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213.天使への反撃

火球ノヴァスフィア


 莫大な魔力が収束し、リヴィはそれを白い炎として放った。

 その炎はドミニオンに直撃する。


 その澄ました顔にわずかに痛みと不愉快さがにじんでいた。


「舐めてましたか?そうですよね、純魔法使いがいなかったから、強い魔法が来なかったから、魔法の耐性を下げていたんですよね」


 それはリヴィが、ドミニオンの異様な物理攻撃への耐性の高さの理由を理解しているかのような言い方だった。


「なあ、リヴィ。今の言い方、もしかして」


「はい。敵は耐性を変化させることができるみたいですね」


「なんでわかった?」


「無尽蔵の魔力を持っていて遠距離攻撃をメインにし、飛ぶ。つまり、攻撃なんて当たらなければどうということはない、タイプの敵、のはずなんです」


「けど戦った感触は違った」


 そうだ。

 俺たちは実際に戦い、一撃当たれば戦闘不能になる光線から逃げ惑い、殴ってもそれほどダメージを受けない物理耐性に苦労していた。

 それは、今までの天使が殴ったり斬ったりすればなんとかなったという経験則があったからだ。

 俺たちは、その経験則に目を曇らされていた。


「はい。高機動遠距離攻撃タイプは装甲が柔らかいのがセオリーです。そもそも硬かったらむやみに動き回ることなどせずにどっしりと構えている方が効率的ですよね」


「それで耐性を可変できると予測したわけか」


 外から見たリヴィが、目の前にあることだけで推測したことはおそらく正しいのだろう。


「今から、火球ノヴァスフィアで飽和攻撃を仕掛けます。ギアさんは相手の耐性の変化を確認したら、一度斬りかかってみてください」


「わかった」


火球ノヴァスフィア展開」


 ポーッと白い炎の球がいくつもリヴィの周囲に浮かび上がった。

 基礎の基礎の攻撃魔法である火球ファイアボールを最大にまで高めたそれは、炎に耐性のあるドラゴンの鱗すら貫通するほどの威力にまで高まる。


 ドミニオンは一度翼をはためかせた。

 それは無意識の警戒の現れだったのかもしれない。

 俺たちには見せなかった態度だ。


 リヴィは杖を向けた。

 火球ノヴァスフィアは連なってドミニオンに突撃していった。

 百にも及ぶ白い炎は次々にドミニオンを燃やしていく。


 声すらあげずにドミニオンは業火に包まれた。


「ダメージが通った……」


 ポーザが呟く。

 ろくにダメージも与えられず、使役した魔物も光線にやられ、恋人のバルカーも危うく死ぬところだった。

 まったく太刀打ちできないと思われた相手に、攻撃が届いたのだ。


「いえ、そろそろ変化します」


 リヴィの言葉どおり、ドミニオンが動いた。

 翼をたたんで全身をくるみ、炎を押さえ込んで消していく。

 しゅうしゅうとドミニオンの全身から煙があがる。


 その翼がバッとひろがる。

 冷酷な顔はそのままに、目が開いている。

 それは小さいながら、明確な変化だ。


「目が開いていると攻撃が激しくなる」


「わかりました。じゃあ守ってください」


「そいで隙ができたら一発殴る、と?」


「はい」


「スパルタだな」


「もう一回魔法、いきますよ!」


 リヴィはもう一度、火球ノヴァスフィアを大量に展開する。


「来るぞ!」


 ドミニオンは羽ばたき飛び上がった。

 そして、物理攻撃の届かない空中に留まる。

 その手の王笏が輝き、白い光の球を発生させる。


 リヴィの超高温の白とは違って、それは純粋な光の白だ。

 ドミニオンの光の球は一斉にリヴィに向かって発射される。


 俺はほぼ無意識で、リヴィの前に立ち光の突撃をくらう。

 生身ならともかく暗黒鱗鎧アビススケイルの防御力なら、たいていの攻撃なら防げる。


 目の前が光にあふれ、視界が閉ざされる。


 だが、俺は信じている。

 後ろにいる少女が、長い距離を飛び越えて助けに来てくれた彼女がなんとかしてくれることを。


「行け!」


 リヴィの放った白い炎は流れ星の群れのようにドミニオンに向かっていく。


 それはドミニオンに全弾直撃した。


 だが、さきほどのように燃えることもないし、顔に苦痛の色が浮かんでいることもない。


