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288.妖鬼戦争後始末、大鬼王についてのあれこれ

 怨京都おんぎょうとの入口で、妖鬼を統治する大鬼王おおおにきみ魔王軍おれたちを待っていた。


 第百四十五代“涯角がいかく”。

 妖鬼族の中でも武闘派の王であり、魔王軍に恭順することを決めた先代王を謀殺し、君主の地位についた。

 それでも妖鬼将ガラルディンが魔王軍で活躍する間は大人しかった。

 だが、人間界侵攻が失敗に終わった時、彼の野望が燃え上がった。


 弱体化した魔王軍には従わないという魔界の風潮に乗って、軍備を拡大していく妖鬼族。

 だが、俺が魔王となって変わりつつある魔界の状況に焦りを覚えた涯角王は、真魔王軍の大軍と手を組んだ。

 だが、魔王軍を倒そうとまでは考えていなかった、と彼は釈明した。

 妖鬼の得意なフィールドで勝利することで、魔王軍統治下で存在感を示すのが目的だったようだ。


「“剣魔”の名は、それを実現するに足りうるものだったか?」


 俺の問いに、涯角王は無表情に答えた。


「無論だ。朕とてかつての魔王軍の威勢を覚えておる。誉れある八魔将、そして四天王の名は、今でも胸中で重きを成している」


「そのほとんどが落命した今でも、か」


「死したるからこそ、名が残るというものだ」


「では、貴殿も名を遺すがいい」


 敗北したとはいえ、君主であるものに直接極刑を言い渡すとなると今後の統治に支障がでる。

 だから言わない。

 しかし、俺の言い方は、自害せよ、と言っているのと一緒だ。


「妖鬼の王の座は残していただけるのでしょうか?」


「栄えある妖鬼の王を貴殿の代で潰すとなると後世に悪評ばかりが残るだろうな」


「……なにとぞ、そればかりは」


 そんなことはしない。

 自分たちの王が無くなる、なんてのは統治に反感を買うに決まってる。

 たとえ、傀儡でも王は建てるべきだとは二人の丞相と意見は一致している。


「貴殿の血筋は王位にはつけない。それでよければ」


「……もちろん」


 元々、奪った王位だ。

 子らに継がそうとは思っていただろうが、奪われることは覚悟していたはずだ。


 涯角王との会談を終えたころには、魔王軍による怨京都おんぎょうとの制圧は完了していた。


 やや不満そうなツェルゲートは護送されていく涯角王を見ながら、俺に近付いてくる。


 不満げな顔なのは、先の戦いで丞相たる自分に伏兵による反撃の作戦を知らされてなかったこと、ではない。

 吸血鬼である自分たちが役にたたない、と判断されたのではないか、と思っているからだ。

 適材適所。

 夜という闇の時間にこそ、吸血鬼は使うべきだとは俺は思っているんだが。

 それに、リヴィたちが合流したことで戦いが早期に決着しただけで、夜戦に突入する可能性は大いにあった。

 その時に、ツェルゲートら吸血鬼たちを使おうと思っていたのだ。

 まあ、過ぎたことは仕方がない。


「街専門家としてはどうだこの街は」


「平時の都としては申し分ない」


「平時の、か?」


「四角の中に縦横に道が走り、ボードゲームのボードのように綺麗に配置された建物。道も建物も覚えやすいであろうし、完成されていると言ってもいい」


「では何が不満だ」


「信じられるか?この街には城壁がない。街の外と中が区別されていないのだ!」


「確かにそうだな。守りには向いていない」


「それなのに、戦時に籠る城もない。それどころか、街の中に重要拠点が固まり過ぎている。これでは四方から攻め寄せてきた敵に無防備で対峙することになる。まったく信じられん」


