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346.グリーサ冒険者組合にて

 宿代を稼ぐために冒険者組合のグリーサ支部を訪れることにした。

 なにせボルフェティノ商会の信用を得るために、有り金全部を預けてしまったからだ。


 俺はここでも魔王軍を結成することにした。

 よくわからない土地で、元の世界に戻るための手段や情報を探らなければならない。

 それに地道な調査と人海戦術の二通りがあるが、どちらが効率がいいかは言うまでもない。

 それに、ある程度の戦力の裏付けは領主や騎士団などの権力者との交渉がやりやすくなるはずだ。

 そういう権力者たちは往々にして、貴重な資料や情報を持っているものだしな。


 すでにゴブリン皇帝の部族が俺の命令で動いている。

 そこへ、ボルフェティノから買う予定の奴隷兵士を後々の指揮官として育成する予定だ。

 これは俺の実家であるサラマンディア家の手法だ。

 徴用兵の集団を、士気が高い奴隷あがりの兵士が指揮することによって、サラマンディア軍は一定の兵力と錬度をキープし、旧魔王軍四天王軍の中でも随一の実力を持っていた。


 この世界での魔王軍も、たとえ少数でも活躍できる実力を備えたい、と俺は思っている。


 まあ、目標は目標だ。

 そのためには今夜の宿代を捻出せねばならない。



 大きな都市であればあるほど、冒険者組合というのは大きな外観を持つ。

 それはつまり、所属する冒険者も多い、ということだ。

 高邁な理想を持つ者もいるが、大多数がその日ぐらしの浮浪者寸前の奴らだ。

 そういう奴らが罪を犯したり、自ら命を絶つ前になんとかしようとするセーフティネットに冒険者組合がなっている。


 だからこそ、彼らにとってボルフェティノ商会のような奴隷商と懇意にしている俺たちは嫌悪される対象となる。


 その日ぐらし、ということはどこかで歯車が噛み合わなくなると借金が増えていく、ということだ。

 たまたま武器のメンテ代が多くかかった。

 回復薬ポーションを一本余計に使ってしまった。

 飲みすぎた。

 そんな些細なことが積み重なって、いつしか払えなくなるほどの借金になった時、それを返すために自分を売るしかなくなる。

 それを買うのが、ボルフェティノのような奴隷商なのである。


 ボルフェティノらが、メイローズの一般的な感情から忌避されていても、都市の一角に店舗を構えていられるのは需要があるからなのだ。


 そんな末路を嫌がる冒険者は多い。

 まあ、好き好んで奴隷になりたい、という奴なんかほぼいない。

 絶対にいない、と断言できないのが人間の業というやつだが、それは別の話だ。


 冒険者組合に俺が訪れた時に、そこにいた冒険者の視線は興味二割、嫌悪七割、憎悪一割という感じだ。


「今日中に達成できる依頼を斡旋してほしい」


 と、冒険者の登録証をだしながら、俺は受付にいた女性にそう言った。


「当組合は、非合法な依頼は受けていないのですがそれでもよろしいでしょうか?」


 受付嬢の笑顔からは想像していなかった辛辣な口調だった。


「俺はそういう面倒な依頼は好んではやらん」


「必要ならやる、と。」


「そういう問答をしに来たんじゃないんだがな」


「特定の商会から仕事を“個人的に”受注している方にはあまり依頼を斡旋しておりませんので」


「俺はそういうことは基本的にしないが?」


 ものすごい笑顔なのに、俺に対する態度が冷たい。

 営業スマイルというわけでもなさそうな、好意がある人への笑顔にも見えるのだが。


 俺もこの時点では知らなかったが、どうやらこれは好感度がバグっていたらしい。

 世界を司る女神の影響で、この世界の俺に対する好感度は常に高い。

 だが、メイローズ人にとって奴隷や奴隷を使役する者、それで利益を得る者への好感度はめちゃめちゃ低い。

 嫌悪と言ってもいい。

 その二つの好感度のせめぎ合いが、本人たちの知らないところで起こっており、笑顔で冷徹な反応というわけのわからない事態になっているようだ。


「そうですか。あなたがボルフェティノ商会を出入りしていると見た者がいるのですが」


 そういう情報がどこからか組合に流れ込むのだろう。

 また、そういう情報源がなければ冒険者組合などやってられない、ということも透けて見える。


「ああ、なるほど。皆さん勘違いしているようだな」


「勘違い……とは?」


 受付嬢の反応がわずかに変わった。


 俺はミスルトゥを呼ぶ。

 首輪に手枷と奴隷スタイルだ。

 服だけが、竜胆の村で着ていたものそのままだが。


「外して見せろ。自分で、だ」


「いいのですか?」


「ああ、ちと面倒なことになってるからな。誤解を解かねばならん」


「誤解させるようなことをするからですよ」


 と、言いながらミスルトゥは首輪と手枷を簡単に外した。

 それはこの世界の魔法的に縛られた奴隷にはできないことだ。

 首輪を外そうとすれば首がしまり、手枷を取ろうとすれば電撃が走る。

 それが、この世界での奴隷に対する仕打ちだ。


「これは一体……?」


「俺はピオネ村からここへと続く街道の途中で、奴隷商に襲われているこいつを見つけた」


 後ろにいるゼルオーンが身動ぎするのを感じる。


「エルフが多く住むガリア樹海を切り開いて通された街道ですね」


「らしいな。奴隷商どもはボルフェティノ商会と名乗っていたが俺は悪漢かと思い全員倒してしまった」


「そこでボルフェティノ……ですか」


 ゼルオーンが後ろで唸っている。


「そして、このミスルトゥに話を聞いてな。住んでいた村が襲撃され燃やされたこと、親類がこのグリーサにいることを聞いてここにきたわけだ」


「そうだったのですか。これは思ったより大変なことです」


「それでだ。このミスルトゥはエルフの例にもれず美形だろう?道中の安全を考えて奴隷の格好をさせていたんだ。誤解させたようで悪かった」


「いえいえ、こちらこそ。失礼な態度をしてしまいました」


 本当にすみませんッ!と受付嬢が立ち上がって頭を下げた。


 作り話なので本当に申し訳ないのはこちらである。


「ま、まあ。俺は気にしてない。それにボルフェティノ商会でちょっとばかしキツく言いすぎてな」


「いいんです。あんな奴隷商なんて屑です。街に要りません」


 と、受付嬢が本音をもらしたところで、組合の男性職員がこちらへやって来た。


「プラムさん。仮にもボルフェティノ氏はこの街の名士ですよ。あまり失礼を言ってはいけません」


「あ!組合長……し、失礼しました」


 受付嬢はプラムという名らしい。

 そして、男性職員は組合長、か。


「さて、ギアさん。少しお話を聞かせていただきたい。こちらへ来ていただけますかな?」


 組合長、というにはまだ若い。

 三十後半くらい、常に微笑みを浮かべた柔和そうな男性だ。


 しかし、さっきからこの男にずっと殺気を投げ掛けられている。

 俺もやり返しているが、怯む気配はない。


 試されているのはわかるが、なぜ試されているのか。


「ああ、そうだな。座りたいと思ってたんだ」


「組合長室の椅子は、組合の備品で一番金がかかっていましてね。きっとご満足いただけると思ますよ」


「そいつは楽しみだ」


 組合の待合室はざわついていた。


 奴隷連れの冒険者が来たと思ったら、それは誤解のようだ。

 そして、その冒険者は組合長に連れていかれた。


 何かが起きそうだ、と冒険者たちは予感した。

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