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214.天使陥落、そして彼女は帰る

 ポーザの呼び出した妖精フェアリーは俺から魔力を吸い取り、ホイールとギュンターに配っていく。

 ホイールはすぐに全体治癒魔法を詠唱する。

 なんとか立っていた状態のバルカーの顔にも血の気が戻ってくる。


 なんとか戦える程度にはパーティが回復したのだ。


 ドミニオンも回復している。

 斬った傷もふさがっている。

 目は閉じている、ということは物理耐性。


 よほどさっきの一撃が痛かったようだ。


「では皆さん。作戦を説明します」


 リヴィの説明はこうだ。

 ホイールが全員に強化バフをかける。

 ギュンターとバルカーが突撃する。

 タリッサとポーザはドミニオンの光の球を魔法や射撃武器で打ち落とす。

 俺は打ち漏らした攻撃を防ぐ。

 そして、リヴィが強力な魔法でぶち抜く。


「作戦でもなんでもないな」


 バルカーの言葉にリヴィは笑ってこう言った。


「それがドアーズじゃないですか。前衛が突っ込んで、後衛がまとめて燃やす。最初からそうでしたでしょ?」


「ああ、確かに」


 バルカーは遠い目をした。

 最初の小鬼ゴブリン討伐の依頼クエストで魔法使いになりたてのリヴィは小鬼ごとバルカーを焼いたのだ。


「肉を切らせて骨を断つ、じゃな」


 ギュンターがいい感じにまとめた。


「では、行きましょう」



「ルナノーヴ流気功術“息吹いぶき”」


 バルカーは呼吸を調え、気を高める。

 全身に張りつめた気が身体能力を向上させるルナノーヴ流の技の一つだ。

 今回、一人前以上に活躍し、ちゃんと成長していることがわかったバルカーだ。


「若いもんには負けておれんな。ルーンソード“切断上昇”」


 ギュンターのルーン剣が青白く発光する。

 成り行きで知り合ったこの老人とは、なんとなくウマがあう。


「よし、行くぜ爺さん」


「おうよ」


 バルカーとギュンターは突撃した。


 それを確認したドミニオンは周囲に光の球を展開、射出してくる。


「ポーザちゃん、行くで!」


「もちろん!」


 タリッサは銃撃を再開する。

 さきほどは、一つの場所に留まり銃撃していたため、戦況の変化とともに攻撃がおろそかになってしまった。

 今度は動き回りながら、的確に光の球を銃撃していく。


 ポーザは自前の魔法と、呼び出してあった妖精フェアリーの魔法との数打ちゃ当たるを実践していた。


 ドミニオンの光の球は何かに当たると爆発してダメージを与える仕組みのようで二人の武器と魔法によってあらかた爆破されていた。

 光線の亜種というか、あの球のエネルギーがそのまま射出されれば光線になるのかもしれない。

 彼女らが打ち漏らした球は俺が後衛に当たらないように防いでいる。

 負ったダメージはホイールが適宜回復させてくれる。

 これなら、いくらでも守れる。


 二人が物理攻撃をし、二人が遠距離攻撃をする。

 俺が攻撃をいなすタンクであり、ホイールがそれ支える回復役。

 それは、ドミニオンがこちらに集中するのに足るパーティの連携だった。


 だから、その状況でリヴィがいなくなっていることにドミニオンが気付いた時には彼女の準備は整っていた。


 ドミニオンの死角に立ったリヴィは契約魔法による白い火球ノヴァスフィアを無数に展開した。

 そして、詠唱。


「そは曙光、見果てぬ列光、東の海より昇るもの、月の兄、詩の伝え手、穿て穿て穿て、陽光は矢となりて、我が敵を貫きたまえ“アポロ”」


 リヴィの周囲に浮かんだ火球ノヴァスフィアは彼女の周囲に幾重にも円環を形作る。


 さっきから火球ノヴァスフィアを連射するリヴィの魔力量はもう人間のレベルを越えているだろう。

 もうすでに純血の魔人にも追い付くほどの魔力量とコントロール。


 展開した白い火球はすでに千を超える。

 やがて白い炎は徐々に青くその色を変えていく。

 温度が上がっているのだ。

 触れただけで可燃物なら炎上させてしまうほどの温度。


 千もの青い火球ノヴァスフィアでリヴィは巨大な魔法陣を描く。

 魔法そのもので構成する魔法陣。

