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264.真魔王軍大侵攻

 スツィイルソンは善戦むなしく倒れた。


 その倒れた姿を見もせずに、シフォスは歩を進めた。

 ゆっくりと歩き、魔王の座る玉座を見て目を見開く。


「な、んだと?」


 そこには誰もいなかった。


「どこに?」


 背後に気配を感じ、振り返ると倒れているスツィイルソンの側にギアがいた。


「いつの間に……」


「大丈夫か、スツィイルソン」


「隊長……無様な姿を」


「喋るな」


 スツィイルソンを寝かし、俺は師を見る。


「お久しぶりです。師匠」


「うむ」


 一年半以上ぶりに、出会った師匠、“剣魔”シフォス・ガルダイアは以前とそれほど変わりないように見える。


「真魔王軍とかいうふざけた集団は、師匠のイタズラですか?」


「そうだ。お前を誘い出すためにな」


「そんなことをしなくても、師匠が呼べば俺は来ますよ」


「いまや、魔王となったお前を呼ぶにも手順が必要なのでな」


「立場というのも良し悪しですね」


「そうよなあ。ただ剣を交えるのにも理由がいるのだ」


「やりますか」


 俺は腰の大太刀の柄に手をかけた。


「やりたいのは山々だが、お前の部下の時間稼ぎが功を奏したようだ」


「時間稼ぎ?」


「魔王と暗黒騎士の実力者が本営を離れていたら、魔王軍はどれほど戦力が低下するだろうな?」


「まさか」


「真魔王軍がいまごろ魔王軍本営を襲っているだろうな」


「目的はなんです」


「引き留めるものが無ければ、剣と剣の戦いに迷いなど生まれぬ」


「あー、師匠はそういう人ですからね」


「カレザノフがいないことは分かっている。そして、お前とスツィイルソンが不在の魔王軍。アユーシとイラロッジが居れど、数で押せば魔王軍本営は落ちる」


「そうですね。確かにそれしか戦力が無ければ本営は落ちるでしょうね」


 俺の余裕に、シフォスは眉をひそめた。



 天地を埋め尽くすかと思われるほどに、魔王軍本営に攻め寄せる真魔王軍。

 総司令官の地位につくエクリプスは、腕を組みながらその軍勢を見ていた。

 隣には宰相のボルルーム、宰相府付暗黒騎士のイラロッジ、暗黒騎士隊長のアユーシがいる。

 エクリプスの後ろには、日蝕騎士団の騎士となった七人が控えている。


「東西南北それぞれに十万、総勢四十万、といったところですか」


 現実感の無い数字に、逆に冷静になりながらボルルームは報告した。


「古来、籠城側の三倍の戦力が無ければ城攻めはできないと言われておりますが……」


 イラロッジが言う。


「でも、三倍どころじゃないですよ」


 アユーシも不安そうに言った。

 そこへ業火軍団の軍団長ヴォルカンと魔人部隊のトリオラズが連れだってやってきた。


「総司令、配置はいかがしますか?」


 こうなっては、勝つか負けるかというレベルの戦力差ではない。

 どうしのぐか、それどころかどう負けるかというところまで追い詰められている。


 エクリプスは口を開いた。


「これほど魔王軍に不満を持つ者がいるとはね」


「四十万もの兵力は、かつての魔王軍の規模を超えています」


 ボルルームの言葉に、エクリプスは「知っている」と答えた。


「だが、軍の質はまったく、違う」


「それは、そうですが。……やはり数は力ですよ」


「我らが魔王様に仇なすやからをここで一気に消し去るというのも悪くない」


「……エクリプス殿は、まさか勝てるとお思いで?」


 まだ、エクリプスの実力を疑問視しているボルルームが余裕の態度の彼に聞いた。


「この程度で、揺らぐようでは彼の部下なんかやってられないでしょ」


「な!?」


 エクリプスはすらりと剣を抜いた。

 聖剣アザレアに魔王軍っぽい装飾を施したものだ。


 その剣の刀身に光が集まっていく。


「僕が唯一負けた彼なら、この程度の軍勢、笑いながら切り開く。僕は彼に置いていかれるわけにはいかないッ」


