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305.極光夜03

 異変に巻き込まれたのは、キャロラインとシフォスだけでは無かった。


 同じように魔界に招かれて滞在していたニコも、夜中に目覚め、そして怪物の群れと極光オーロラを見ていたのだった。


 竜の本能が、目覚めをうながしたメリジェーヌもやや不機嫌な気持ちで目を開けた。


 かつて夢魔に取り憑かれたことで、睡眠に対する不可思議な適性を得たラグレラも起き上がる。


 ある意味、魔界で一番長い夜はこのような幕開けをした。



「うわぁ、オーロラだ。テレビでしか見たこと無いよ」


 それはある意味現実逃避的なセリフだった。

 オーロラの下、本営の街並みには鷲獅子グリフォン小鬼ゴブリンが闊歩し、空には亜竜ワイバーンらが飛んでいるのだ。


「やっぱりファンタジーの世界なんだなあ」


 ニコ自体は、それほどリオニアスから出たことが無かったから、魔物や怪物の類いは見たことが少ない。

 リオニアスを攻めていた獣人の軍団も、ついに城壁を突破することは無かったため、それも見たことがない。


 だいたい魔界で一番はばをきかせている魔人だって、見た目は人間と一緒なのだ。

 特に、人間との混血ハーフだというギアさんなんか、ほぼ人間と同じだ。


 つまり、本格的に怪物の姿を見たのは今夜が初めてなのだ。


『……ずいぶん……遠いところに……』


「ハヤト君……なんか電波遠くない?」


 いつもなら、明快に通じる勇者の神様ハヤトとの通信が今夜はひどく遠い。


『俺は……手伝えない……』


「いいって。大丈夫だよ」


『そういうわけ……にも……』


「心配性だなあ」


『武器を……送る……それでなんとか……』


 ぶぅん、と空間が歪んで一振りの刀が出現し、ニコの手に収まった。


「あの、私、刀とか使えないんだけど」


『俺の力で……コピーした……最上級大業物“関の孫六”』


「ブランド包丁じゃん。さすが日本出身者」


 勇者の神様ハヤトもニコも、二十一世紀の日本から転生なり転移してきた人間である。

 この世界では、おそらく千年以上生きている時代に差があるが、ハヤトが神になり不死になったため、こうやってコンタクトが取れる。

 そもそも、ニコをこの世界に転生させたのがハヤトである。

 そのアフターケアでもないだろうが、こっそり力を貸してくれているらしい。


『そこは……おそらく……心の世界……』


「心の世界?メンタル的な?カウンセラー案件?」


『……もう、だめだ。途切れ……帰ってこいよ……必ず……』


 それきり、彼の声は聞こえなくなった。


 本当にここはかなり神様的な電波が遠いところらしい。


「もう……私、ただの料理人なんだけどなあ」


 ドンドンとニコの部屋の扉が叩かれる。

 ノックではない。

 ぶち破ろうとする音だ。


 恐怖はもともと無い。

 もちろん、ここに殺到してくるであろう怪物たちに捕まれば命は奪われるだろう。

 それは嫌だ。

 トラックに轢かれるだけでも嫌なのだ。


 けれども。

 優しい友達がくれた勇気そのものを、ニコは手にしている。

 その勇気が、力を貸してくれる。


 だから、今のニコはイケる。


 ばぁーん!!と破られた扉の向こうには、ゲタゲタと笑う小鬼ゴブリンがいた。


「勇者剣法“疾風斬”」


 口をついて出た技の名前、それがまるでトリガーのように体を突き動かす。

 突進からの的確な斬撃によって、扉周辺にいた小鬼ゴブリン八体は細切れにされ、そして青白い光となって消えた。


「すご。さすが勇者の刀」


 ここまで小鬼が来ているということは、ここはもう安全ではない、ということだ。

 ならばどこへ行くか。


 ここは心の世界だと、ハヤトは言った。

