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331.はやいのとつよいのがくみあわさると、魔王の勝ち

「ニンゲン、オロか。コドモツクルメスツレテクとエサがツイテクル。オウサマのイウトーリ」


 目の前に現れたのは、外にいたラージゴブリンと同種っぽい大柄のゴブリンだ。

 知性は……それほどでもなさそうだが人語を解するだけでもゴブリンとしてはかなりのものだろう。


「おい、ゴブノル。余計なことをべらべらくっちゃべってんじゃねえよ」


 ラージゴブリンの後ろから、赤帽子レッドキャップゴブリンが現れる。

 俺の警戒度があがったことを、ヴァインが察知して狼狽える。

 いや、数が増えたことを恐れたのかもしれない。


 しかし、ここにも赤帽子レッドキャップか。


「ゴメンヨ。デモいいジャない。どうせ、こいつラはエサダヨ」


 ゴブノルと呼ばれたラージゴブリンはニタニタと笑っている。

 反対に赤帽子の方は苦い顔をしている。


 うん、だんだんゴブリンの顔の表情がわかるようになってきた。


「だから、テメェは進化の方向を間違ったっていうんだよ」


「ナニが?」


「ずうたいがでかいんだから、相手の力量をはかる力をもっと鍛えろよ」


「うーん?」


「そこの金色頭はただのエサだが、黒いやつは危険だ」


「そうかなあ」


 赤帽子は短刀を両手に持ち構えた。

 こいつも速攻強襲型か。


 そして、ゴブノルもどこからか太い金属の棒を取り出す。

 見たまんまの脳筋か。


「悪いね。あんたらにはここで死んでもらいたいんだ」


 赤帽子の言葉に、俺は笑みを浮かべて答える。


「悪いな。ご期待には添えそうにない」


「だろうな。おら、演技はやめだ。本気で行くぞゴブノル!」


「あーん?……本気でやるのかよ。やんなるなあ」


 頭のネジが一本抜けたような言動をしていたゴブノルの、その目が急に鋭くなった。


「ヴァイン、逃げろ」


「え、え?」


 ゴブノルは鋭い踏み込みでヴァインに接近、金棒を叩きつける。

 さすがにヴァインも冒険者だけあって、初撃は回避。

 だがゴブノルは続けて金棒を振り上げる。

 そのまま執拗にヴァインを狙い続け、七度の攻撃を敢行。

 ついに七度目で避け続けたヴァインの鎧に金棒が引っ掛かり、派手にぶっ飛ばされる。


「俺を相手によそ見とはずいぶんと余裕があるねえ」


 そう、ヴァインを助けることができないのはこの赤帽子が邪魔をしてくるからだ。


「余裕があるのはテメェらだろうが」


 俺の大太刀の攻撃を二本の短刀で器用にさばく。

 今まで戦った誰よりも、その技量は高い。


「まあね。ここは俺たちの巣穴シタデルだ。攻めこまれている時点でこっちが不利なんだけどねえ」


「アレをぼんくらに見せかけるような小技まで使うとか」


 そもそも、外に出てきた奴らが流暢に人語を喋れるのに、中にいる奴らが喋れないわけはない。

 カタコトで喋っているから、と言ってそいつが頭が悪い、とは限らない。

 奴らにとって人語はあくまで外国語だ。


「知ってるかい。俺たちゴブリンは四つの進化パターンがあるんだが」


「ラージとかホブゴブリンとかの強靭化、あんたのような姿はほとんど変わらない能力上昇化、魔法を使えるようになる知識強化、そしてゴブリンの統率者たる王化、の四つだ」


 俺の答えに赤帽子は呆気に取られた顔をした。


「へえ……ちゃんと答えられた奴は初めてだ」


 これでも魔王をやってるからな。

 小鬼ゴブリンとこちらのゴブリンの生態が似通っているなら、進化のパターンも同じようになるだろう。

 細かい差違はいくつも見受けられるが、ここのゴブリンと俺の知る小鬼ゴブリンは同じと見ていいと思う。


「で、その進化がどうした」


 俺は弾かれた攻撃を無理やりさらに押し込む。

 赤帽子はわずかに怯んだ様子を見せた。


