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22.暗黒騎士があらわれた!

 揺すっても、頬をペチペチ叩いてもリヴィは起きなかった。


「魔法か、薬か」


 強制的に眠らされているようだ。

 俺はリヴィの十代後半にしては育ってない体を背負った。


「レインディア、あいつを連れて冒険者ギルドに行くぞ。嫌な予感がする」


「……あなたは、どうして私をそのように信頼しているのです?さっきは命を睹して戦ったのですよ?」


 不思議そうにレインディアは聞いてくる。


「逆だ。剣を交えたからこそ、お前を信頼している」


「どういうことでしょう?」


「お前の剣には迷いがない。そして、敵を倒すことに余分な感情を抱いていないことはわかる」


「余分な感情?」


「俺もあまりうまくは言えんが、敵を斬るのは倒すためだ。そうだろう?」


「はい」


 何を当然のことを聞くのだろう、というようにレインディアは首を傾げた。


「しかし世の中には、余計なことを考えながら斬るやからがいる。功名心、復讐、嗜虐などだ。それは、悪いことではないが剣は正直だ。迷う」


「迷う、ですか?」


「ああ、感情が余計な力となるのだな。時にそれは剣のしのぎ合いを制しもするが、たいていは隙となる。ギリギリの戦いに隙を見せるということは死ぬということだ」


「私の剣にはそれがない、と」


「ああ、惚れ惚れするような剣の冴えだった。このまま精進を重ねれば達人の域に達するやもな」


「……誉めていただいたのは嬉しいのですが、あなたには負けてしまいました」


「それは仕方ない。俺は抜刀術の対抗手段を持っていた。それになりより、積んだ修練が違う」


「積んだ、修練?あなたは一体……」


 ドン、と腹の底まで響くような音が街の方から聞こえたのはその時だった。

 話を中断し、俺とレインディアは窓に駆け寄る。


「火、だな」


「爆発のようでしたが、どこでしょう」


 遠くに真っ赤な明かりが見える。


 冒険者ギルドがある区画だ、と俺は気付いた。



 既に敗色は濃厚だった。

 冒険者ギルド側はほとんどの冒険者が倒され、立っているのはユグドーラスとレベッカだけだったからだ。

 英雄級冒険者のユグドーラスと言えど、彼はあくまでも白魔導師。

 後衛なのだ。

 レベッカも、ギルド付の医者。

 治癒魔法はある程度使えるし、元冒険者というキャリアもある。

 だが、彼女も後衛だ。


 前衛は全て倒れた。

 そうなるとそのパーティに勝ち目がないことを、冒険者経験があるものなら理解できる。


「さすがはギルド長です。俺たちの攻撃のほとんどを制圧できるとは、ね」


 赤が混じった黒髪を短く切った青年は余裕の笑みを浮かべて、ユグドーラスを見て笑う。

 ごうごうと燃えるギルドの建物を背にしてなお笑う。


「腕をあげたな、フレア」


 ユグドーラスはかつての同輩の名を呼んだ。

 フレアと呼ばれた青年は笑みを濃くする。


「ええ。いろいろありましたからね」


 彼ら、フレアに率いられた二級冒険者パーティ“メルティリア”は謎の襲撃者が現れた直後にギルドに帰って来た。

 彼らは口々に、リオニアス内に入り込んだモンスターの群れについて報告した。

 にわかには信じられない知らせだった。

 しかし、ユグドーラスは待機していた冒険者たちを指揮して防衛態勢をとった。

 リオニアスタンピード、そして昼間のギアたちが報告した小鬼王ゴブリンロードの出現。

 何が起きてもおかしくない。


 そして、実際に襲撃はあった。

 小鬼ゴブリンを中心とした百匹ほどのモンスターの群れだ。

 どこから沸いたのかはわからない。

 しかし、実際に目の前にいるのだ。

 ユグドーラスはすぐに攻撃を開始した。

 百匹、は多い数だが完全武装の冒険者十数名と英雄級冒険者のユグドーラス、そして帰還した二級冒険者パーティのメルティリア。