 妖鬼族の者に確認すると、妖鬼族は内乱に継ぐ内乱で魔王トールズに臣従するまでは王の権威などなく、この怨京都も荒れ果てていたのだという。

 その後、内乱も鎮圧され、都も整備されたが先代の大鬼王は魔王軍に逆らう意思のないことを示すために、城壁も守りの城もないようにしたのだという。


「では、宵の丞相はここをどうする?」


「どうもせん」


「城壁も守りの城もない防御力ゼロの都なのだろ?」


「鬼どもは潜在的に敵だと考えるべきだ。敵にわざわざ堅固な城をくれてやる義理はない」


「辛辣な考えだな」


「どうも我らが魔王は気楽すぎる」


「そうか?」


「そうだ。自分が刀を振れば全部思いどおりに行くと思っておる」


「否定は……しない」


「城壁が欲しければ自分たちで整備すればよい。そのくらいの裁量は与えてやる」


「魔王軍による直接統治ではなく、代官を置くのだな?」


「他種族にあれこれ命令されて喜ぶものはあまりおらぬ。私のように主君が放っておけない、のでも無い限りな」


「それはそうかもな」


 連合軍的な様相であった旧魔王軍では、魔人以外の命令はあまり発せられることはなかったようだ。

 命令されても従わない、とも言う。


 今の魔王軍は俺になんとかついてきてくれる奴らなので、魔人と吸血鬼とか魔人に巨人にエルフなんて組み合わせでもしっかりと命令が伝達される。

 ようになっている。


 まあ、文官のトップが魔人と吸血鬼だから、言ってもしょうがないのだが。


 多種族をまとめるというのはこういうことに気を配らねばならない。

 自分は平気だと思っていても、別の考えを持つ者はいる。

 恐怖で押さえつけたのはメリジェーヌだし、暴力で抑えたのはトールズ様だ。

 そのやり方は短期で効果を発揮するが、恐怖や暴力が無くなると大きく反発する。


「相互理解というのはかくも難しいのだぞ、魔王」


「肝に銘じるよ」


「で、誰を次の大鬼王にするつもりだ?あれの子らは外すのだろう。他に血筋がいるといいのだが」


「先代の子らも庶民に落とされたらしい。あまり威厳という意味では期待できないだろうな」


「こちらに親近感を持つ、血筋が確かな者か。難題だな」


 そこへ、関門平野で寝返り、こちらの勝利に大きく貢献してくれたホーソが挨拶にやってきた。

 大勝利の立役者ではあるのだが、寝返りという不名誉なことをしたという負い目が、彼に笑顔を隠させている。


「魔王様、宵の丞相様」


 とホーソは拝礼した。


「ホーソ殿、いやこれからはホーソ将軍と呼んだほうがよいな」


 関門平野の戦いの論功行賞で、ホーソは武功大となり将軍の位を得ることになっていた。

 まあ、武官がごっそりと抜けた妖鬼軍では苦労することになるだろうな。


「畏れ多いことでございます」


「そうだ。ホーソ将軍は大鬼王に連なる人物について心当たりはないか?なるべく我々と親しくしたいと思っていてほしいのだが」


 そこでホーソは何人かの妖鬼の実力者の名をあげた。

 みな、ホーソと同じように親魔王軍派だ。


「ああそれと、武官では私以上に血筋の確かな者がおりまする」


「どういう人物だ?」


「魔王様もよくご存知のアトロイ様ですよ」


「アトロイ……」


 そういえば、と俺は思い出した。

 確か、百年ほど前に妖鬼反乱軍を率いたアクラの孫で、妖鬼将ガラルディンの子どもだと聞いた覚えがある。

 俺への反論する態度といい、血筋といい、なかなかではなく、かなりの才気を感じたのを、覚えている。


「あの者なら問題あるまい。まさか、これを見越して生かしていたわけではあるまいな?」


 と、ツェルゲートが聞いてきた。


「そんなわけないだろ?」


「どうだかな?奇貨だとおもって取っておいたとしても私は何ら不思議には思わんが」


「たまたまだって」


 そんな話をした翌朝。

 涯角王が毒をあおって、真夜中に亡くなったことを報告された。

 話しただけの相手だが、他者の死がまだ俺に影響を与えることがわかった。


 そして、涯角王の葬儀が住んだあと、第百四十六代の大鬼王としてアトロイ改めて阿弖流為アテルイが即位することになる。

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