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216.マルツフェルへ帰る道は明るく見える

 俺たちは、ブランツマークに一泊したのち、マルツフェルへの帰路についた。

 俺たちを捕縛しようとしたブランツマーク市軍の兵士たちからはちゃんと謝ってもらったのでわだかまりはない。


 工事関係者をまとめるラッジとも再開した。

 復興事業の再開も近いらしい。


 一人生き残ったポメラニアは、俺たちと一緒にマルツフェルへ行くことになった。

 ただギルドへ報告したあとは、冒険者をやめザドキ村に住むらしい。

 彼女にとって、あの遺跡は仲間たちの文字通り墓なのだ。


「過ちを繰り返させないために、とプレーリーの世話もせねばならないしな」


 と彼女は笑いながら言った。

 木になったプレーリーは別に世話されなくても生き続けられる気はするが。

 彼女なりのケジメなのだろう。


 ごとごとと馬車に揺られて街道を行く。


「ずいぶん暑くなってきたな」


 遺跡に潜っている間に、春は終わりかけていた。

 季節はもう初夏だ。

 街道の周りの林の木々も、新緑に染まりはじめている。


「夏やねえ」


 馬車の荷台でタリッサは吹いてくる風に髪をなびかせている。


「ギリアの一件から一年か。元気だったか?」


「いちおう、秋あたりにニューリオニアに行ったんやで」


「ああ、ウラジュニシカの時か。あの時は助かった。礼を言う」


 ニューリオニアに押し寄せたウラジュニシカの亡霊の戦士たちから街を守るために、俺は英雄級冒険者たちに協力を要請した。

 勇者はじめ、ほとんどの英雄が来てくれたらしい。


「ええよ。おもろかったし」


「そう言ってくれると助かる」


「魔王ギア……に、なるんやろ?」


「……耳がいいんだな」


「サンラスヴェーティアにもツテはあるしな」


 ゴトゴトと馬車は行く。


「昨年まで、魔界でも内乱が起きていた」


「魔界でも内乱?……魔王によって強力に統制された世界が魔界、やないの?」


「その魔王様が倒されたからな。その結果、一年たらずで魔界諸種族はバラバラになった。そして、三つの勢力が魔界で覇を争った」


「魔王が強力に統制していた、からこそ……やな」


 締め付けがきつければきついほど、それが無くなった時の反発は大きくなる。

 魔界も同じだった。


「一つは魔王軍本営、魔人族が中心となり人間界から撤退した魔王軍の残党だ」


「あの、魔王軍が残党と呼べるまでに勢力を減じた、と?」


 タリッサには信じられない。

 侵攻して一瞬で大陸諸国家が侵略された、あの魔王軍がそこまで弱くなるのか、と?


