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349.エルフが現れた×2

「これが魔力反応の原因……?」


 動きを止めた機械兵ゴーレムを見て、ミスルトゥは意外そうに言った。


「なんかおかしな点があるのか?」


 “閻魔天ヤマラージャ”状態を解除した俺は肩で息をしながら尋ねた。

 しかし、こいつは強力なだけに燃費が激しいな。

 無限に魔力があれば継続的に使えるだろうが、今はたったこれだけの使用で体力もキツい。


機械兵ゴーレムはどちらかというと、魔力を注がれて起動するもの。普通なら魔力反応の原因にはなりえない……はず?」


「んなこと言っても、ここにはコイツしかいなかった。それに今は魔力が収まっているんだぜ?」


 両手剣を背負って収納したゼルオーンがそう言った。

 まあ、こいつは早く帰りたいだけだな。


「うーん、そうかな、そうかなー、そうかも」


「ところで、あれがお前の力か?」


 片方の腕を粉々にした能力だ。

 すると、ゼルオーンは困ったように笑った。


「はは、バレないようにやるつもりだったが、ありゃ無理だ」


「なんでも破壊する力、か?」


「そいつは言えねえよ。騎士団の能力は本来知られてはいけねぇんだからな」


「そうか。詮索して悪かったな」


「いや、いいってことよ」


「とりあえずこれで解決だな。帰るか」


 組合長からの依頼は、遺跡における魔力反応の原因の調査だ。


 ラスヴェート神が俺を呼ぶために近場の祭壇に降臨した、という真実は伏せておこう。


 祭壇の間から出ると、そこには武装した冒険者の集団がいた。


「このまま、彼らが出てこなかったら組合長権限で遺跡へ突入する。皆すまないが命を賭けてくれ」


 と組合長が演説している。


「どうした?何かあったのか」


 俺が声をかけると、そこにいた冒険者たちが一斉に驚く。


「あ、ああ、君たち無事か?」


「無事だ。が、なんなんだいったい」


「実は君たちが突入した直後から遺跡が不気味に胎動し始めたんだ。遺跡中の魔力が例の祭壇の間へ流れ込んでいくのを確認した」


「中には機械兵ゴーレムがいた」


「何!?」


 組合長、そして冒険者たちが驚きをさらに深くする。


「まさか」


「グリーサの機械王の?」


「ああ、間違いない」


 とひそひそと話しているが、ここの出身じゃない俺たちにはわけがわからない。


「わかるように説明してくれ」


「あ、ああ。実はこの遺跡は古代のリオン王朝時代のものなんだが、その最後の王は禁術に手を出してしまったことで有名なんだ」


「リオン王朝の最後の王は禁術に手をだしてしまった、ね」


 似たような話を聞いたことがある。

 それも同じリオン王朝の話だ。


 元の世界で反乱を鎮圧するためにドラゴンの力を借りた皇帝がいた。

 結局、その皇帝だろうが王とか関係なく、その力は強大過ぎて扱いきれずに王朝は滅びてしまう。


「その禁術によって、魔法を込められる自律機械兵オートゴーレムが誕生してしまった、という」


 ん?

 魔法を込められる。

 自律型のゴーレム……?


