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221.旅の終わりと最強種の蠢動

 メルキドーレ家での夕食から数日たった。


 ニコとメルキドーレ商会との取引はうまくいき、その目的はおおむね達せられたようだった。

 ということは、俺たちのマルツフェルでの滞在も終わりだということだ。


「帰りは海路で行こうと思います」


「それはありがたいが、いいのか?」


 行きは陸路をとったため、半月ほどかかった。

 海路を使えば半分でリオニアスへ帰れるはずだ。

 ただ、乗ってきた馬車のことを考えると大きな船でないと運べないだろう。

 かなり金がかかるのは、俺でもわかる。


「大丈夫ですよ。馬車は置いていきますし、船はメルキドーレ商会で出してくれます」


「ずいぶん気に入られたようだな」


 ターボーン・メルキドーレという一見気弱そうな商人は、その実かなり強かな男だということはわかった。

 そして、ニコがその商人にかなり好印象を与えたことは確かだ。


商売ビジネスは信用が命ですから」


 そう言ってニコは笑った。


 出発する、ということをマルツフェルでできた知り合いに伝えて回るのに今日は費やす。

 メルキドーレ商会、その次は冒険者ギルドに出向く。

 距離があるブランツマークとザドキ村には手紙を出すことにする。

 冒険者ギルドでは、ギルド長のガンヴォルトに請われて若い冒険者に戦闘の教練を行っていたので残念がられた。


「一つの型にこだわらない、割には的確な指導ができるっていうのは指導者向きだと思うがなあ」


 とガンヴォルトに言われる。

 まさか暗黒騎士の隊長として、部下に訓練を指導していたとは言えず言葉を濁す。


「まだ現場にいたいんだよ」


「引退したらぜひ我がギルドに来てほしいものだな」


 という誘いをやんわり断り、帰路につく。


 そして、翌朝。

 俺たちは船にのり、知りあった人々に別れを告げ、マルツフェルをあとにした。



 リオニアスについたのは、リヴィたちが夏休みに入る直前だ。

 ニコは店に戻るやいなや厨房に入り、働きはじめる。


「リヴィたちと飯食いに来ていいか?」


「もちろんです!」


「ということはこれで護衛任務は完了だな?」


「はい!ありがとうございます!報酬はギルドでもらってくださいね」


 ニコとはそこで別れ、ギルドに寄り依頼完了を伝える。

 報酬を受け取り、家に帰ることにする。


「妹が一番成長している気がする」


 バルカーがポツリと呟いた。


「兄は心配か?」


 俺の言葉に、バルカーは頷く。


「マルツフェルに向かう旅の途中とか、メルキドーレさんちの夕食会とかさ。それに、ニコの店とかもそうだ。いつの間にか、ニコの方がスゲェことをしてる。俺が守ってるつもりだったのに、さ」


