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27.黄金の“目”

「やあ、旧友と出会えてこんなに嬉しいことはないよ」


 再建中の冒険者ギルドの建物、の前に作られた仮のギルド(掘っ立て小屋ともいう)に突如現れたのは黄金の髪がまぶしい男だった。

 白地に銀の刺繍の涼しげな衣装を身にまとい、軽やかに歩いてきた。


「おお、ティオリール。すまんな、急に呼びつけて」


 と、出迎えたのはユグドーラスだった。


 この時、ギルド(掘っ立て小屋)の中には、俺ことギアと俺にくっついてきたリヴィ、そして先日の襲撃で被害の少なかったパーティのリーダーが四人ほどいた。

 冒険者ギルドの運営と再建について話し合っていた最中だった。


 しかし、ユグを友と呼び、ユグも名前で呼んでいるとなると相手は限られる。


「失礼とは思いますが、もしや勇者の一行のお一人ではないでしょうか?」


 三級冒険者パーティ“ブロークス”のリーダーのオクスフォーザが声をかけた。

 防御力だけなら、二級にも匹敵する。

 そのため、“メルティリア”の攻撃にも耐えきったのだ。

 オクスフォーザはバルカーより一つ年上の青年で、彼や他の少年と同じように戦災孤児である。


「……ふうむ、三級といったところか。若さのわりには頑張っている」


 目を細めて、オクスフォーザを見たティオリールはそう呟いた。


「やめてやりなさい、ティオリール。その“目”は誰しも歓迎するものではないのだよ?」


 ユグがたしなめるように言う。

 なんらかの特殊技能か、魔法をティオリールは使い、オクスフォーザのことを“見た”ようだ。


「ああ、すまないね。癖なんだ。……と私のことだね。君の予想通り、元勇者のパーティの一人、審問官ティオリールだ」


「やはり……しかも“黄金”!」


 オクスフォーザが驚きと憧景を露にする。


 “黄金”のティオリールのことは、書類上では俺もよく知っている。

 審問官と呼ばれる教会の戦力の一つ。

 魔法、格闘、剣術を修めるエリート中のエリート。

 それだけなら勇者の下位互換なのだが、勇者を超える部分もあるらしい。

 らしいらしいばかりなのは、勇者パーティの中でもこの“黄金”は特に勇者との帯同が少ないため魔王軍の情報収集が少ないのだ。

 一年以上に及ぶ勇者の行程で、“黄金”が勇者と共に歩んだ道は特に短い。

 しかし、彼はどうやら勇者の別動隊を率いていた節がある。

 同時に陥落した魔将の拠点があることがその憶測の理由だ。

 彼が英雄級冒険者に認定されていることも、その証拠の一つだ。


「君に頼まれていたことは解決したよ」


「無理をさせたのではないか?」


「いや、あの男はなかなか後ろぐらいものを溜め込んでいたよ。私の趣味によくあうヤツだった」


「そうか。ならば……オクスフォーザ君、至急レインディア団長をここまで呼んできてくれないか?」


「レインディア?……ああ、ハインヒートの剣姫か。私も顔を見たいと思っていたのだ。すまないね、オクスフォーザ君。呼んできてくれるかな?」


「はい!すぐに!」


 憧れの英雄二人に頼まれて、オクスフォーザは飛び上がるように駆けていった。


 しかし、ユグはともかく、このティオリール、完全にオクスフォーザが自分をどう見てるか理解しているようで、どう頼めば動いてくれるかわかって頼んでいたようだった。


 そして、ユグは他の三人にも適当な仕事を頼んだ。


 明らかに、人払いだ。


「リヴィエールは……まあ、よいか」


「で、俺に何の用だ」


 先制するように口を開く。


「ギア君、それが君の名だ。そうだね?確か、魔王軍では暗黒騎士団二番隊隊長……だったかな?」


「!?」


 それはユグにも話していないことだ。

 ましてや、はじめて会ったティオリールが知っているはずの無いこと、のはず。


「まあ、そんなに警戒しないでくれ。君だって私のことは知っているだろう?私がどこで何をしていたか、とかね。お互い様だ」


「互いに、耳が良いということにしておけ、と?」


