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223.暗黒騎士隊二番隊、発足

 数日後、ドアーズメンバーはリオニアス港に集合した。

 俺、リヴィ、バルカー、ポーザ、ナギ、ホイール、フォルトナの七人だ。

 こうして集まるとドアーズも大所帯になってきたな、と思う。


 はじめは、俺とリヴィ。

 そこにバルカーが加わり、リオニア王国騎士団とメルティリアの襲撃の後にポーザが加入した。

 そして、去年の夏ごろ。

 タリッサが依頼したリオニアス・マルツフェル間の航路に発生した渦調査の際にギリアまで行くことになり、そこでナギと出会った。

 錆に囚われた彼女を救うためにギリアの王城で戦いを繰り広げた。

 とんでもない強敵に俺も命をおとしかけた。

 最終的にナギは解放され、そしてドアーズに入ることになったのだ。

 ホイールは俺がサンラスヴェーティアに拉致された時に知り合った神官だ。

 そこでの戦いに巻き込まれ、いや向こうから巻き込んできた結果。

 俺とサンラスヴェーティアとの同盟の窓口として、リオニアスに来ることになり、ドアーズに入ることになった。

 フォルトナはホイールの妹で、彼女もサンラスヴェーティアでの騒動にナギとともに巻き込まれた。

 解決後は、リオニア魔導学園に入学している。


 待っているとアペシュがやってきた。

 その巨体を重力魔法で浮かせ、海上を航行している。

 そして、怪獣のようなその見た目を光を歪ませて隠している。


「クルルルルウェ」


 可愛らしい鳴き声に俺は手を振る。

 一応俺たちはみんなアペシュのことは知ってるから恐れはしないが、リオニアスに急に姿を現すとかなりの混乱になるだろうな。

 船乗りたちに見咎められないうちにアペシュに乗り込む。


「では頼むぞ、アペシュ」


「クルルル(はい、わかりました)、クルルルウウェ(では出発します)」


 アペシュはゆっくりと桟橋から離れ、海を進んでいった。

 港から離れると、俺たちは野営地であるアペシュの背中の山頂の広場に向かった。

 一つの島ほどもあるアペシュの背中は普通に歩くと大変なのだが、今回は山頂までの道が整備されている。

 俺たちが来ることがわかってから亀魔獣ザラタンに踏みかためさせたらしい。


「去年の夏はここで背負ってもらいましたね」


 とリヴィが潮風に髪を揺らして言った。


「そうだったな」


 ギリアの件の最中、漂流のような形で上陸した俺とリヴィは水不足に苦しみながら、ここに広がる森をさ迷った。


「懐かしいなあ」


「学園は大変か?」


「そんなでもないです。お友達もできましたし」


「それはよかった」


「わたし結構がんばったんです。でもテストは10位だったし、研修は最終的にギアさんに頼っちゃったし」


「初めから全部上手くいくわけはないさ」


「ギアさんは隊長になった時、どうだったんですか?みんなすぐに言うことを聞いてくれました?」


「隊長になった時、か」


 どうだったかな。


 俺が暗黒騎士の二番隊隊長になったのは、数十年前だ。

 おそらくは人間界侵攻を見据えた魔王軍の増員、それによって魔王様の近衛であった暗黒騎士隊も二番隊を増設することになった。

 そのさらに数年前に暗黒騎士に叙任されていた俺が、なぜか二番隊の隊長に任命されたのはなんだったのだろうか。

 血筋もコネもない。

 強いて言えば、四天王の一人である“剣魔”の弟子であったくらいだが、彼の弟子は大勢いた。

 先代の騎士団長であった死天血海ハッピーワールドゼルマンが引退することになったために、副団長であったバルドルバが団長になることになった件もあったようだ。

 ただ、バルドルバの評判はけして良かったわけではないらしい。

 これは推測だが、後のガルグイユの評価もそれを裏付けている。

 なので、暗黒騎士団の増員とともに二隊に分けた、らしい。


 二隊に分けたといっても騎士をそのまま半数ずつにしたわけではない。

 たとえ実力に疑問符がつくとしても、バルドルバは純血の魔人であり、副団長の職務をまっとうしていたのは事実だ。