「いつまでも守れるわけじゃないだろ?」


「そうは言っても師匠」


「いつかニコも婿をとるかもしれん。どこぞの大商人の息子とか貴族の子弟とかな。その時、お前はどうするつもりだ?」


「そんなことは……」


 バルカーの反論は、途中で消えた。

 そんなことはない、と言えなかった。


「ないとは言えんよな。まあ、ニコは賢い娘だ。ちゃんとどうにかなるだろう」


「師匠は俺に何をさせたいんだよ」


「隣にいる相手のことに気を遣えと、な」


 バルカーは横を向いた。

 そこには、ポーザがいる。

 顔は真っ赤だ。


「り、リーダー!?」


「あ、そ、そうだよな。あ、あはは」


 妹ばかり気にして、肝心の彼女のことを疎かにしていたバルカーに、ポーザがちょっとだけへこんでいたこと。

 今回のマルツフェルでの騒動で、俺が気になっていたことの一つである。


「ちょ、ちょっと先に帰らさせてもらいますです」


「バルカー、そんなに強く引っ張らないでよ」


 バルカーがポーザの手を握り、走り出した。

 文句を言いながらも、ポーザはついていく。

 仲直りの方法はどうあれ、問題は残らないだろう。


「青春ですね」


 ホイールが羨ましくもなさそうに言った。


「お前はどうなんだ?」


 浮いた話は一つも聞かないホイールである。

 見た目はいいし、口も上手いし、将来性も高い。

 優良物件ではあると思うのだが。


「私ですか?私はああいう色恋沙汰には疎いんです」


「神官だから、か?」


「それはありますが、今は仕事の方が楽しいんですよ」


「仕事ねえ」


 ホイールの仕事は、冒険者として俺に張り付き、非公開同盟が破綻しないようにすることだ。

 サンラスヴェーティアと俺が対立しないように調整する役割だ。

 だが、俺的にはサンラスヴェーティアから余計なことをしなければ別に向こうに干渉はしないつもりだ。

 まあ、問題は起こってないからホイールも優秀な部類ではあるのだろう。

 ホイールは夏期休暇で帰省する予定の妹のために色々準備するのだそうだ。

 そのため、彼もさっさと別行動をとりはじめ、どこかへいってしまった。


 俺も家の掃除をしよう。


 リオニアスは今日も平和である。



 魔界の奥地にある竜の領域。

 深山幽谷の果てにあるそこには、数えきれぬほどの竜族が住み天を舞い、地を見下ろしている。


 一翼の竜が風を切るように空から降りてきた。

 青い鱗のその竜は、竜の聖殿に入っていく。


 巨大な台地である竜の聖殿は、竜族の合議の場所であり、聖域でもあった。

 そこには、長老の竜が滞在しており、魔界の情勢等の情報を収集していた。


「いかがした、ゴーフェイ」


 長老の前に降り立った青竜ゴーフェイは待ちきれぬ、というように口を開いた。


「ゴウエンが、分体を倒されました」


 長老は片眉をピクリと動かした。

 ゴウエンと、そして青竜ゴーフェイはどちらも、緋雨の竜王メリジェーヌに仕えた四海竜王の一翼であった。

 魔王でもあったメリジェーヌとともに、魔界の一時代を作ったゴーフェイは同輩であるゴウエンの力量のことを承知している。

 それが倒されるということの意味も。


「よほどの強者が現れたか」


 長老は古竜と呼ばれる竜の上位種だ。

 その生は長く、竜神エルドラインが地上にいたころに生まれたという。

 それが本当なら二千年は生きているということになる。

 それが本当かはわからないが。


 その長老が警戒している。

 メリジェーヌの台頭とともに一線を引いたが、彼女の死、そして魔人の魔王の即位を期に相談役として竜の聖殿に住まうことにした竜が恐れを抱いている。


「メリジェーヌが復活した、という報もあります」


「彼女ほどの竜王なら、復活しても不思議ではないが……調査をせねばなるまい」


「誰を行かせますか」


「ふうむ」


 四海竜王より強い、となるとなまなかの竜では返り討ちになる。

 逆に強い竜でも思慮深くなければ余計なトラブルを招く。


 長老はゆっくりと口を開いた。

 赤というよりは褐色、いや部分的に黒くなった鱗をきしませながら声を発する。


「聖竜騎士ヴェインと余の孫娘を送ろう」


「ヴェインはともかく、フェイル様を?」


「どちらも人の姿を取ることができ、かつある程度の実力を持っておる。問題は無かろう」


「それはそうですが」


「それにもう一点確認したいことがある」


「長老?」


「竜族の継承者を倒したことについて、魔人の継承者に文句を言ってやらんと」


「ああ、そうですよね」


 竜族の継承者は、亡くなってしまったとはいえ本来なら竜王の子であるデルルカナフが継ぐことになっていた。

 その、竜魔将の死後はよくわからない半竜半人が継承者として扱われ、これもよくわからないうちに倒されてしまった。

 魔界最強種族である竜が、本格的に戦うこともなく継承者戦が終わってしまった。

 それを不満に思う竜は多い。


 使者の派遣は、その新たな魔人の王の力量を確認するという目的があったのだ。

 ゴーフェイは頷く。

 そして、使者に選ばれた二翼を探しに空へ羽ばたいた。

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