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28.リオニア王国分裂始末、そして

「いったいどういうことでしょう?」


 と、レインディアは問う。

 事態が急に進みすぎて、ついていけない。


「リオニアス側を過度に刺激していたことに、ニューリオニアの連中は気付いていなかったのだよ」


 と、ティオリールは続けた。


「どういうことだ、ティオリール」


 ユグも口を挟む。

 誰よりも、リオニアスとニューリオニアの対立について悩んでいたのは彼だ。

 しかし、今のティオリールの口振りでは、ニューリオニア側はそれほど事態を重く見ていなかったようにも聞こえる。


「適度な緊張を維持すれば、戦力と交易を高い水準で維持できる、程度だったようだ」


「それは……」


「この言葉は、リオニア王国宰相閣下のものだ。嘘偽りなく、ね」


 対魔王軍、そして対他国との競争に対して、リオニア王国は緊張感のある国体を維持するために、二つの勢力の対立という図式を選んだらしい。


「馬鹿な。あれで適度な緊張だっただと!?」


 ユグが珍しく怒っていた。

 しわのよった拳を握りしめる。


「ユグドーラス」


「国王らが全軍を率いて逃げたあと、わしらが、いや子供らがどんな目にあったか!配給される少ない食料、それも徐々に減らされていった。ギルドの報償金は支払いが遅滞し、衛兵も減らされていった。魔王軍の攻撃にすり減っていく戦力、城壁!いつわしらは独立を宣言してもおかしくないほどに!わしらは恨んでいる、怨んでいるのだリオニア王国を!」


 激昂、という言葉が相応しかった。

 好好爺然としたユグのいつもの姿が嘘のように。

 そして、それは取り残されたリオニアスの人々の代弁であった。


「それを彼らはようやく知ったのだ。さらに調べを進めた結果、全ての部門で少しずつ中抜きがあったようだ。彼らは少しずつだと思っていたが、それが積もりつもって怨嗟にまでなっていることに気付かなかったようだ」