 魔法耐性形態ということか。

 目を見開き、それを確認する。

 ならば、今なら物理攻撃が有効だ、ということ。


「おおおおおおおお!!!」


 俺は突撃した。

 奴もまさか攻撃をくらったばかりの相手が逆襲してくるなど予想していないだろう。

 闇氷咲一刀流の移動技“霜踏影”を使って、一気に空中のドミニオンの間合いの中まで接近する。

 無表情のドミニオン。

 その目には、信じられない、という驚きが浮かんでいた。

 大太刀を抜く。

 勢いのまま、ドミニオンの身体に刃が触れる。

 まるで抵抗なく、ドミニオンの右脇から胸元まで大太刀による裂傷が刻まれる。

 さっきまでの硬さが嘘のように。


 血ではなく、光が吹き出す。

 俺は空中でくるりとまわり姿勢を整えて着地する。


「どうだ?」


「さっきの予想どおり、物理耐性と魔法耐性を切り替えています」


 確かに。

 まるで抵抗なく斬れた。

 あれなら、やれる。


「見分け方はあるのか?」


「目です」


「開いていれば魔法耐性、閉じていれば物理耐性、か」


「はい。ではさっきの行動を踏まえて、みなさんにも手伝ってもらいますよ!」


「みなさんって言っても、まだ戦えるまで回復してないだろ?」


「タリッサさん」


 急激に変化しつつある戦況を見ていたタリッサは、リヴィの方を見た。


「なんや?」


魔力回復薬マナポーションはお持ちですか?」


「あるで」


 飲むことで魔力を回復させる薬だ。

 魔法使いにとって垂涎の逸品である。

 その分、希少であまり出回らない。


「それは良かったです」


「ただし一個だけや」


「なるほど、誰に使うか悩んでいたんですね」


「せや」


 ここにいる魔力を回復させれば戦線に復帰できる人物は、ポーザ、ホイール、ギュンター、の三人だ。

 一個しかない魔力回復薬マナポーションを誰に使えば難局を乗り越えられるか、タリッサは見極めがつかなかったようだ。


「ポーザさん。タリッサさんに魔力回復薬マナポーションもらって飲んでください」


「ボクでいいの?」


 疲れきった顔のポーザ。


「ポーザさんはバリエーション豊富な魔物を呼び出すことでの万能さが持ち味じゃないですか」


「それはそうだけど」


 大フクロウのシマコブンザ、狩猟狼ハウンドウルフのハウル、今回の件で活躍した二体は天使たちによって失われていた。

 魔物操士の彼女にとって、戦力は壊滅したも同然だ。

 とポーザは思っている。


「居ましたよね、妖精フェアリー


「いる、けど。戦闘の役には立たないよ。まだ小鬼ゴブリンのゴブさんの方が戦える」


「ポーザさん。せっかくパーティにいるんですから、個人ソロ時代のなんでもやる思考を切り替えてください。妖精フェアリーさんの能力、わかりますよね?」


妖精フェアリーの能力?……範囲回復小レッサーヒールサークル魔力委譲マナデリバリ……」


「そうです。残っている魔力を他者に譲り渡す能力、ですよね?」


「譲り渡すって言ったって、ボクの魔力なんかたいしたことない……!……リヴィエールちゃん、誰の魔力をあてにしてるの?」


「もちろん、ギアさんですよ」


 ニコニコとリヴィは俺を見ている。


「扱いが魔力の貯蔵庫タンクなんだが」


「ギアさんはタンクですよ。もちろん」


 ニコニコしたままの彼女に俺も思わず笑顔になる。

 ポーザもつられたように笑い、立ち上がった。


「もう。せっかくナーバスな気分だったのに台無しだよ。で、ボクは誰に魔力をあげればいいわけ?」


「欲しい人全員です。ギアさんはもう攻撃一回分の魔力さえ残っていればいいので、ガンガン使ってください」


「リヴィはなんだかたくましくなったな」


 ちゃんとした指示を出して、戦況を勝利へ導こうとするリヴィにそういう感想が漏れた。


「え?筋肉は鍛えてないんですけど!?」


 どうもその意図は伝わっていなかったようだが。


 ポーザはタリッサから魔力回復薬をもらい一気飲みした。

 ドミニオンはまだ傷口の回復が終わっていない。


 このわずかな余裕で、反撃の態勢が整いつつあった。


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