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301.きっかけ、そして原因

「あ、宿題やってない」


 そのことにリヴィが気付いたのは、真夜中のことだった。

 寝ていたはずなのに、バチンと目覚めてしまったのだ。

 なんだろう、不安で眠れないとかじゃないんだよなあ。

 急に、起きてしまった。

 そんな感じ。


 宿題の件が無意識にわだかまっていたのかな。


 でも、しょうがないよ。

 だって、来た初日に戦争だったし。

 それから、ギアさんにプロポーズされたし。

 それから、式の準備でいっぱいいっぱいだったし。


 でも、メリー先生は許してくれないよね。


 そうか、いろいろあって忙しかったのだな、大変じゃのう。

 で、それがなにか?


 とか言いそう。


 ていうか、メリー先生も結婚式の出席者だし。


 ナギさんとか、フォルトナちゃんはやったのかな。


 あ!

 そういえば、キャロルさんも呼んだし!

 キャロルさんはやったよね、きっと。


 成績優秀だし。


 冬季休暇でしばらく会ってない級友たちのことを思い出す。


 みんな元気かなあ。



 そこで、わたしはおかしなことに気付いた。


 月の位置が変わっていない。

 音がしない。


 魔界でも月は、人間界と同じようにゆっくりと一晩かけて東から登って西へ沈む。

 冒険者としての経験から、月の位置で今がどれくらいの時刻か推測するって技術は持っている。

 そんなに腕はないけど、夜中か夜明けかくらいならわかる。


 その経験から言うと一時間くらい月が動いていないのだ。


 音に関しても、鳥の鳴き声が聞こえてなければおかしい。

 冬でもルリビタキやハクチョウなどが夜中もピギャーとかクゥルクゥルとか鳴いている、はずだ。


 でも、それも聞こえない。


 わたしはゆっくりと起き上がり、寝台から出て外を見た。


「あー、これ誰だろう」


 降ってきた雪が、止まっている。


 時間が止まっている。


 これは、時間停止ワールドオーダーの魔法で時を止めている状態だ。

 元々、竜王であるメリジェーヌしか使えるのを見たことがない。

 彼女が認めた対象か、特殊な才能を持つものしか、その止まった時間を動くことができない。


 わたしは、以前に無理矢理、時間停止を突破したことでその才能が身に付いたのだろう。


 ということは、今は誰かが時間を停止していて、そしてわたしはそれに気づいてしまった、ということだ。


 なんだか面白くなってきたので、魔王軍の本営を探検することにした。



 魔王軍本営は、魔王軍の中心的な拠点だ。


 普段はここに魔王がいて、政治も軍事もここで魔界の全てが決められている。

 人間界に侵攻した時のように、魔王城を建造することでそこに本拠を移すようなこともある。

 が、魔王というシステムが出来てから、ここが魔王軍の本拠地であることは間違いない、とギアさんは言っていた。


 ただ、ギアさんは新たに本拠地としての都を造ろうとしているらしい。

 “宵の丞相”の吸血鬼ツェルゲートさんと一緒に頭を捻っているようだ。

 人間、のわたしから見るとツェルゲートさんは怖い人です。

 一番怖いところは、目です。

 瞳孔が赤く、夜中でも光っているように見えて、夜の通路で遭遇すると悲鳴をあげそうになる。

 あげないけど。


 あと肌も青白いし、服もトゲトゲがついた黒い服ばかり着ている。

 怖い。


 同じ吸血鬼のエリザベーシアさんは、そんなに怖くない。

 肌は白いけど、陶磁器のような白さだし、キレイだし。

 噂では、魔王の魔界での妻なのではと言われていたけど、ギアさんもエリザベーシアさんもそんな感じはなかった。

 仕事上の関係、らしい。


 後から知ったけど、前に魔界に来た時に起こった戦争で、吸血鬼と戦ったのだけど、その時に吸血鬼軍を率いていたのがエリザベーシアさんのお兄さんだったらしい。

 わたしは直接戦ったわけではないけど、戦争には参加した。


「あなたが気にすることではありませんわ」


 とは言われたけども。


 夜の廊下を歩く。

 空気がねっとりしている気がするのは時間が止まっているからだろうか。


 時間停止の中でも動けるといえば、“勇者”さんだ。

 素の状態で、時間停止の影響を受けないらしい。

 この魔王軍で、ギアさんの側近中の側近として大活躍しているらしい。

 その正体を知っている人から見たらとんでもない関係だろう。

 かつての暗黒騎士と勇者。

 それが魔王とその側近。

 人間の王様たちが聞いたら卒倒するのではないだろうか。


