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232.竜族の使者来たる

 空は青く、海も青い。

 どこまでも続く蒼穹は、その瞬間、陰った。


 撤収準備をしていた俺たちの前に、空から二人の人物が降り立った。

 上空から降りてきた割りには、衝撃波などもなく静かな着地だった。


 一人は十代後半の少女、白を基調とした武道服を着ている。

 もう一人は、二十代前半の青年、同じく白い甲冑を身に着けている。


 両者の頭に角状の髪飾りを……いや、本物の角だな。

 つまり、あれは人の姿をしたドラゴン。


 メリジェーヌが赤い服を好んで着るのは、深紅の鱗を持つドラゴンだからだ。

 同じように、白い服や鎧をつけているということは、この二人の元の姿が白竜である、ということだ。


「まずいな……」


 思わず口をついていた言葉に、リヴィが反応する。


「空から降りてくるだけでヤバいとしても、もっとマズいことがあるんですか?」


「あいつらはおそらく白竜だ」


「白い竜?」


「色と言うものをドラゴンは重視している。メリジェーヌなどの一部の例外を除いて、ドラゴンの価値観において白は高貴な色であるといわれる」


「高貴な色……つまり偉いってことですか?」


「ああ。ドラゴンの順列の中でも高位のはずだ」


 俺の知る白竜は、魔王軍の竜魔将であったデルルカナフだけだが、彼は竜の長老である古竜の嫡子であったらしい。

 彼は、魔王城の戦いで勇者一行の一人、戦士デルタリオスと一騎打ちをし、敗れ亡くなっている。


「次代の魔王とやらはどいつだ?」


 少女の方が口を開いた。

 居丈高な態度が、誰かを思い出させるなあ、とリヴィは思った。


「まあまあ、フェイル様。そのような態度では誰も出てこようとなど思いませんよ」


「ふん。私の態度一つで前に出られないような腰抜けが魔王などと片腹痛い」


「まあ、それは確かにそうですね。そんな輩に、竜族はついていこうなどと思わないのは確かです」


 白竜二人の会話に俺はなんだか応じる気が無くなってしまった。

 しかし、頭に血が上りやすい弟子が前に出る。


「おい、なんだお前ら」


「ん?お前が魔王か?」


 フェイルと呼ばれた少女が前に出たバルカーを一瞥する。


「俺じゃねえ」


「だろうな。お主では弱すぎる」


「……ッ!?……テメェッ」


「おい、バルカー」


 普段のバルカーなら、この程度の挑発には乗らないはずなのだが。

 今日の彼は苛立ちのまま、フェイルに突撃した。


「若く、未熟で、熱い」


「ルナノーヴ流“四崩拳”」


 全身の筋肉をフル稼働し、拳の一点に集中させたこの技は、ザドキの遺跡に出てきた天使を一撃で倒せる威力を持つ。


「魔導武術烈光の型“歪光烈”」


 四崩拳を繰り出したバルカーの腕が、フェイルに絡み取られ、その勢いのまま投げに移行された。

 空中で一回転したバルカーは地に叩きつけられた。


「これは“六車返し”!?」


 ルナノーヴ流における相手の攻撃を利用したカウンター技である“六車返し”に、今のフェイルの技が似ていたようだ。


「いや、猪突猛進する相手に痛い目を合わせるだけの技。まあ、武道という道を行けば似たような技に出会うもの」


 叩きつけられたバルカーはフェイルの顔を見た。

 なぜか、バルカーの顔には迷いが抜けていた。


「そろそろ、バルカーの腕を放してくれ」


 俺は前に出た。

 奴らが次の魔王を探しているのなら、俺が対応せねばなるまい。


「ようやく、か。次の魔王」


「一応、継承者を全て倒した、魔人のギアだ」


「それよ」


「それ?」


「我ら竜族は、炎竜人ウードは正式な継承者ではない、という判断を下している」


 炎竜人ウードは、リオン遺跡に封じられていたメリジェーヌの創造した半竜半人の魔物だった。

 炎の精霊を取り込むことで、ほぼ不死であった。

 フレアを乗っ取ったコロロスに取り込まれたことで、当時不在だった竜族の代表として継承者の資格を付与されたようだ。

