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254.魔王軍の再出発

 とりあえず全員を叱ることにした。


 集まってきた将校らの前に俺は立つ。

 暗黒騎士隊のイラロッジ、スツィイルソン、アユーシ。

 魔人部隊の部隊長のトリオラズという若者。

 サラマンディア軍の指揮官ヴォルカン。

 と、ボルルームだ。


 エクリプスはどこから出したのか、顔を隠したフルプレートアーマーを着ている。

 そして、俺の後ろに立っている。


「二万対九千五百、本営という城を持つ魔王軍なら、数の差を埋めてこちらが有利な戦だった」


 戦い終わって分析すれば、相手の数は多いが地の利は魔王軍にある。

 負けはしない、少なくとも全軍を駆け回らせて、兵数が足りなくなる戦いになるはずがない戦局だった。


「ボルルームは本来、内政向きの人材だ。宰相が軍事に携わることは無い。まあそれを考慮しても酷い指揮ではあったな」


「あなたは、私を誉めたいのですか?それとも貶したいのか?」


「どちらかといえば誉めている。この人材でよくやった」


「誉めている、のですか……」


「問題は現場の奴らだな」


 俺は暗黒騎士の面々とヴォルカンを見た。

 誰も顔をそらしたりはしない。

 良く訓練されたいい兵士たちなのは間違いない。


「まずはヴォルカン。貴様の軍団は単なる八千ではないはずだ」


「はっ!」


「サラマンディア軍は八千の一団であり、同時に千人隊が八つ集まっている軍団でもある。ということは、だ」


「もっと臨機応変に動け、ということでしょうか」


「そうだ。確かに軍団長の俺が不在の戦だった。だが、お前自身の判断で有機的に動けたはずだ」


「面目ございません」


「だが、貴様自ら魔王軍に協力を打診したそうだな?それは誉めてやる」


「ありがとうございます!」


「次は暗黒騎士隊だ……イラロッジ」


「はっ!」


 禿頭の暗黒騎士が答える。


「貴様の役割は、ボルルームの補佐だ。戦争の素人が指揮するようでは勝てる戦も勝てまい。貴様のような歴戦が手を貸してやらねばならん」


「はっ!……ということは隊長、私は暗黒騎士のまとめ役としてふさわしくない、ということでしょうか?」


「いや、この一年半、暗黒騎士二番隊に欠員が出なかったのは貴様の手柄だ。よくやった」


「隊長……」


「ボルルームにも言っておくが、暗黒騎士隊は強力な刃だ。強力過ぎるとも言える」


「秘密兵器……」


「故によっぽどの事態でなければ使ってはいけない」


「よっぽどの……事態ですか」


「そうだ、例えば負ける寸前までに追い詰められた時、とかな」


「投入すれば勝てる局面でも、ですか?」


「もう一度言う。暗黒騎士は強すぎる。切り札だ。そして、もし暗黒騎士が対策されて敗れることがあれば、それは魔王軍そのものの瓦解と言っていい」


「手の内をさらしすぎるのは良くない、ですか」


 俺はボルルームに頷く。


「次に魔人部隊だ」


 若手のトリオラズが緊張した面持ちで頷く。

 魔王様や師匠に話しかけられた時の俺もこんな感じだっただろうか。


「よくやった。貴様らの奮闘の結果、南側からの侵攻を食い止めることができた」


 誉められたことが意外だったようで、トリオラズは戸惑った顔をした。


「あ、ありがとうございます」


「魔人部隊の練度、兵数を勘案すれば南側から攻めてきた敵に勝つことは難しい。つまり、貴様らを配置したボルルームの思惑は時間稼ぎだ。そして、それに貴様らは応えた。指揮の拙さは指揮官の責任であり、指示された兵には無関係だ」


