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255.日蝕の騎士

「続いては魔人部隊か」


 魔人部隊を指揮するのはトリオラズという青年だ。

 おそらくまだ四十代。

 魔人としてはまだまだひよっこだ。


 そして、魔人部隊のほとんどが彼より若い。

 新規徴用した新兵なのだ。


 ボルルームに少年兵あがりのベテランはいないのか、と聞くと「少年兵制度は廃止されましたよ」と答えた。


 なんでも、いくら身寄りのない困窮した少年でも軍隊に入れるのはどうなんだ、という真っ当な意見が出たらしい。


 ということは俺のような少年兵あがりはいない、ということか。


「あなたのせいですけどね、半分」


「どう言うことだ?」


「少年兵から育成して生き残れば、混血でも暗黒騎士、それも隊長格にまでなれる、ということが証明されてしまいました。それはつまり、純血の魔人にとって血統を否定されるようなものですからね」


「ほう。興味深い意見だな。つまりは、はじめから兵士として育てれば、混血でも純血を超ええると認めてしまったということだな」


「まあ、そうなんでしょうね」


 しかし、その成功例は俺一人だ。

 他の少年兵あがりはみな死んだ。

 早ければ、少年のころに。

 遅くとも、魔人部隊の兵士として人間界侵攻の前までに。


 そんなベテランがいない今の魔人部隊ははっきり言って戦力にはならない。

 が、そうも言ってられないので鍛えることにしよう。


「魔人部隊は、魔王軍の戦力の中核だ。今はまだ不足である。ので、これから徹底的に鍛練し、増強しようと思う」


「了解しました!」


 トリオラズが敬礼する。

 だが、その顔にはまだ余裕が見える。

 すぐに余裕など無くなるだろうが。


「現在の魔王軍に関してはこんなところでしょうか?」


 宰相に任命されたボルルームが口を開く。

 暗黒騎士、サラマンディア軍、魔人部隊。

 魔王軍の手元にある戦力は確かにこの通りだ。

 だが。


「いや、新たに騎士団を一つ創設する」


「騎士団を?」


 暗黒騎士がいるじゃないか、という顔だ。


「ああ。団名は日蝕騎士団、団長にこのエクリプスを据える」


 俺の後ろに立つエクリプスが前に出て頭を下げた。


「ちょっと待ってください!」


 抗議の声が口々に上がった。

 ボルルーム、それに暗黒騎士の三人だ。

 まあ、予想通りだな。


「なんだ、ボルルーム」


「ついさっき現れたばかりの者に、一団を与えるなど」


「こいつは人間界むこうで出会った。腕の立つ人物だ。それでは不満か?」


「当たり前ではないですか」


「前にここに連れてきたウラジュニシカのことは気に入っていたようだが?」


 魔王継承者として敵対していたニブラスの騎士ウラジュニシカをいろいろあって魔界に連れてきた。

 その時、ボルルームと彼は仲が良さそうだったのを覚えている。


「あの方は……人間というよりも、見た目が魔界こちらよりだったものですから。それにもしかしたら魔王になったかもしれない、というだけでも胸襟を開く価値はあったか、と」


