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312.極光夜10

 キャロラインの“獅子心ライオンハート”で立ち直ったメリジェーヌは、今度はパーティの立て直しをはかるべく治癒魔法を唱えた。

 それは、影の攻撃を受けて満身創痍のシフォスのもとへと届き、その傷を癒やす。

 癒やす、というよりは回復が早すぎて修復する、と言った方が正確だろう。

 その効き目のあまりの早さにシフォスが声をもらす。


「これは……」


「これでも竜の端くれゆえな。莫大な魔力でゴリ押しすれば、どんな魔法とて熟練者のものと遜色なくなる」


「そうか」


「それに……生徒に無様をさらしたばかりゆえな」


「弟子に負けた師と生徒に無様をさらした教師か」


「お互いに情けないことよのう」


 教え子に勇気をもらった。

 それはメリジェーヌにとって、初めての経験であった。

 心に余裕が戻り、冗談のようなことさえ言えていた。


 その会話と、癒えた体でシフォスにも余裕が戻った。

 己の影に向きあう。

 真っ黒な全身をスルーできれば、そこには己と鏡写しのようなそれがいる。

 さきほど見せた技の数々。

 そのどれもが、シフォスが会得したものと同じ技だ。

 だが、いつしか使わなくなった技でもある。

 シフォス・ガルダイア自身の起こした流派、それの研鑽に夢中になったためだ。

 そのエッセンスは取り入れつつも、誰かの造った技をそのまま使うのはシフォスのプライドが嫌ったのだ。


 だが、あの影は遠慮することなく技を使う。

 まるでそれこそが剣魔であるとでも言うように。


「情けないのはしかたのないことじゃ。なにせ、わらわの魔法は通じず、格闘も効かぬ」


「あれは俺の影だからな……なまなかの相手では勝てん」


「なら!みんなで戦えばいいじゃないですか!」


 その、キャロラインの言葉に年上たちがハッとした。


「皆で戦う……?」


「一人で勝てない敵にも力を合わせれば勝つことができる。私はそう教わりました」


「犬と呼ばれても、畜生と呼ばれても、勝つことが本、か」


 シフォスはそんなことを呟きながら、納得したように笑った。


「キャロラインの案にのるのか?」


「ああ。ここは楽しい試合の場ではなく、命をかけた場だ。やれることをやる必要があろう」


 それに、この娘がいなければメリジェーヌは立ち直れずにそのまま負けていたかもしれない。

 その功労者の意見だ。

 聞かぬ道理もない。


 シフォスは、そこにいる者を順に見た。

 メリジェーヌ。

 ラグレラ。

 ニコ。

 そして、キャロラインだ。


 シフォスは「力を貸してくれ」と頭を下げた。


 もし、ここに魔界の住人がいたら、それは卒倒するほど驚いただろう。

 “剣魔”が頭を下げてものを頼んでいたのだから。


「一人でやるよりも、ずっと楽じゃぞ」


「ラグレラちゃんはウザそうな小技で攻めるから」


「シフォスさん。さっきよりいい顔になってますよ」


「……さっきは助けていただきました。今度は私が助ける番ですわ」


 この急ごしらえの、仲間とも呼べぬ一団のことを、どこかシフォスは信頼していた。

 それは、この面々がかもしだす雰囲気が、どこかかつての友だったアグネリードやエファスのものに似ていたからだった。


 さもありなん、とシフォスは思った。

 こいつらのほとんどは、ギアの関係者だ。

 アグネリードとエファスの息子であるギアと関わったことで、似たような気持ちにさせる何かをシフォスに感じさせるのかもしれない。

 そして、それは己も同じなのだろう。

 俺もまた、関係者だ。


「俺の影程度に遅れをとるなよ」


 皆を笑わせるように言って、シフォスは自身の影に立ち向かった。


 敵が“剣魔”なら、こちらとて“剣魔”、いや“剣魔を超える”と自負した俺だ。

 シフォスは、影のわずかな動きから技の発生を予測し、反射的に対応し始めた。

 それなら簡単だ。

 相手を倒すために隙を見つけて攻撃するのは難しいが、相手の行動を止めるだけなら、後から動いても充分間に合う。

 そうなると、剣だけでなく、手技足技なんでもござれの我流剣術が役に立つ。

 出の遅い強力な技はしっかり押さえ、抜刀術など早い技は軸足を刈るなど動きそのものを潰す。

 たまに見えざる“無刃斬”で相手の首筋などを撫でてやれば無用なところに警戒が向いて、楽になる。

 シフォスは倒さなくてもよい。

 同等の相手の注意を向け、仲間の攻撃が通るようにすればよいのだ。

 相手を引き付け、その攻撃を封じる。

 パーティ戦闘におけるタンク役。

 バリバリの攻撃手だった自分が、まさかそれをしようとは、と自分の今の役割にシフォスは満足していた。

 誰かを守ることが、その誰かが敵を倒してくれると信じることが、これほど楽しいとは夢にも思わなかった。

 嬉々として、シフォスは戦い続ける。


 魔法使いにとって熟練の戦士の放つ“気合い”ほど厄介なものはない。

 誰も真面目に調査などしていないだろうが、あの“気合い”とやらを放つ時に戦士たちは魔力を発散しているのだという。

 その魔法の形にならなかった魔力が、ある種のフィールドを形成し、迫り来る魔法に干渉し、吹き飛ばすのだと言われている。

 これで打ち消せるのは、弱い魔法や手順を省略したものだと思われる。

 つまり、ラグレラやメリジェーヌの魔法を打ち消せるシフォスの影の実力は相当のものであると言える。

 この魔法使いにとって厄介な“気合い”を防ぐ方法は、主に二つ。

 一つは魔法そのものを堅牢に放つことだ。

 妨害対策をしっかりし、気合い程度で消せないほどに紡ぎあげた魔法なら大丈夫だ。

 もう一つは、気合いそのものを防ぐこと。

 どうしても、気合いを放つには一行動を使わなくてはならない。

 それは攻撃や防御のタイミングがズレてしまうことになる。

 そのため、攻防に集中させてしまえば気合を放つタイミングを見失ってしまうだろう。

 シフォスたちが選んだのは後者だ。

 影とシフォスはほぼ同じ実力。

 気合いなどを放つタイミングがあるのなら、その間に剣をふり、相手の動きを止める方がよほどよい。


 そうやって、シフォスが影を引き付けることで、魔法使いたちが攻撃できるチャンスが増えるのだ。


「お主も“爆散バースト”と契約しておるのじゃろう?」


「え、ええ」


 ラグレラには、目の前の女性がとても恐ろしく見える。

 人間に見えるのに、もっと何か別の怪物の前に立っているような。

 どうして、王女キャロライン料理人ニコは普通に接することができるのだろうか。


「そうか。人より良く見える目を持っておるのじゃな。苦労したであろう」


「ッ!?」


 ラグレラの生涯は順風満帆とは言えなかった。

 それを見抜かれたのは初めてだった。

 見抜かれて、自分がこんなに動揺すると知ったのも初めてだった。


「ではやるぞ。わらわとズラしたタイミングであの影に間断なく撃ち込んで爆破してやろうぞ」


「ああ」


 シフォスが引き付けて、魔法を打ち消す気合いを放てなくしている今、魔法攻撃が有効だ。


 メリジェーヌとラグレラは交互に“爆散バースト”を撃ち込み始めた。


 ラグレラは連射がしやすいように威力は八分目くらいで撃っているが、メリジェーヌは同じ威力で連射している。

 ラグレラに合わせてくれている。


 この同じ威力の“爆散バースト”が続くことで、影は少しずつダメージが蓄積していくことになる。

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