「それって……?」


 ミスルトゥが何かに気づいた。


「その機械兵ゴーレムはその自律意志をコントロールできた。その結果、機械兵ゴーレムはその使役者をぶち殺してしまったんだ」


「むちゃくちゃやるなあ、その機械兵ゴーレム


 とゼルオーンが感心した。


「誰にも止められなくなったその機械兵を、当時の人々は恐れと憎しみを込めてこう呼んだ。“機械王ゴーレム・ワン”とね」


「それが俺たちが戦ったあの機械兵だと?」


「おそらくね。リオン王朝はまもなく滅び、神の力を借りた英雄ラスーヴァが命と引き換えに神の祭壇が下に封じた、とこの街の伝説は語る」


 確かに、あの機械兵ゴーレムは足を凍らせたり、俺の炎を同じ炎で防ごうとしていた。

 あれだけの応用力があり、魔法を扱える、実行力があるのなら、それこそ英雄と呼ばれるだけの実力者でなければ対処は不可能だったのだろう。


「そいつが突然目覚めたのはなんでだろな」


 と俺は口にしながら、なんとなく理解していた。

 己を長い間封じていた強大な力が降臨して、消え去った。

 もう、ここは恐れるものなどなにもない、と機械兵ゴーレムが考えたのも無理な予想ではないだろう。


 その結果、俺たちと戦闘して粉々になってしまった、というのはなんだか悲しい。


「さあね。案外、君のような強者を捜していたのかもしれないね」


「どうだろうな」


 集まった冒険者たちは解散し、俺たちも帰ることにした。


 遺跡の外に出るともう夕暮れだった。


 そして、夕焼けを背に“樹楽台”のエルフ、ローリエがいた。


 しかしその顔はなんだか陰鬱に見えた。

 今朝方ボルフェティノ商会の前で会った時は自信満々で、こっちの話も聞かない様子だったのに。


 ローリエの横にもう一人エルフがいた。

 ローリエより老齢の、こちらの方をしっかり見ているエルフだ。


「冒険者ギア様ですね。エルフ統治機構“樹楽台”より参りました。第四席ミトラクシア・オールフェンバックと申します」


「第四席!?」


 ミスルトゥが本気で驚いた顔をした。

 彼女ほどではないが、ゼルオーンも組合長も驚きを隠せていない。


「宿り木たるミスルトゥ。あなたの希望を認めます。ですが一度樹楽台にて話を聞きたいのです。召喚に応じていただけますか?」


「あ、はい。木漏れ日の守り手、木苺の予言者ミトラクシアの召喚に応えます」


 よろしい、とミトラクシアは頷いた。


「ギア様。よろしければ貴殿も樹楽台へいらしていただけませんか?夕餉の準備をしております」


「旨いものが食えるなら」


 ミトラクシアは笑みを浮かべて頷く。


「竜胆の集落で出たものよりは旨いと申し上げておきましょう」


「それは期待できそうだ」


 という和やかな会話をしながら俺の警戒度数は上昇していた。

 あの居丈高、というか人間などと話す気はないという態度のローリエが無言なこと、全員が驚いていた第四席という位、そして竜胆でのことを知っていること。

 それでも、こちらのことを尊重している態度から、情報が欲しいのだと推測する。

 情報が欲しいのはこちらも同じだ。


「では転移門を開きます」


 ミトラクシアは手を振った。


 そこに青白い魔力が収束し、門の形になる。

 無詠唱で転移門を開ける。

 それは超高位の魔法使いの証明だ。

 元の世界でも、ここまでの魔法使いは数少ないだろう。


「組合長、彼をお借りいたします。まことに不調法だとは思いますが」


「え、ああ。いや、彼がよいなら私に止める権利はない」


「ご協力感謝します。ああ、今回だけは我々への探りを見なかったことにしましょう」


「!?」


 組合長が樹楽台の動きを探ったことも知っているのか。

 やはり、ガチガチの統制の方か。


「では、ギア様こちらへ」


「では、お招きにあずかろう」


 転移門に手を触れる。

 本来ならこれで転移先を読み取れるのだが、おびただしい数の偽装が施され何も読めない。


「貴殿のような方がいますので、かなり複雑なプロテクトをかけております。ご容赦ください」


 有無を言わせぬ、という言葉がふさわしいミトラクシアの態度だった。


「何も読めない、がこれだけの偽装をしても転移できるとなれば近場だな。ガリア樹海のどこかかな?」


 俺の予想を聞いたミトラクシアがにぃッと笑う。


「なかなか面白い御仁のようですな」


「あんたはそっちの笑顔の方が似合うぜ」


 ミトラクシアの本性を見せたかのような笑顔はすぐに消えた。


 どうやら相当の野心家の類いらしい、と推測しながら俺は転移門へ足を踏み入れた。

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