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320.極光夜2-03

 どうしてもたどり着けなくて、それでも歩みを止めていなかったラグレラとキャロラインたちは合流した。


 意外にもあっさりとラグレラはキャロラインたちとの共闘を承諾した。


「ラグレラさんは前の記憶があるのですか?」


 と聞かれたラグレラは。


「ないない。けどラグレラちゃんの保護者がいろいろ事情を教えてくれてね」


 どうやら、この世界では二週目が始まっているが、外は外で普段通りの時間が流れているようだ。

 神々と魔界の実力者たちが協力しあって事態の解決に動いているらしい。

 そのおかげでラグレラもある程度状況を把握している、とのことだ。


 ともあれ、これで御座所突入パーティの再結成である。

 前回はここで、極光が赤くなるのを確認した。

 だが今回は、まだ青い。

 油断はできないが余裕はある。


 暗黒騎士もどうやら気付いていないか、気付いていてもこちらを見くびっているようで、影を送り込んでくることはなかった。

 全員の全速力のダッシュの結果、魔王の御座所にほぼ無傷で五人はたどりついた。


 謁見の間、玉座の前にそれはいた。


 全身を、魔王軍暗黒騎士の制式鎧に包んでいる。

 面頬で顔まで隠している。

 しかし、正体を知っているキャロライン以外はその体格、雰囲気から同じ人物を連想していた。


「ギア……?」


 はじめに声をあげたのはシフォスだった。

 ギアが子供の頃より、数十年以上。

 一瞥しただけで見分けがつく。

 はずだった。


 目の前の暗黒騎士は、確かにギアそのものに見える。

 だが、その挙動に懐かしい弟子の要素は含まれていない。


「違います。これはギアさんではありません」


 キャロラインが断言した。

 あれの正体は影。


 この奥にいるリヴィエールが想像した最強の存在の複製コピーだ。

 しかし、それだけではないことをキャロラインは知っている。

 リヴィエールではない誰かの考えた最強の存在である“暗黒の霊帝”。

 それが混ざっている。


 前回の暗黒騎士の話やハヤト神らの動向から、どうやら魔法の神様とやらが要なのは間違いないだろう。

 その神様がリヴィエールに力を譲渡してどこかへ消えてしまった。

 その時に、魔法の神が封印していた何かが解放され、この世界を形作った。


 いったい何が封印されていたのだろう。


「その王女の言うとおりだ。私はギア・サラマンディアではない」


 暗黒騎士はそう言った。


「ならば何者だ。この世界はなんだ?」


 シフォスの問いに暗黒騎士は一歩足を進め、大太刀を構えて答えた。


「私に名は無い。この世界は滅びの始まりの場、極光の夜だ」


「意味がわからぬ」


「意味を答えることなど、それこそもう意味がない。全ては滅びる」


「シフォス殿、これに何を聞いても無駄です。これも所詮は影。己の意志を持たぬ木偶でくです」


「しかし」


 ギアに似ている、ということは友人だったアグネリードとエファスにも似ているということだ。

 友人に似ている者と戦えるか……?