 確かになあ、と俺も思い出した。

 元々、ウラジュニシカは人間ではあったが、様々な種族の力を取り入れた結果、直立歩行をする巨大なカブトムシみたいな見た目になっていた。

 ただの人間として相対するよりも、魔界こちらの常識とすれば付き合いやすいのは確かだったろう。


「魔王が信を置く人物であると、どうすればお前たちは納得する?」


「ギア様、魔界の掟は一つです」


 なるほど。


「強さ、か。エクリプス、構わんか?」


 エクリプスは頷いた。

 フルフェイスの兜のせいで表情がわからんな。


「ならば、私が相手をしましょう」


 と、イラロッジが立ち上がった。

 現在の魔王軍では、俺を除けばこいつが最強格。

 エクリプスの、勇者の力を示すにはちょうどよい、か。



 本営の中の闘技場には、エクリプスとイラロッジが向かい合っている。

 闘技場の座席は、衛兵任務以外の魔王軍、ほぼ全員が見物に来て座っていた。


 俺も普通の座席に座りたかったが、ボルルームに止められた。

 どうやら、この決闘を魔王御前試合にして、俺を魔王軍全体にお披露目するつもりらしい。


 俺は、貴賓席への入口で待たせられた。


「おい、ボルルーム」


「なんでしょう?」


「俺もさっさと座りたいのだが?」


「今、呼ばれますからちょっと待っててください」


「儀礼的なものは少なくしろ」


「ええ、必要最低限にします。けれども、今は必要です」


「必要か」


「ええ。あなたの姿を魔王軍の全員に見せる。これは必要なことです」


「そうか」


 リオニアのグルマフカラ王のことを儀礼的に過ぎる、と批判した俺だが、自分が王という身分になった途端にそういうものに縛られる。


「魔王陛下、ご来臨!」


 ヴォルカンの大声が、闘技場にこだまする。

 さすがは一軍の指揮官だ。

 よく通る声だ。


「陛下、ゆっくり歩いてくださいよ。威厳を見せつけるのです」


 とボルルームが注意してくる。


「漆黒のオーラでも出せばいいのか?」


「出来るのでしたらお願いします」


「“暗黒ブラックアウト”」


 俺は暗黒をまとったまま、闘技場に姿を現す。


 すると観客の声が、巨大な衝撃となって俺にぶち当たってきた。

 それは歓喜であり、希望であり、鬱憤を晴らす絶叫だった。

 魔王トールズ様が亡くなってから、衰退し続けていた魔王軍。

 それでも、見限らずに残った者たちにとって、新たな魔王の登場は一つの光明なのだろう。


 その希望は、俺の肩にずしりとのしかかってくる。


「皆、待っていたんです。魔王を、王を」


「俺でいいのか?」


「あなたは、自ら名乗りをあげ、そして他の継承者を打ち倒しました。それで充分です」


 俺の後ろでしゃべるボルルームは泣いているようだった。


 俺は全員の期待に応えるように、ゆっくりと威厳を見せつけるように歩き、貴賓席に腰かけた。

 そして、ヴォルカンに合図する。


「これより、魔王陛下御前試合を始める。東の方、宰相府付暗黒騎士イラロッジ」


 暗黒鎧、暗黒剣の魔法を発動したイラロッジ。

 その姿は、魔王城での戦いの時の戦装束だ。

 つまり、イラロッジは本気だ。

 その一歩一歩のあとに電光が走るのは、魔力を電気へと変換し、肉体の反応速度を上げているからだ。


「西の方、日蝕騎士団団長エクリプス」


 対するエクリプスは、ここに来てから着ている鎧のままだ。

 特段、力を入れている様子は見えない。


「両者、構え」


 イラロッジは稲妻のように飛び出すために、前傾姿勢だ。

 エクリプスは聖剣アザレアを正面に構える。


「どちらが勝つと思いますか?」


 ボルルームが聞いてくる。

 いつの間にかこいつも座っている。


「お前はどう思う」


「どうやら私には軍才が無いらしいですからね。見たまんまですが、イラロッジさんの方が強そうに見えます」


「ほう。どういうところが、だ?」


「あの構えです。貯めた力を一気に解き放って一撃で決める、そんな気がします」


「悪くない見立てだ」


「そうですか?」


 俺が誉めると思ってなかったのだろう。

 ボルルームは意外そうな声を出した。


「格下あるいは同程度の相手なら、おそらくイラロッジが勝つ」


「それは……エクリプス殿がイラロッジさんより格上だと?」


「まあ、見ていればわかる」


 ヴォルカンが「始めッ」と叫んだのは、そのすぐ後だった。

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