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230.お茶を飲んでいたら、壁が壊された件

 その日、リオニア王国騎士団長のレインディアは、リオニアスの魔導学園を訪れていた。

 夏休み明けの学園の講師に、騎士団から騎士を派遣することになっている。

 その打ち合わせのためだ。


「メリジェーヌさん、騎士団からは正騎士のレジオーラを派遣します」


 レインディアが騎士レジオーラのプロフィールを、メリジェーヌに渡す。

 その書類を受け取った真っ赤な制服が妙によく似合う彼女のことがレインディアは気になっていた。

 冒険者と兼業であるのは知っている。

 そして、所属するパーティが、あのドアーズだということも。


「性格的なところはどうなのじゃ?」


「変に身分にこだわるようなところはないので大丈夫だと思います」


「なら問題はないじゃろう。今度、こちらに寄越してくれ。面接をしておきたい」


「わかりました」


 打ち合わせがあらかた終わると二人は情報交換と称して、お茶を飲みはじめた。


「最近、見ませんね」


 誰が、と聞かなくても二人にはわかる。

 あの、黒いの、だ。


「わらわ以外で旅行に行っておる」


「羨ましいです」


 騎士団には非番はあれど休みはない。

 好きで騎士団に入っているレインディアは仕方がないところはあるが、羨ましいことは羨ましい。


「貴公もここまで来るのは大変であろう?」


 メリジェーヌの言うように騎士団長自らリオニアスにまで来るのは大変だ。

 というか、普通の騎士団長は自分で来ない。


「王城に居っぱなしだと、息が詰まりますからね。優秀な副官も居ますし」


「それに遠出もできるし、かのう?」


「まあ、そうですね。あとは、リオニアスの人たちに騎士団は嫌われていますから」


「わらわは話でしか聞かないがのう」


 国の鎮護たるリオニア騎士団は、その行いからリオニアスでは嫌悪されている。

 街の中にモンスターを引き入れたり、火災を起こしたり、街の人を誘拐したりと(やったのはメルティリアだが)やりたい放題だった。

 付近の盗賊団の結成にも関わっていたと知られると、騎士団の威信は地に落ちたのだった。

 一筋の光明があるとすれば、騎士団長のレインディアは冒険者の戦技指導を行ったり、被害の復興をサポートしたことでリオニアス市民から好意を向けられているところだろう。

 また、騎士団自ら内部監査を行い、膿を出そうとしている。

 変わろうと努力している。


 まあ、それもポーザなどこぼれ落ちるものもあって、そのアフターケアができていないことで、監督のティオリールから叱られることもあった。


 そういうことも含めて、リオニア騎士団は課題が多い。

 今回の魔導学園への騎士派遣も、悪評を払拭するための一手だった。

 実力者がいて、学園に生徒が少なくなっていたのはラッキーだったのか。

 少なくとも本人たちにとっては不幸だったろうが。


 襲撃者は空から降り立った。


「烈蹴光撃!」


 打ち合わせをしていた部屋の壁を突き破って、それはやってきた。


「な!?」


 反射的にレインディアは防御姿勢をとる。

 それでもなお、腕が折れそうな衝撃が走る。


「うんうん、やっぱりこれくらいじゃ耐えられるか」


 壁を突き破ってやってきたのは銀髪の少女だった。

 美少女といってもいいくらいの顔立ちだ。

 無手であること、服装から武道家ではないかと推測する。

 普通武道家は、構えや型からどういう流派かわかるものだが、レインディアの記憶にその少女の用いる武術の流派の知識は無かった。

 そもそも、普通の武道家は壁を突き破ってこない。


「何者ですか?」


 痺れの残る腕を動かし、抜刀の構えを取る。

 抜刀術ならどんな相手でも先を取れる。


「私はフェイル。情報をいただきに参ったが、少々貴殿の実力を試させてもらう」


 少女が名乗った時、メリジェーヌの眉がピクリと動いたのをどちらも気付かなかった。