 そうシフォスは思っていた。


「神に会っては神を殺し、親に会っては親を殺す。執着を手放した先にこそ、真理がある」


 ニコがそう呟くと、シフォスはビクリとなった。


「小娘……なんだ、今の言葉は?」


「私の故郷の、ある宗教の教え、かな?」


「神に会っては神を殺し、親に会っては親を殺す……」


 殺伐とした印象を受ける言葉だが、その本質はニコの言った後半部分にある。

 神への信仰、親への敬慕。

 それは大切なものだが、それすらを捨てなければ真理は掴めない。

 しかし、そういう言葉に捕らわれていても真理までたどり着けないのだから、教えというのは難しいものだ。


 とりあえず、ニコの呟きはシフォスに何か天啓のようなものを与えたらしい。


「……なれば友など切り捨てても……」


 シフォスは淀みなく大典太光世を抜いた。

 真剣の美しくも危険な輝き。

 ちゃんと鯉口を切って、一気に抜いている。

 さすがに“剣魔”と言ったところか。


「シフォス殿……怖いですか?」


 キャロラインは一応聞いてみた。

 前回、シフォスが恐怖で動けなくなった瞬間は確かにあったのだ。


「怖い?……ああ、怖いのかもしれぬ。俺の刃が俺自身に扱いきれるのか。老いはじめて己に恐怖しておるな」


「大丈夫なようですね」


 キャロラインも“関の孫六”を抜いた。

 勇者の神の力が全身に満ち、戦う準備が完了する。


 ニコも真新しい“関の孫六”を抜いた。


 メリジェーヌも闘志を露にし、ラグレラもねじくれた杖を構える。


「見事だ。闖入者どもよ」


 暗黒騎士が瞬時に戦闘態勢に入った五人を賞賛した。


「あなたに誉められても何もうれしくありません」


「何も誉めているばかりではないさ。君たちの、あまりにも迅速な行動のおかげで私は何も手を打つことができなかった」


 そうなるように動いていたから。

 前回の、死者の魂を汚すような足止めも今回はさせなかった。

 獣人、槍使い、ニブラスの騎士。

 確かに彼らはギアにとって強い印象を残した戦士ではあったろう。

 だが、死してまで酷使されるほどに恨まれてはいない。


「あなたを倒します」


 キャロラインは切っ先を暗黒騎士へ向けた。

 暗黒騎士はスッと構えをとる。

 やや身をかがめ、いつでも抜刀できる状態。


「闇氷咲一刀流“闇「来ます!広範囲闇属性高威力斬撃攻撃!」凍土”!?」


 暗黒騎士の無銘の大太刀から繰り出される神速の抜刀術。

 魔力を込め、さらに“暗黒刀ダークブレイド”の魔法で攻撃範囲が極大化している。

 それは上位竜に匹敵する力を持つ“大多頭蛇ラージヒュドラ”すら切り裂く。


 のだが。

 キャロラインによって、それは見抜かれている。

 いや、彼女の記憶に強く刻み込まれている。


 この一撃によって、前のメリジェーヌは命を落とした。

 キャロラインを守って。

 本来なら耐えきれたはずなのに。


 だから、ここをまずしのぐ。

 そして反撃だ。


「大技で後の先を取り、一気に戦力を減らすか。つまらん手を使うことよ」


 シフォスは瞬時に同威力の技を叩き込んで“闇凍土”の威力を打ち消す。


 前回、ここで戦線離脱したラグレラは無数の細かい障壁を展開する“障壁シールドオブ真砂トゥインクル”で防御。


 メリジェーヌは“竜鱗ドラゴンスケイル”と気合いを併用して弾き飛ばす。


 ニコは“関の孫六”をちゃんと構えて防ぐ。

 前回も“闇凍土”を受けた時、勇者の神の刀の守りで命は取り留めた。

 守備に専念すれば、戦闘不能とはならないはずだ。


 キャロラインはシフォスの真似をして斬ってみた。

 案外簡単に暗黒騎士の闇の剣閃は切り裂かれて散った。


「くくく、闇氷咲の大技ゆえ、気を入れて斬ってみたが……なんとも拍子抜けだ」


 とシフォスは嗤いながら言った。

 それは前回の暗黒騎士のセリフだった。


「拍子抜け……だと?」


 暗黒騎士は狼狽えたように呟く。


「暗黒騎士の姿かたちをしているゆえ、警戒した。だが……杞憂だったな」


「私を侮るか!?」


「侮ってなどおらん。貴様は弱い。それだけだ」


 大技を潰したことで、暗黒騎士は魔力をごっそりと消費した。

 そして、こちらは戦闘継続に支障はない。

 五人は反撃を開始した。


 シフォスとキャロラインが前衛。

 メリジェーヌは前衛と後衛を兼任、ラグレラは純魔法使いとして後方からガンガン魔法を放っている。

 ニコは、ここぞという時に強力な一撃を放つ係だ。


 その連携が繋がると、暗黒騎士にとっては三人の“剣魔”に襲われながら、魔法で滅多打ちされ、ドラゴンに攻撃されている状況である。


 前回はここでメリジェーヌ、ラグレラがやられ、ニコが生きてはいたが戦えない状態になった。


 それを覆したものの、時間はあまり残っていないことにキャロラインは気付いていた。


 天から降りてくる極光は、徐々に赤く色を変えているのだから。

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