「それでも私は構わんよ」


「ギア……暗黒騎士の隊長、とは?」


「隠すつもりじゃなかったんだが、悪い。後でちゃんと説明する」


「大丈夫だ、ユグドーラス。彼は敵じゃないよ」


 断言したティオリールが、俺を、俺の何かを“見ていた”ことに気付く。


「何を、見た?」


「ユグドーラスは知ってるし、そこのお嬢さんはたぶん大丈夫かな。私は“審判ジャッジメント”と契約している」


「高位神聖魔法“審判ジャッジメント”か。敵対者を神の炎で焼き尽くす強力な魔法だ」


 俺がそれを知っていることに、ティオリールは驚いたようだ。


「博識、だな。まあ、いい。私はその強弱を操作できる。敵対者か、否かくらいなら魔力を消費せずに使える」


「“目”を感知に使っているから、感覚で判断するより正確で魔力消費が少ない、か」


「は!そこまでわかるか!」


 契約した魔法は、その強弱を操作できる。

 ティオリールは高位魔法である審判ジャッジメントを調節し、相手のことを調査していたのだ。

 それこそが、彼の“目”の正体だ。


「で、結局何の用だ?」


「私の用事はもう済んだ。リオニア冒険者ギルドの最強が人類の敵か否か。答えはさっきのとおりだ」


「では、ティオリール。彼は堂々と元魔王軍と名乗れると?」


 と、ユグが尋ねる。


「法律上は、な。しかし、私や君はともかく普通なら許されないだろうね」


「法律上は、か」


 確かに、普通の人々が魔王軍の暗黒騎士を恐れずに迎えることなど不可能だろう。

 ユグやリヴィがすごいだけだ。


「実を言うとこの世界では、人種の違いによる法の適用に差はないのだよ」


「魔人でも獣人でも、か?」


「ああ、そうだ。もちろん、他者を害せば人種の違いなく処罰されるという意味でもある」


 面白がっている。

 と、俺は感じた。

 この“黄金”と直接戦ったことはない。

 だが、もし戦ったならば負けていたかもしれない。

 単純な力以外の何かが、強いのだろう。


 そんな“黄金”が俺のことを面白がっているのだ。


「お待たせしました、レインディア入ります」


 レインディアは現在、リオニアスの衛兵たちの訓練を行っている。

 先の襲撃の時にまったく役に立たなかったからだ。

 衛兵たちも美人の騎士団長に指導されるとあって、毎日楽しみにしているらしい。

 誰も損していないが、なんとなく歪んだ関係に思える。

 オクスフォーザら、低位冒険者もその訓練に参加していると聞く。

 俺がリヴィやバルカーを指導しようと思ったように、やはりこの街の戦闘力は低いようだ。

 まあ、ほとんどの戦力が戦争によって消費させられたのだから仕方のないことではあるのだが。


「急に呼びつけて悪かった。私は審問官ティオリール。“黄金”と名乗った方が通りがいいがね」


 その名乗りを聞いた瞬間、レインディアは勢いよく膝まずいた。


「これは失礼いたしました。リオニア王国騎士団団長を拝命しております、レインディア・ドリュー・ハインヒートと申します」


「これは正式な訪問ではない。そこまでかしこまることはない。むしろ、彼のように自然体でいた方が話しやすい」


 と、俺を見てティオリールが微笑む。


「いえ、これは私の敬意を示すものです。どうぞお気になさらずに」


 と、レインディアは姿勢を変えない。

 それを気にした様子もなくティオリールは口を開いた。


「では伝えよう。リオニア王国軍務卿ラッセルバーグ伯爵は先日、更迭された。後任はまだ調整中だが、現在の任務は全て中止、王国騎士団はニューリオニアに集結せよ、という国王陛下名義の命令が出ている」


「はい?」


 今までレインディアは覚悟していたはずだ。

 リオニア王国を、真っ二つに割る陰謀。

 軍務卿を中心とした策謀を止める騎士団長の自分。

 たとえ、それで命を落としたとしても!!


 だが、事件は解決してしまった。

 気の抜けた声が出ても仕方ないだろう。


 と、俺は思った。

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