「は、鋭意努力します」


「つまり、私が悪い、と?」


 ボルルームがへこんでいた。


「いや、一番悪いのは魔王の資格を持ちながら、本営を留守にしていた俺だ。すまない」


 俺は頭を下げた。


「隊長、いや、しかし」


 と、イラロッジがどうしてよいかわからない雰囲気を出す。


「というわけで、魔王軍を再編する」


「再編、ですか」


「そうだ、ボルルーム。魔王軍は負けない。魔界を統べるにふさわしい軍団である、と魔界中に示し続けなければならない。そうだな?」


「はい、その通りです」


「俺が魔王になる」


 その静かな宣言とともに、場の全員がひざまずいた。


 昨年春に、魔王トールズが敗れて以来、失われていた魔王軍の主がついに現れたのだから。

 勇者であるエクリプスもなぜか頭を下げていた。


「魔王軍宰相にボルルームを正式に任命する」


「は、謹んで拝命いたします」


「魔人領のみならず、魔王軍の統治下での内政全般を担当してもらう」


「はは!?」


 ボルルームは驚いている。

 現在の魔王軍の勢力は、魔人領の一角のみであり、いきなり魔人領と魔王軍の統治下と言われても困る、と言った顔だ。


「宰相ボルルームのもとで宰相府を開き、独自に文官を登用せよ。これは魔人族に限らず、どのような種族のものでも構わない」


「宰相府を!かしこまりました」


 これはボルルームの権限が大幅に高まったことを意味する。

 文官を独自に登用できるとなれば、本人はしないだろうが、自分の好きな者だけを文官に採用できることになる。

 宰相府、ひいては魔王軍の内政を牛耳ることができる立場だ、ということだ。


 だが、おそらくボルルームはそうしないだろう、という予測がある。

 うまく、説明はできないが彼の気質というものが、そう思わせるのだろう。

 とはいえ、最初は文官が足りないのは目に見えている。

 俺の伝手で誰かを推挙するか。


「暗黒騎士隊は魔王直轄の親衛隊とする」


 イラロッジ以下、暗黒騎士が頭をたれる。


「ただし、イラロッジは暗黒騎士の身分のままで宰相府に出向となる」


「どういうことでしょうか、隊長」


 訝しげなイラロッジ。

 俺の命令には従う気ではいるが、命令の内容が理解できない、という顔だ。


「宰相府は魔王軍の中でも独立的な立ち位置にある。もちろん、ボルルームは信頼しているが、歯止めをきかせたい」


「歯止め……それが、私だと?」


「そうだ。その他に、軍事的素養に乏しい宰相殿の補佐をする必要もある」


 ああ、とイラロッジは頷いた。

 今はそちらの理由の方が比重は高いだろうが、将来的に宰相府の暴走が起きないよう配慮しておく必要がある。


「カレザノフは人間界に出向し、現地での協力関係を結ぶ任務を継続させる。というわけで、暗黒騎士隊隊長はアユーシ、お前だ」


「え!ええ!?」


「不満か?」


「ふ、不満とかでなくてですね。私、あれですよ?混血なんですが?」


「確かに、暗黒騎士全ての隊長に混血の魔人が任命された例はないな」


 俺はあくまで二番隊の隊長だったしな。


「そうですよ。どこかから文句来ませんかね?」


「馬鹿を言え。魔王が混血なんだぞ?」


 俺の一言にアユーシは納得した顔をした。


「あー、そう言われればそうですね」


「まあ、文句を言う奴はいるだろうが、スツィイルソン。お前が補佐してやれ」


「了解であります」


「次は、サラマンディア軍」


 ヴォルカンがこちらを見た。


「貴様らは俺の私兵ではあるが、これより魔王軍に正式に編入し、一軍団として活動してもらう」


「かしこまりました」


 サラマンディア軍は、貴族としてのサラマンディア家の私兵だ。

 ただし、魔王軍として活動した実績が無いわけではない。

 “豪華業火アシャワヒシュタ”のオルディが出陣するときは、サラマンディア軍も常に同行していた。

 そういう意味では、サラマンディア軍も魔王軍として扱っても問題はないはずだ。


 なにより、俺が父アグネリートよりサラマンディア軍の全権を委譲されたのだ。

 その運用に関しては、誰からも文句は言われないだろう。

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