 そこから発動するリヴィの新たな魔法。


 光。

 直視することもできないほどまばゆい光。


 それがドミニオンへ発射された。


 目を閉じて物理攻撃を耐えることに専念していた有翼の怪物は、目を見開いた。


 わずかな時間で耐性の切り替えを行ったドミニオンだが、そのわずかな間に受けた“アポロ”の光によって右半身が失われていた。


 だが、まだ戦意は失われていない。

 急速に回復しようと魔力を集中させているのが見てとれる。

 胴を両断されたポメラニアが、回復したような白い光だ。


 だが、黙ってそれを見ているわけにはいかない。


「いまです!」


 思いが合致したようなリヴィの声に俺は飛び出した。


 大太刀“朧偃月”を構え、一気にドミニオンに接近。

 残った左半身を両断した。


 強力な魔法攻撃に、思わず耐性を切り替えたままだった奴は物理攻撃に弱くなっていた。

 ならば、俺は斬れる。


 斬れるなら、どんな相手でも倒せる。


 俺はそれを証明した。


 ドミニオンの開かれた目は、自分の敗北と消滅を信じられないかのように何度か瞬きをして、消えた。


 きらきらと魔力の青白い光の欠片が宙を舞う。

 やがて、それも消えていった。

 いつの間にか、祭壇の上の青白い渦巻きも消えていた。


「ふぅ、終わりましたね」


「助かった、リヴィ」


 俺は鎧を解除した。

 リヴィを見る。


「約束しましたから」


 微笑む彼女が言ったのは、こんなことになる前に誓った約束だ。

 地の果てでも、世界の裏側にいようとも助けに行く。

 そんな約束を、彼女は守った。

 どれほどのことを成したのか。


「ああ、そうだったな」


「お守り、役に立ちました?」


「とっても、な」


「なら、良かったです」


「ここに居れるのか?」


「いえ、帰ります」


「そうか」


 ちょっと残念そうな思いが顔に出たらしく、笑顔でリヴィは言った。


「夏休みには帰宅できるんですけど。それまでにこの依頼クエスト終わりますか?」


「どうだろうな。ちと、厳しいかもしれんが……リヴィの夏休みに間に合うように帰る」


「無理はしないでくださいね?」


「大丈夫だ。いざとなったらリヴィが来てくれるからな」


「ダメです。夏休み前には期末テストがあるんです」


「学生は大変だな」


「こないだのテストは十位だったんです。もっと上を目指さなきゃ」


「リヴィは頑張ってるな」


「はい!」


「頑張ってるリヴィの顔を見たいからな。夏休みに必ず会う。これは約束だ」


「無事に帰って来てくださいね」


「ああ。約束の中に付け加えておこう」


「じゃあ、わたしそろそろ行きますね」


 と言って、リヴィは疲れきって座り込んでいるバルカーとポーザのもとへ向かった。


「バルカー君。ポーザさん。道中でいちゃらぶすると回りの人に迷惑かかるからやめたほうがいいですよ」


「「お前が言うな」」


「息ピッタリさすが」


 さっきまでギアと(はためには)いちゃいちゃしていたリヴィだけには言われたくない言葉である。


 そんなやり取りをして、とてとてとリヴィは俺の前に戻ってきた。


「それではギアさん。また」


「ああ。また」


「あ、あと野菜はちゃんと食べてくださいね」


「わかった」


「下着は毎日変えて、使わないのは洗ってください」


「わかってる」


「お酒はほどほどに」


「りょ、了解だ」


「それからそれから」


「……」


「愛しています、ギアさん」


 こういうことを素直に言うのだ。

 この娘は。


「ああ、俺もだ」


「では本当に行きます」


「ああ。来てくれてありがとな」


 リヴィは呪文を唱える。


「はるけき彼方のかくりの宮の、御門をくぐりてさざ波の、遠野の道々いざ参らん“転移門”」


 複雑な魔法式で構成された門へ、名残惜しそうにリヴィは足を踏み入れた。


 彼女が門の向こうに消えると、門は青白い光となって消え去った。

 銀色の蝶がひらひらと舞い、俺の胸元に戻り、元の首飾りに戻った。

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