「魔王軍というのは、魔界の八大部族の連合軍だ。そして、それぞれの部族軍をまとめていた魔将は倒された。四天王、そして魔王様」


「指揮官が一斉に、か。逆によく暴走が起きへんかったな」


 統制を失った連合軍が襲撃と略奪に走ってもおかしくない。

 タリッサはそう考えたが。


「起きてたんだ。リオニアスへは獣魔軍団が攻めてきたし、残党たちは大陸各地に潜伏していた。まあほとんど倒されるか、撤退しているようだがな」


「マジか、知らへんかったわ」


「とまあ、そんな感じで魔王軍は魔界での信任を失い一勢力になってしまった」


「はあ、なるほどなあ」


「もう一つはエルフ軍だ。これは魔王軍に参加していなかった部族で、周辺部族を吸収して魔界で一大勢力に成長した。が今はおとなしくなっているようだ」


「ふうん」


「最後の一つは吸血鬼軍だった」


「夜の種族が?」


 吸血鬼は夜の種族と言われる。

 これは昼間に行動できないからだ、が。


「この吸血鬼どもはな、昼間にも活動できる能力をもっていてな。魔王軍本営と戦う前に、エルフ軍と戦い、これを倒している」


「昼間に行動できる吸血鬼……なんやろ、その万能感」


「その吸血鬼どもが魔王軍本営を囲んだ。魔王軍を屈服させて、自分等が魔王にならんとしたのだ」


「その戦いは……どっちが勝ったんや?」


「俺が生きているんだ。魔王軍本営の勝ちだ」


「はぁ、なるほどなあ。それでギアさんがトップいうわけか」


「魔王になる、という覚悟は出来ている。ただ人間界こちらにいるからか、魔王になる兆候は見えないんだ」


「人間の王みたいな、戴冠式とか、教会からの認定とかはないんやな」


「そうだな。……というか、魔界の話に嫌悪感とかないのか?」


「ん?別にあらへんよ。マルツフェル人は感情よりも実利をとるんや。魔界の情報なんて知っていると知らないのではこれからに大きく差が出る、とウチは思う」


「……人間は魔王軍のことを嫌悪し、恐怖し、憎悪している、と」


「一般市民ならそうやろな。けどマルツフェルは直接被害受けてないし、ウチも勇者一行に加わってたやんか。命のやり取りしてて一方的に嫌ったり憎むってのも違うと思うんや」


 それにな、とタリッサは続ける。


「それに?」


「ウチ、ギアさんのことを気にいってるんやで。あんたが治めるなら魔界との関係も変わるかもしれへん」


 恋愛対象として見たら、危険な相手が本妻やからそこまではいけへんけどな、とタリッサは思ったが言わなかった。

 空間転移して、千もの魔法を操って、主天使を半壊させる魔法を放てる人物を相手にできるわけもない。


「変わる、か」


 とまあ、そんな話をしていたらマルツフェルはすぐ目の前だった。


 都市に入るとタリッサは実家に行くと言って離脱した。

 俺たちは冒険者ギルドへ向かう。


 ギルドではギルド長のガンヴォルトが待っていた。


「ポメラニア!無事だったのか!?」


 もうすでに死んだ、と思っていた相手が生きていたことにガンヴォルトはまず驚く。


「無事かどうかは、判断できかねるな」


「……そいつはどういう意味だ?……ブルドクやプレーリーは?」


「全部説明する」


 ガンヴォルトとポメラニアの話が長引きそうだったので、俺は別室を用意してもらうことにした。

 ギルドの受付ホールで話す内容でもないしな。


「遺跡深部に異界へ繋がる穴が!?」


 事情を聞いたガンヴォルトが驚きをあらわにする。

 せいぜい、危険なアンデッドが出てきた程度の認識だったのだろう。

 まさか、世界を滅ぼそうとする相手が別の世界から来る寸前だったなど理解の範囲外だったのは間違いない。


「ああ、そうだ」


「そんなバカなことがあるわけ……ない、とは言い切れないのが遺跡ってやつだな」


 自身も元冒険者だけあって、ガンヴォルトが例外の存在を認めるのに時間はかからなかった。


「遺跡内の天使は全て倒したし、異界への穴は閉じたのは確認している。そのうえで深部への入り口も封鎖した」


「完璧な対応だな」


 ちょっと残念そうなのは、遺跡探索で財宝などを獲得できるチャンスが無くなった冒険者の本能が働いているのかもしれない。


「ただ外に出た天使がまだいると思われる。そんなに強くないが注意は促したほうはいいな」


「わかった。ギルドで注意しよう。何はともあれ、礼を言う。急な依頼だったが達成してくれたこと、ポメラニアを助けてくれたこと、すべてだ。ありがとう」


 深々とガンヴォルトは頭を下げた。


 彼が頭を上げて、ポメラニアは引退することを伝えて、そこでこの依頼は達成となった。


 報酬は多額の金貨といくつかの魔法道具マジックアイテムだ。

 破格、というわけではないが、かなりの大盤振る舞いだった。


 俺たちはガンヴォルト、ポメラニアと別れ、帰路についた。


 ニコが泊まっているであろう“春夏冬”亭へ。

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