 終始、冒険者側の優勢のままモンスターの全滅をもって戦闘は終了した。

 ほっと一息ついたその時、事態は急変する。


 背後・・からの攻撃を受けて、前衛の大半が倒れた。

 その背には矢が突きたっている。

 メルティリアの弓使い、ナ・パームが一瞬で八連射し、前衛を襲ったのだ。

 東洋系の先祖を持つエキゾチックな顔立ちの弓使いは、その炎の意匠が施された手甲ヴァンブレイスを愛しそうに撫でて、すぐに矢をつがえた。

 いつでも射てる体勢だ。


「え?」


 と、矢を受けなかった冒険者が声を出した。

 目の前の光景が信じられない、といった顔だ。

 そして、次の瞬間。

 その冒険者は炎に包まれ、黒こげになって倒れた。

 もう口を開くことはない。


 真っ赤なローブのフードをおろしたメルティリアの魔法使いバーニンが放った単体火炎属性魔法“着火イグニション”の効果だ。

 これといった詠唱や予備動作がないことから、契約した魔法だということがわかるが、それを知っている者はこの場にはいない。

 バーニンはうっとうしそうにローブに縫い込まれた炎の意匠を触っている。


 ようやく、ユグドーラスが事態に気付き、メルティリアに対して障壁を展開しようとした時。

 ギルドの建物が爆発するように炎上した。


 やったのはメルティリアのリーダーにして、リオニア冒険者ギルド最強と言われた男、フレアだった。


 豹変したメルティリアの面々の剣、矢、魔法をことごとくユグドーラスはおさえきった。

 しかし、普通の冒険者たちは押されに押されて、次々に倒れていった。


 なぜ、そんなことをしたのか。


 理由はわからないが、メルティリアの立場は理解していた。

 リオニアスとニューリオニアの抗争、その上でメルティリアはどのタイミングかはわからないがニューリオニア側についていたということになる。


「いつからじゃ。いつから、ニューリオニアの側についた!!」


「いつからって……最初からですよ。おかしなことを聞くなあ」


「な……に?」


「冒険者といえど、俺たちはリオニア王国の臣民ですよ。国王陛下に仕えるのは当然のことでしょう」


「……本来ならば、な」


 フレアの言葉が本気ではないということをユグドーラスはわかっている。

 その顔に浮かぶ笑みの形が変わらないからだ。


「まあ、ざれ言はさておいて。俺たちは今、王国騎士団の指揮下にあります。そして、王国騎士団は今回、パリオダ男爵を口封じし、対立相手である冒険者ギルドの壊滅を画策しました」


「……なるほどな。パリオダ一人の暗躍にしては規模の大きな盗賊団じゃと思っておった。まさか、国ぐるみで人さらいをしておったとは」


「俺がここまで言う意味、わかりますよね?」


 聞かせたのは殺せる自信があるからだ。


「わしを誰だと思うておる。“白月”のユグドーラスじゃぞ?」


「ははは、そうでした。なら俺たちがギルド長を倒し、新たな英雄となる!」


 フレアはその右手に握る真紅の槍の穂先をユグドーラスに突きつけた。


「それは……無理じゃろうな」


「この状態で勝ち目がある、と?意外に楽天的になのですね」


 呆れたようなフレアのの笑みに、ユグドーラスも笑みを返す。


「いいや。わしの知り合いに、リオニア冒険者ギルド最強の男がいることをわしは知っておるゆえな」


「それは……」


「なあ、そうであろう?ギア殿」


 呼ばれた声に応えるように、爆風のような圧力があたりに吹き荒れた。

 それは物理的な突風となって、ギルドを燃やす炎を消し飛ばした。


 周囲を照らしていた光源だった炎が消えたことで、あたりに闇が満ちた。

 そして、闇の向こうから力強い足音が近づいてくる。


 それは、真っ黒だった。

 黒い全身鎧、漆黒の剣。

 砕けた兜の面頬からのぞく目。


 この世界に留まった、ただ一人の。


 暗黒騎士が現れた。

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