 誰かの心の中なのだろう。

 その誰かがぼんやりとニコはわかってきた気がする。


 もし、そうなら行くべき場所は魔王の御座所だ。


 確信をもってニコは走り出した。



 不機嫌そうな顔のまま、メリジェーヌは目の前にいた亜竜ワイバーンの頭を蹴飛ばした。

 巨体の亜竜はくるくると回転し、誰かの家に頭からめりこみ動かなくなった。


「竜とも呼べぬトカゲ風情が、わらわの前に立ちふさがるとは身の程を知らぬのう」


 足元には小鬼ゴブリンの死骸が山のように重なっていた。

 その周囲には鷲獅子グリフォンの亡骸が四体分積み重なっている。


 メリジェーヌの前にいた怪物たちが、それ以上の怪物であるメリジェーヌによって蹂躙された姿だった。


「しかし……見覚えのある魔物どもよのう。実地研修を思い出すのう……っと、わらわの発言もどこかで聴いておるのか」


 メリジェーヌの前に、人影が立っていた。

 黒い。

 顔は見えない。

 その右手には青白い燐光を放つ片手剣が握られていた。


「ヒルデブラント……趣味が悪いのう。これは、お仕置きじゃな」


 パチン、とメリジェーヌは指を鳴らした。

 人影のいたところが爆発を起こす。


 人間だったころには無詠唱で放っていた“爆散バースト”の魔法を、ドラゴンになり、竜王になり、魔王になり、そして再誕したメリジェーヌは魔力をこめた動作だけで放てるようになっていた。

 なおかつ、威力も発動速度も範囲も桁違いに強化されている。


 その爆発を影は跳躍して回避する。

 そのまま、爆風にのってメリジェーヌへ突撃してくる。

 青白い魔法の剣は突きの構え。


「本物より動きがいいが……読めるぞ」


 メリジェーヌは剣の間合いから一歩離れる。

 その横を影と青白い光が通り抜けていく。


シッ!」


 メリジェーヌが込めた気合いが影の背中を押す。

 バランスが崩れた影は、小鬼の死体の山に突っ込んだ。


「攻撃の後は残心をおろそかにするでない」


 影は小鬼の山を吹き飛ばし、再度突撃。


「同じ技は二度と通じぬ……ッ!?」


 影はメリジェーヌの目の前で急停止、そのブレーキを踏み込みと関節の駆動で調整し、剣を振るう力に変換。

 斬撃。


 がメリジェーヌを襲う。


 斬れた、と常人なら判断する刃は、しかしメリジェーヌの肌に通らず止まる。


「なるほどなるほど魔力強化して体に無理をきかせることも想定しておる、と。本人にはできないだろうが、この一戦なら有効よな」


 メリジェーヌは影を蹴飛ばした。


「だが、わらわの鱗の硬さを読み違えていたようじゃな」


 影は亜竜すら吹き飛ばす威力の蹴りに空中を回転しながら、手足を動かし態勢を整える。


 青白い燐光が影の周囲に煌めく。


「リーダー殿が戦ったのは金色の光を持つ魔法剣だったそうじゃ。だが、お前の目指す光は青白い魂の光か」


 メリジェーヌはほのかに笑った。


「お前の成長が楽しみじゃのう。ジーク」


 青白い残光をたなびかせながら、影は突進してきた。

 魔法剣の青白い光が流星のように迫り来る。


「“烈火爆散エクスプロージョン”」


 その青白い剣の一撃の威力を確かめたくもあったが、今はそんな場合でないし、どうせ受けるなら本人の剣の方がいいとメリジェーヌは思った。


 放たれた爆発は、影を跡形もなく吹き飛ばした。


 この世界の主がイメージした魔法剣の持ち主の成長した姿でも、メリジェーヌには敵わない。

 それが答えだ。


 ただメリジェーヌは教師として、この戦いを楽しんでいたりする。


「はてさて、ここの主はどこへおるやら。とりあえず真ん中へ向かってみるかのう」


 不機嫌そうな顔はどこへやら、メリジェーヌは歩きだした。

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