「この巣穴シタデルの中だけかもしれないが、ここで進化したゴブリンはな。ある一つの能力を得た」


 赤帽子の目がぎらりと輝く。


「能力……」


「そうだ。それは“スキル共有”!」


 赤帽子は軽く短刀を振る。

 俺はそれを受け止めるが、不意に超重量の鈍器で殴られたかのような衝撃が発生し、三歩後退した。


「今のは」


「スキルというのは俺たちゴブリンが一体につき一つ持っている能力のことだ。ゴブノルが持っているのが重量攻撃、一撃一撃があいつの持っている武器と同じ重さ、同じ威力になる。それを俺たちゴブリンは共有しているのさ」


 短刀の一撃が、あの金棒のような重量のある鈍器と同じ威力になるというのならそれは大変なことだろう。


「ということはお前の持つなんらかの力もあのデカイのと共有しているってことか」


「そういうことだ。俺の持つ“無呼吸連打”。超高速で連続で攻撃ができる。さあ、考えてみるか?“無呼吸連打”と“重量攻撃”が組合わさった時、何が起こるか!」


「なるほど、じゃあお前が死ねばあいつは重い攻撃をゆっくりする普通のデカブツになるだけか」


 俺の攻撃は赤帽子の左わき腹から右の肩まで胴体を斜めに断ち斬った。

 それにまったく反応できていない。


「は……え?」


「能力共有というのは、その知識や情報まで共有しているわけではないのか」


「お、俺の体が真っ二つに……?」


「農場を襲った赤帽子レッドキャップやここの前で戦ったラージゴブリンらが俺に一撃で倒された情報は入っていないようだな」


「外の奴らも……?」


 そこで赤帽子の意識は途切れ、動かなくなった。


 俺は身を翻して、鈍重な動きに戻ったゴブノルを振り向き様にぶった斬った。


「あ、アれ?」


 胴を斬られてゴブノルは絶命した。


「おい、大丈夫か」


 ゴブノルにぶっ飛ばされて転がっているヴァインに声をかける。

 重い一撃だったろうが、即死するほどではない。


「う、ううう。治癒魔法をくれ」


 腕をおさえている。

 折れたか?


 倒れたままのヴァインの腕に触る。

 折れて、はいない。

 が脱臼している。

 うまく力を逃がし損ねたな。


「今から抜けた骨を入れるから歯を食いしばってろよ」


「うぇ?」


 ちょっとだけ治癒魔法を使って、痛みを消しながら腕をぐっと押し込む。


 がぐん、と鈍い感触がしてヴァインの腕がもとに戻る。


「!!!!!!!!?????」


 ヴァインは声にならない悲鳴をもらす。


「おし、動かしてみろ」


「痛いです……いや、動く……痛くない」


 ヴァインは腕を動かしている。

 治癒魔法でサポートしながらだったから痛みも残らないはずだ。


「よし、先へ進むぞ」


「ま、待ってくれ。本当に俺たち二人で行くのか?」


「ああ」


 ヴァインがいてもいまのところオトリ役にしかならないが、一人で返すわけにもいかない。

 もう少し、剣技が振るえれば使えるだろう。


「なら、せめてラングたちを連れてこよう。全員集まれば十人くらいにはなる。二人よりもよほどいい、そうだろ?」


「そいつは無理だ」


「なんで?」


 鼻水をたらしてヴァインは信じられない、みたいな顔をした。


「今、巣穴の入口をラングたちが確保しているから、俺たちは前へ進めるんだ」


「どういうことだ?」


「外にはおそらくゴブリン雑兵が五百体はいるだろう。そいつらがまとめて攻めてきたら、俺たちに勝ち目はない」


「そんな……」


「だが、狭い入口を保持できれば領主軍が来るまで持ちこたえることができる。ラングはそう考えたのだろうな」


「じゃあ、俺たちは」


「俺たちだけでここのロードを倒すこと、が目的となるな。もちろん、捕まった仲間たちを助けたうえで、だ」


「そ、そんな……」


 肩を落としたヴァインを引きずるように、俺は奥へ向かうことにした。


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