 あのあたりの無茶苦茶な入り乱れた事件の結果、俺が最終的に勝ったことで竜族の継承者を倒したことになったようだ。


「今さら文句を言うのはどうなんだ?」


 その事件は去年の話だ。


「別に我らは魔王軍と協調しようとする気はないのだ。結局、先の戦いで魔王軍は負けた。その結果が全てだ」


 強さを至上とする魔界の気質、そして竜族はそれを体現する種族だ。

 弱い魔王軍に従う気はない。

 なので、誰が魔王になろうとどうでもいい、と思っていたようだ。


「では、なんだ?」


「つい先日。魔王と思われる人物に、竜王の一人ゴウエンが敗れたという報せがあった」


「ゴウエン……ああ、あれか」


 リヴィの要請に応えた俺が、実地研修中の野営地に出向き、襲ってきたドラゴンを打ちのめしたことがあった。

 その時のドラゴンの名が確かゴウエン。


「もし、魔王の力が竜族を脅かすものなら、打ち倒す」


 とフェイルは宣言した。


「打ち倒す、か。どうやって、だ?」


 俺は抑えていた殺気を解き放った。


 俺たちはそもそもここに休暇に来ていた。

 普段会えないリヴィやナギも一緒になって、楽しい日々を過ごしていたのだ。

 それを邪魔しに来たこいつらに殺意をいだいても不思議ではない。


 殺意にあてられて、フェイルは足を下げようとした。


「フェイル様。気圧されてはなりません」


 白い騎士ヴェインがフェイルに声をかけた。

 こいつも殺気を受けているはずなのに、顔色一つ変えない。


「わ、わかった」


「難敵であるのはわかっていたことです。だからこそ、長老は我々を派遣しました。その信頼を裏切ってはなりません」


「うむ」


 フェイルは気合をこめて前に出た。

 竜の気概はあるようだ。


「やるか」


 早氷咲一刀流“霜踏”で一気に接近。

 大太刀“朧偃月”をゾロリと抜く。

 抜刀術とまではいかないが、それなりの速さの剣撃だ。


「見たことのある技……速い!?」


 フェイルは両手に光を集めて、簡易な障壁を作り出し、俺の剣を止める。

 が完璧に止めることはできずに防御を弾き飛ばされる。


「まだ行くぞ」


「烈光撃!」


 光を込めた拳でフェイルはクロスカウンター気味に俺の大太刀を潜り抜けて、攻撃してきた。

 防御できないと判断したあとは、斬られる前に殴る、と決意したようだ。


 だが、甘い。


 刀の柄と左膝でフェイルの腕を挟み込み、動きを止めたあと、右足を振り上げてフェイルを蹴る。

 体勢を崩されたフェイルの顎に俺の足がめり込む。

 人間なら脳震盪になって動きが止まるところだが、さすがにドラゴン、耐久力は高いようだ。

 だが、ダメージは通った。


 視界が揺れているらしきフェイルの顔にさらに、右拳を叩き込む。

 俺からみて、左にフェイルは吹っ飛ぶ。


「どうした?俺を打ち倒すのではなかったか?」


「貴様、その刀は飾りか!?」


「戦場では、己の全てを駆使するのが筋。刃も拳も、足も使う」


「蹴りなら私が上だッ。“烈蹴光撃”」


 光をまとった蹴りをフェイルは放つ。

 さっきの技もそうだが、攻撃の一発一発に魔法が付与されている。

 それが攻撃力を強化し、魔法の追加効果をもたらす。

 魔力さえ持てば、常に強化された攻撃を放てる。


 だが、肝心の技の基礎が弱い。

 というか、派手な上段蹴りを繰り出したことから、実より虚を好むことがうかがえる。

 そういうのは地味な技にいなされる。


 フェイルの攻撃を下に避けつつ、下段蹴りを放ち、相手の脚を刈る。

 たまらずバランスを崩すフェイル。

 だが、“飛行魔法”で距離を取る。


「蹴り技は威力は高いし、見栄えもいいが、体幹を自ら崩していることを自覚しなくてはならない」


「私がいつ貴様に教えを請うたッ!」


 霜踏で接近、大太刀の振りをおとりにフェイルの回避しようとする場所に拳を突き出す。

 まるで吸い込まれるように、拳はフェイルの顔を殴打。


 フェイルは吹き飛び、砂浜に墜落し、めり込んだ。


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