへ、ニコが飲み物を渡す。

 ポーザはそれを一気に飲み、はあはあと息をした。


「旨い!素晴らしく旨い!この挽き肉固めて焼いたのも、麦入りの粥っぽいスープっぽい何かも、野菜も、あと飲み物も!」


 絶賛である。

 まあ、相当腹減っていたようだしな。

 空腹は最高の調味料ともいうし。


「ありがとうございます。でも、どこにでもあるものですよ?」


「いいえ、最高の料理でした!」


 食事が落ち着いたのを見て、俺は話はじめる。


「で、何がどうなってんだ?」


「……騎士団をクビになったのだ」


「クビ?」


「こないだのアレで、ここに小鬼ゴブリンちゃんたちを連れてきたのが罪に問われた」


「ああ、そうらしいな」


 モンスターを人の居住地へ侵入させることは大罪だ。


「でも魔物操士の操るモンスターは王国法ではペットの扱いなんだ、本当は」


「けどペットは人を襲わない。襲ったら、それは本来の意味でモンスターだな」


「その辺の線引きはグレーだよ。特に王国騎士団の命令があればな」


「ああ、なるほど。王国騎士団の命令があればモンスターを使った襲撃も正統性ができるが、しかしお前はクビになったと」


「軍務卿の失脚で、騎士団内の刷新がされてボクたちのような裏の人間はみなクビになったんだ」


「レインディアの仕業か?」


「騎士団長は王国騎士団を真っ当な組織にしたいらしい。それは別に良いんだけど、ボクたち裏の仕事をしてた人らの再就職先が無いんだ」


「片手落ちだな、あのアホ団長」


 騎士団を真っ当にしたいのはいい。

 しかし、ポーザやリギルードのような裏の仕事をする人員はいる。

 必ずいる。

 大きな国になればなるほど裏の仕事は多くなるし、敵対する国や組織の裏の人間への防御策になる。

 リオニア王国の今後が少し心配になってきた。


「で、元騎士団員らは一応、騎士団の任務だったということで罪は減じられた、けど」


「町の人たちからの反感はそのままで、しかも無職か」


「さっき見たと思うけど、ああいうふうに追い出されるのはまだよくて、衛兵に通報されて捕まったりする」


「一応、罪はないんだろ?」


「うん。だからすぐに釈放されるけど、何度も捕まると衛兵さんたちもうんざりするみたいで」


「ならなんでここを出ない?家はあるのか?出身は?」


「なんか騎士団の監視対象になってるらしくて、自由に移動できない。事件のあと出ようとしたら、止められた。ちなみにニューリオニアに借りている部屋はある。出身はベルトライズ王国の南部の村だけど色々あってもう誰もすんでない」


「ったく、レインディアめ。ティオリールの指令にてんやわんやなのは良いが、現場が追い付いてないぞ」


 真面目な彼女が、真面目に職務に励んでいるのはいいが、こういう面倒な事情があることも知っておかねばならない。

 というか、リギルードは許されていたよな。

 そういう不公平感も、面倒のタネになりうる。

 やっぱり、今後のリオニア王国が心配になってきた。


「他の“メルティリア”の処遇も様々なんだけど、ボク以外のメンバーはみんなここ出身でしょ?どうにかなってるみたいで」


 そういえば、ポーザは今回の任務で切り札として臨時に“メルティリア”に配属されたと聞いた。

 元々、“メルティリア”はこの街の冒険者パーティだから生活はできるわけだ。


「で、お前が一番貧乏くじを引いたわけだ」


「そういうこと。でもまあこんなに美味しい食事を食べさせてもらったのは不幸中の幸い、なんとかなるまでどうにかするよ」


 ポーザは立ち上がって出ていこうとした。


「あ、あの」


 ニコが引き留めようとすると。


「あ、お代?ごめんね、今持ち合わせなくて。もし、ニューリオニアに帰れたら、貯金おろして払うから、ちょっと待っててくれるかな?」


 他者を拒絶するような笑みに、ニコは伸ばしかけた手を止めた。

 彼女は純粋に、このポーザという娘が心配になっただけだ。


「いや、今払ってもらう」


「だから今持ち合わせがないって……まさか、体で!?困ったな、ボクまだ子供なんだけど」


「いや、そうじゃない。冒険者になって金を稼げという話だ」


「いやいや、そんな奇特なパーティないでしょ。単独ソロはキツいし、そもそも街から出られないし」


「いや、俺が雇う。あと監視なんやらは、俺が話をつけてやる」


「……お人好しって言われない?」


「あのポーザさん。このギアさん、すごい好い人だから」


 なぜか、ニコがフォローしてくれる。


「そのパーティに入ればもしかして、ここのご飯また食べれる?」


「もちろん!」

 

 ニコが嬉しそうに断言する。


「わかった。じゃあ、ボクを君のパーティに入れてください」


「ああ。一応パーティリーダーのギアだ」


「魔物操士のポーザ、十五歳」


「よろしくな」


 と、俺はポーザと握手をかわした。


「で、偉い人に話をつけてくれるんでしょ?」


「ああ、まずは冒険者ギルドだ」


 そして、俺はポーザを連れて、ギルドへ向かう。

 ユグにパーティ追加とこの娘の境遇について説明、そしてリオニアスのお偉いさんとのアポをとってもらう。

 ユグ個人の伝声筒が大活躍である。

 ついで、勇者パーティのみのホットラインを使って、ティオリールにレインディアを焚き付けた責任をとってもらう。


『なるほど、私の言い方が悪かったかもしれないな。ニューリオニアについてはなんとかしておこう』


 とのことだ。


 そのあとは、ユグの紹介してくれた各ギルドのお偉いさんへ挨拶。

 有力者に顔をつなぎ、さらに“夏のカナリア亭”をはじめとした追い出された店にあらためて挨拶にいく。

 ちゃんとした服(ニコのお古)を着ていれば、それなりに可愛いのでおじさん系の主人の皆さんには効果は抜群である。

 “夏のカナリア亭”の主人なんかは境遇と騎士団の扱いを聞いて、逆に謝ってきた。


 目的地を回り終わったころには、日が暮れかけていた。


「思った以上に大変だったな」


「ボクあんなに頭下げたのはじめてだよ」


「まあこれからは普通に暮らせるだろう」


「うん、多分大丈夫、リーダーには本当に感謝してる。最後に一つお願いがあるんだけど」


「うん?」


「持ち合わせないし、住む場所も……ないんだ」


「あー、そうだったな」


 仕方ない。

 困った時は彼女に頼もう。


 そして、再びニコのもとへ。


「いいですよ。部屋は余ってますし」


 とニコは快諾してくれた。


「ありがとう、ニコさん」


 本当に嬉しそうなポーザ。

 もしかして、三食ニコ飯が食べられると思って喜んでいるんじゃないだろうな。


「持ちかけておいてなんだが、いいのか?バルカーとか」


「兄さんは大丈夫です。大雑把ですから」


「ああ、うん。それもそうか。リヴィの家も部屋はあるんだが、家主の許可なく住まわせるわけにはいかんからな」


「そんなことしたら、リヴィちゃんに殺されかねないですよ」


 なんか、さらっと怖いことを言われた気がする。


 ポーザはニコ(とバルカー)の家に住むことが決まった。




 深夜、寝ぼけたバルカーがポーザをおばけと誤解したのはその夜の話である。


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