 ユグの言うように食料をはじめとした補給物資、武具などの補充、交替要員、それら全てが少しずつ減らされていた。

 その一部がパリオダなどが組織した盗賊団に流れていた痕跡もティオリールは見つけていた。


 あの日、最も重い処罰を下したのは軍務卿ラッセルバーグ伯爵だが、その他の九卿と呼ばれる大臣相当の貴族らにもそれ相応の処罰をティオリールは審問官として下していた。

 本来、その責を負うはずの法務卿すら衛兵の減員と人員の横流しに関わっていた件を追求される有り様だったため、外部の権力である審問官を使わざるを得なかったのだった。


「わしらはもう出来ることはないのか?」


 怨嗟、憤怒、憎悪、満ち充ちた負の感情が行き場を失くしていた。

 誰よりも、リオニアスの子供達を見てきたユグドーラスに積み重なったものは重い。


「リオニア王国は、私に大きな借りが出来たといえる。そう、例えば旧王都になんらかの賠償と投資を私が言い出せば従うしかないほどの、な」


「そうか……。そこまで頼んだつもりでは無かったのだがなあ」


 と、枯れた笑いをユグは浮かべた。

 怪しい軍務卿をとっちめてほしい、程度の頼みだったがティオリールは全てを解決してしまったのだ。


「さて、レインディア団長」


 と、ティオリールは膝をついたままのレインディアを見る。


「は」


「貴公のこれからの動きはさっき言った通りだが、その後のことだ」


「その、後?」


「王国騎士団を名乗る襲撃者がいたのだろう?ニューリオニアで王国騎士団の実態を調査したまえ」


「は、はい!」


 騎士であったリギルードは軍務卿の命令で動き、それと連動してどうみても騎士に見えない“メルティリア”の面々も王国騎士団のくくりで動いてたようだった。

 レインディアの、団長ですら知らない王国騎士団の暗部を解き明かせ、とティオリールは言ったようだ。


「さて、ギア殿。一つお願いがあるのだが」


「なんだ?」


 英雄相手にその口のききかた!とレインディアは目を見開く。

 ユグは苦笑し、リヴィはニコニコしている。


「私と手合わせをしてほしい」


「手合わせ、ね」


「君は勇者と戦ったのだろう?彼の友人として、そして同じ審問官として彼の今の力を計りたいのさ」


「本人に頼め」


「そうしたいのはやまやまだが、今度ケンカをふっかけたら絶交すると言われていてね」


「そういえばそうだったな」


 とユグが呟く。

 絶交一歩手前になるほど、勇者とティオリールはケンカをしたのだろう。

 だからといって、俺と手合わせするのは違うと思うのだがな。


「なら、そうだな。もし君が勝ったのなら、出入国許可証をあげよう。年会費無料即時発行だ」


「ああん?」


「いや。君さ。人間界に戸籍ないでしょう?そのへんのお百姓さんならともかく騎士たるべき者が密入国者扱いでいいのかい?」


「むう」


 そう、かろうじて冒険者ギルドで冒険者をやっているから認められているのであって、それがなければ俺は密入国者なのは間違いない。


「それに、許可証があれば他国にも自由に出入りできる。なかなか持っている人はいないんじゃないかな」


 貴族にすらも他国への出入国制限がかかる世の中に、このティオリールの提案は喉から手が出るほどの代物だ。


 それほどまでに、俺と戦いたいのか?

 いや、勇者と戦った俺と戦うことで、勇者の力を計りたいと言っていたか。

 勇者マニア、という意味不明な不穏な単語が頭をよぎる。


 まあ、いいか。

 勝てば便利な許可証が手に入るし、負けても現状維持だ。


「わかった、わかった。やろう」


「そうこなくちゃ」


「本気か?ティオリール」


 ユグが困った顔をしている。

 友人同士である俺とティオリールが戦うというのが気に入らないようだ。


「大丈夫だ。彼が負けそうになったら君が止めてくれるだろう?」


 とティオリールが言う。

 言い方が気にさわる。


「そうだな。黄金に土がつく前に止めてくれるだろうさ」


「はっはっは、私にそんな口を聞いたのは勇者以来だ」


 そこで、俺とティオリールは立ち上がり、中庭に向かう。


「お、おいギア、ティオリール」


 慌ててユグが立ち上がり追ってくる。


「レインディアさん、行きましょう」


 リヴィの誘いにレインディアが戸惑う。


「行きましょうって、ギア殿とあの“黄金”だぞ?」


「でも、レインディアさん。ギアさんと戦ったんですよね?」


「あ、ああ」


「なら、ギアさんの力はわかっている、ですよね?」


「確かに、そうだが……しかし“黄金”だぞ」


「百聞は一見にしかず、見に行きましょう」


「それも、そうだな」


 と、なぜかリヴィに手をひかれ、レインディアも向かう。


 つられた冒険者たちがわらわらと中庭を囲みはじめた。


 そして、俺とティオリールの手合わせは冒険者ギルドのみならず、リオニアスの住人も巻き込みはじめる。


 魔王軍の攻撃、リオニアスタンピード、王国騎士団の強襲と何度も起こる危難に疲れていたリオニアスの人々は娯楽を求めていた。


 そして放浪の騎士であり、ギルド最強(暫定)の俺と勇者パーティの一人である“黄金”ティオリールの決闘はまさにうってつけだった。


 中庭はいつの間にか闘技場みたいに整備され、客席ができ、売り子が飲み物や軽食を売り歩いている。


「まるでコレセントの闘技場だな」


 と、ティオリールは呟く。

 この中央大陸より北にある大陸の闘技場のこと、らしい。

 そこと同じような雰囲気なのだろう。


 俺とティオリールは石畳でできた闘技場の上に立っている。

 石工ギルドが余っていた石畳を持ってきて置いたらしい。

 客席は木工ギルドの職人の手作り。

 売り子は接客業ギルドからだし、売り物は商人ギルド、飲食店ギルドが用意したものだ。


 商売のチャンス、ではなくリオニアスの人々が楽しめるように用意したのだろう。


「なら、それにふさわしい戦いをしなくてはならんな」


 俺の言葉にティオリールは笑う。


「同感だ。人々が楽しめる世界こそが勇者の望みだったからな」


「では、やるか」


「おう」


 俺とティオリールは武器を構えた。

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