 光輝く剣を、エクリプスは一閃した。


光輪牙ガルガリン


 光は東側を攻めている十万の真ん中に着弾した。

 その光は水面になにかを落とした時の波紋のように、拡大した。

 それは光の輪。

 そして、その輪は刃だった。

 拡大とともにそれは攻めている真魔王軍の兵の命を奪っていく。

 輪が拡大しきって、きらきらと光の欠片となって消えるころにはそこにいた十万の真魔王軍の兵のうち、生きている者はいなかった。


「え……?」


「反抗する気もなくなる圧倒的な力。それが魔王軍だ。違うかい?」


 エクリプスの言葉に反論するものはいなかった。

 力こそ全て、それが魔界の掟だからだ。


「それでは各軍の配置を命じる。業火軍団及び魔人部隊は北面を攻める敵をしのげ」


「了解であります」


「了解です」


「日蝕騎士団は南面から出撃し、攻める敵を叩け」


「了解です」


 日蝕騎士団のアデルハイドが頷く。

 ギアによって見出だされ、エクリプスの配下となったやや歳かさのこの騎士は他の六人とともに一騎当千の騎士へと変貌していた。


 その成長にボルルームは驚きと不安を抱いている。

 とともに、これほどの逸材を見逃していた自分たちの目の悪さにも落ち込んではいる。


「暗黒騎士隊は……魔王様の直轄だから、待機だね」


「了解……です。暗黒騎士隊は待機します」


 悔しそうにアユーシは復命した。

 今まで魔王軍の中核として、戦いの日々を過ごしてきた彼女らが待機を命じられることを悔しく思わないわけがない。


 しかし、魔王の代行者であるエクリプスの命令に従わないわけにはいかなかった。


「団長はいかがいたしますか?」


 アデルハイドの問いに、エクリプスは西に向けて剣の先を向けた。


「御意」


 そして、その命令どおりに魔王軍は動き始めた。


 北に回った業火軍団と魔人部隊は城壁の上から、矢をいかけ敵の侵攻を防いでいく。

 どこから運び込んだか、真魔王軍は投石機を持ち出してきたがヴォルカンが飛んできた岩を受け止め、逆に敵軍に投げ返した。


 南に向かった日蝕騎士団の七人は、躊躇なく城壁から飛び降り、敵軍を切り開いて行った。

 まったく何も恐れていないように、戦場を駆け回る彼らは十万の大軍を相手に城壁に近寄らせることすらさせなかった。


 西へ向かったエクリプスは、さきほどと同じように剣を振るい、一瞬で敵を全滅させた。


 いや、たった一人残っていた。

 エクリプスは城壁から飛び降り、最後の一人の前に立った。


「ふっふっふ。さすがは魔王軍、弱腰の暗黒騎士や新米魔王だけではないということですか」


 真魔王軍のやつらがよく着ている軍服に、白い外套マントを羽織った魔人の青年だ。


「君は?」


「私のことを聞きますか?そうでしょう、あなたの全力の技を防ぎきった私のことを知りたくないはずがありませんからね!」


「全力?」


 エクリプスの呟きは、白マントの青年には聞こえなかったようだ。


「いいでしょう、教えてあげます。私は真魔王軍、四魔刃しまじんが一人、“鉄壁”のバーミッシャー」


「人のことは言えないけど、ずいぶんと大仰な名前だね」


 なにせ日蝕の騎士エクリプスである。

 もともとはただの勇者だったのに、だ。


「四魔刃は、かつての魔王軍にあった四天王の役目を持つ。その中でも私は“白月”ユグドーラスを凌駕する障壁魔法を使いこなせ“る”?」


 最後の“る”を口にした時、バーミッシャーの首は胴から離れていた。

 エクリプスがバーミッシャーより速く動き、剣を振った。

 起こったのはそれだけだ。


「ユグドーラスを凌駕?冗談も休み休み言いなよ。あ、これからは永遠に休めるね」


 ちなみに、他の四魔刃はこの時点で既に敗死していた。

 すなわち、この戦いは魔王軍、というよりは日蝕の騎士エクリプスの圧勝だった。

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