 本営は、3キロメートル×3キロメートルの面積の四方を城壁が囲み、その周囲を水堀が囲んでいる。

 城壁の中は、中心に魔王の御座所というか魔王軍の司令所になっており、その周りに魔王の居住地というか宮殿と後宮がある。

 わたしが住まわせてもらっているのもそのあたりだ。

 宮殿の周りにも壁がある。

 壁の外には市街が広がり、わたしがギアさんに連れていかれた酒場なんかもその中にある。

 街の中に、軍の拠点も点在している。

 こうやって、市街の中から軍隊を展開できるのだ。


 ギアさんに言わせると、この街はそれでも狭いのだそうだ。

 広さ的にはリオニアスよりもちょっと狭いくらいだろうけど。


「軍事的に堅固なせいで、街としての拡張性がないんだよな」


 とギアさんは言っていた。

 次に作る都には城壁を造らずに平野いっぱいに街を拡げることができるようにするそうだ。


「防備はどうするんですか?」


「俺に逆らう奴はいない」


「おー、魔王っぽい」


「まあ、これからも逆らわない保証はないからな。妖鬼族のやり方をやろうと思う」


「妖鬼の?」


「ああ。妖鬼の都“怨京都おんぎょうと”も壁が無い街でな。防備は、関門平野と四つの隠し拠点に兵をまとめることでまかなっていたんだ」


「ということは?」


「予定地の平野には以前からの砦が多数あってな。そこを大規模改修して詰め城にしようと思うんだ」


「なるほど、襲ってくる敵がいたら早期に察知して周りの城から迎撃する、と」


「そういうことだ」


「でも、城壁で囲んだ方が楽そうですよね。拡張性もその城壁の外に拡げてその外にも城壁を造ったりすれば……」


 わたしが思い出したのはリオニアスのことだ。

 わたしの故郷である街だ。

 この街も、城壁で囲まれていてその外に商業街ができている。


「俺はな。いつかは戦の無い魔界にしたい」


「ギアさん……」


「その時に新しい都は、城壁の無い街はその象徴となるはずだ」


 子供のように目をきらきらさせて語るギアさんに、わたしは思わず飛び付いたのだ。



 そんなことを思い出しながら、わたしは本営の魔王御座所の中を歩き回っていた。

 体感的に一時間はたっていると思うが、時間停止は解けていない。

 メリーさんはおそらくここまでできない。

 前にこの魔法を使った時は四半刻さんじゅっぷんくらいで、限界そうだった。

 竜王以上の魔力を持つものか。

 ちょっと不穏な感じだ。


 謁見の間にたどり着くと、わたしは術者と出会うことになった。


 玉座の前にそれはいた。

 白い仮面、真っ黒なローブ。


「魔法の神様……」


「おや、止まった時の中を歩んできましたか。まあ、あなたならさもありなん」


 魔法と契約する時に現れると言われる契約官、あるいは魔法の神。

 それが目の前にいた。

 以前に学園の自室で会った記憶がある。


「ここへはなにをしに?」


「魔法の乱用は控えるように、と言いませんでしたっけ」


「……あ」


「まあ、そんなに怒ってません」


「そう、ですか」


「あなたは」


 瞬間移動のように魔法の神はわたしの目の前に現れた。


「わたしが、なにを?」


「魔法を造り出す才能があります」


「え?」


「私の跡を継ぎませんか?」


「どういうことです?」


「ラスヴェート様も、彼に魔王の座を譲られました。そしてそのまま星の海へ旅立ちました。私も追いたいのです」


「お、追っかけ、ですか?」


「ラスヴェート様のいないこの世界には特に用もないので」


「魔法の契約をしなきゃないんですか?」


「いえ。私がいなくても特に問題はありません」


 魔法の契約とか教導とか監視とか、前に会った時は言っていたような?


「え、じゃあどういうことなんです?」


「あなたを超える才能を持つ者はいないですから」


 それで何が問題ないのだろうか?


「えー?」


「問答無用!“神威委譲デヴァインオーソリティー”」


 ビカビカという光線的な何かを浴びせられた。


 気が付くと、魔法の神様はいなくなっていた。

 鳥の声がどこかから聞こえ、夜中でも働いている人たちの声が遠く聞こえた。


 狐につままれたような気分になり、わたしは戻って寝ることにした。



『ラスヴェート様はこの地を彼に委ねると決断された。ならば私も魔法という力を彼女に委ねよう』


 とは言いつつも、早く愛しのラスヴェートに会いたくて急ぐ魔法の神だった。

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