 先に動いたのは、フェイルだ。

 すばやい踏み込みで、レインディアの間合いに踏み込む。

 レインディアはそこで愕然とした。

 あまりの速さに、抜刀術の最速でも間に合わない。


「くううッ!早氷咲一刀流“雹突ひょうとつ”」


 というわけで放ったのは、最速で抜いた刀の柄頭をそのまま叩き込む神速の打撃技だ。

 抜刀術でも先を取れない時の緊急回避的な技である。

 以前のレインディアなら、そういう事態が起こることなどないとたかをくくっていたが、ギアとの立ち会いを経て早氷咲一刀流の技の一つ一つの意味を確認し、使っている。

 レインディアは抜刀術にかけては人間一の天才である。

 全ての技を使いこなすのに時間はかからなかった。

 そのうえ、アルシア山のドラゴンとの修行でレベルがあがっていたのもある。

 結果、“雹突”はフェイルの攻撃に間に合った。


 レインディアの刀の柄頭はフェイルの拳に激突し、その軌道を反らすことに成功した。


 だが、刀の柄はレインディアの握っていた部分のすぐそばまで消失してしまった。


「へええ?今のは割りと凄いよ。絶対間に合わないと思ったのに」


 窮地はしのいだ。

 しかし、絶対的に不利になってしまったことを、レインディアは悟っている。

 武器を(しかもギアにもらったやつを)使い物にならなくされたのだから。

 それでも、再度、納刀する。

 今見て分かったとおり、抜刀術でも遅い可能性が高い。

 ならばレインディアにできるのは、神速で剣を抜き斬ることのみ。


 しかしこれは、ただの物理攻撃ではないな、とレインディアは推測する。

 刀の柄が壊れるわけではなく、消えたのだ。

 物凄く鋭く、滑らかな断面。


「まさか、攻撃と魔法を同時に?」


「見る目があるよ。正解は、攻撃をトリガーにした魔法で殴っている、でした」


 スピード、手数に秀でた武道家の一撃一撃が強力な魔法とともにやってくるとなると、驚異だ。


「来るなら来い!」


「そらそら行くよー」


 再び、繰り出されるフェイルの拳を“霜踏”で回避、間合いを詰める移動技を回避に使ってしまう。

 それはこちらからの攻撃の機会を一回潰してしまうのと同じだ。


 威力と手数に劣ったままだと、いずれかわせなくなり倒されてしまう。

 そうなる前に手を打たねば。

 と、思考するレインディアは一つの方法を思い付く。


 聖印ホーリーシンボル


 この身に刻まれた印に蓄積された魔力を解放し、光の鎧として身にまとい、身体能力を数倍に引き上げる。

 それならば、フェイルと渡り合えるかもしれない。


「やるしかないか」


「よぉし、こっちも行くよ。魔導武術烈光の型“烈拳光断”」


 魔力を集中し、聖印に込める。

 解き放ち、この局面を変える力に。


 放とうとしたその時、目の前に深紅が現れる。


「それは止めておいたほうがよいじゃろう」


「メリジェーヌさん」


 レインディアを止めたのは魔導学園の講師メリジェーヌだ。


「最近の白竜は頭が悪いのだな」


 メリジェーヌの言葉に、フェイルを止めていた銀髪の青年騎士が苦笑いする。

 いつの間に現れた?


「まさか、あなたがここにいるとは、ね」


「見た顔じゃな」


「我々は竜族の使者です。こちらには不慣れでして、竜族の同胞に助力をいただきたいのですが?」


 銀髪の青年騎士の丁重だが、有無を言わせぬ態度にメリジェーヌは不快さを隠さない。


「わらわは貴様らを同胞と思ったことなどない」


「では、我々はこうやって暴れながら手がかりを探していくしかない。本来なら避けたいところなのですが」


 手当たり次第にこいつらが暴れたら大変だなあ、とレインディアは思った。


「ヴェイン、私はそれでも構わんぞ。人間界をめちゃくちゃにすれば次の魔王とて喜ぶだろうし」


「次の魔王?」


 メリジェーヌは顔をさらにしかめた。

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