 対して俺は、混血(バルドルバに言わせると雑種らしい)であり、騎士として大功をあげたわけでもない。

 結果、二番隊は俺と混血の騎士たち、そしてバルドルバにお情けで譲られたイラロッジという正暗黒騎士で編成されることになった。


 イラロッジは、元の暗黒騎士団ではゼルマンに近い派閥であり、新隊長のバルドルバとは折り合いがよくなかったらしい。

 かといって、キャリアでは俺より上だったので一番隊に入れなかったのも気に食わないし、二番隊に入ることになったのも気に入らなかったらしい。


 発足したばかりの二番隊は連携もできず、個々の実力もバラバラでとてもじゃないが栄えある暗黒騎士の部隊とは言えない状態からスタートした。


「俺はあんたを認めていない」


 これがイラロッジの第一声だ。


 魔王様の護衛任務は一番隊が独占していたこともあり、大した任務が無かった俺たち二番隊は訓練に明け暮れた。

 もともと強い純血の魔人と違って、混血の魔人がそこに追い付くには血の滲むような努力が必要だった。

 筋力トレーニング、魔力コントロール、武器の取り扱い、覚えることは山ほどあり、鍛えるだけ鍛えておくのは重要だった。

 そんな俺たちのことをイラロッジは馬鹿にしていたようだった。


 一度、隊のこれからについてのアドバイスを師匠である剣魔に尋ねたことがある。


「知るか、てめぇで考えろ」


 との返答は予想通りであり、そこから数時間試合をして彼の機嫌を良くするまで読めていた。


「何かご教授願えませんか、師匠」


「ふん、まあまあ着いてこれるようになったじゃないか」


「そりゃあまあ百年もやってれば、師匠の癖はなんとなくわかるようになりましたよ」


「ほう?俺の癖だと」


「いや、ホントにわずかな癖なんですが、型通りに武器を振るう時に一瞬パターンが遅れる時があって、それは型を外れた奇襲を仕掛けようとしているってこと。逆に無茶苦茶な剣筋が異常に早くなったら型通りに攻撃を続けようとしている、みたいな」


「小僧!」


 怒気をはらんだような剣魔に、俺は叱られたことを思い出してちょっとだけ怯む。


「なんです?」


「小僧と呼ぶのは止めてやる。ギア」


「!?……ありがとうございます!」


 名を呼ばれるのは実力を認められた証。

 剣魔シフォス・ガルダイアがそう言ったわけではないが、暗黙の了解としてそう伝えられていた。


「癖二つを見切ったお前には、二つ手助けをしてやろう」


「二つ?」


「一つは助言だな。出生によらぬ実力者を登用するために適性検査トライアウトをするがいい」


「来ますかね」


「純血の魔人、でなくても隊長になれるのだから夢と希望をもって訪れる奴はいる。百人も集まれば一人や二人、使い物になるだろう」


「なるほど」


「もう一つは単なる口添えだ」


「口添え、とは?」


屍天血海ハッピーワールドに手紙を書いてやろう」


「先代の騎士団長、ですか?」


「お前のところにイラロッジとかいう奴がいるだろう?」


「居ますね」


 自尊心の高そうな純血の魔人、という印象しかない。


「あれはゼルマンの弟子だか縁者だ。彼奴が説得すれば少しはお前の話を聞いてくれる、かもしれん」


「派閥争い、とかいう奴ですか?」


「応よ。俺としては強くなれればそれで構わんと思っているのだがなあ。どうして余計なことに心血を注ぐのか、まるで理解できん」


 絶対的強者である剣魔には、確かに理解できないのだろう。

 弱っちい存在が生き残るために、強きになびく。

 そんな生き方もある。

 それだけのことだ。


「ありがとうございます、師匠」


「おうそうだ。今、竜の混血と獣人の混血を一人ずつ仕込んでおってな。使い物になるようならお前の部下に入れてやる」


「重ね重ね感謝します」


 将来のカレザノフとアユーシのことはまだ知らない俺は、師匠に書いてもらったゼルマンへの手紙を胸に彼の領地へ向けて出発することにした。

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