21.神速よりもなお早き暗黒の一閃
暗黒鎧は、着用者の防御力のみならず、機動力、筋力も上昇させる。
それは魔法の習熟度によっても変わるが五倍から十数倍にまで上昇する。
魔王軍の騎士団長クラスなら十倍程度の上昇率を持っている。
だが、それでも勇者相手に一定時間互角でしかなかった。
魔将や四天王の方々がやられてしまったのも無理はない。
しかし。
魔王軍と戦ったこともない騎士どもがいくら強化されても、鎧をまとった俺の相手にはならない。
突いてきたリギルードの槍を優しく摘まむ。
魔力吸収が自動的に発動し、“魔槍錬成”で生み出された槍を魔力へ還元し、鎧がそれを吸収する。
「な?」
丁度よく魔力が充填されたので、鞘へ供給。
圧縮された魔力が暗黒剣を抜刀させる。
さらに速さにおいて早氷咲一刀流を超える魔界刀技“闇氷咲一刀流”の技を用いて、抜刀する。
早氷咲一刀流をベースに魔力を組み合わせることによって、更なる速さを得た剣はその一刀のみでレインディアの電光の剣を吹き飛ばす。
速さと膂力が、聖印状態のレインディアを上回っているのだ。
騎士団の駐屯所の壁に叩きつけられたレインディアの鎧が、粉々の光の粒になって砕け散る。
どうやら、リギルードが着ていた爆発反応装甲のように鎧が砕けることでダメージを軽減する仕組みのようだ。
もしくは、この魔法を参考にあの鎧を造り出したのかもしれない。
レインディアはなんとか動こうともがくが、戦闘復帰には時間がかかりそうだ。
「黒い……鎧!?まさか、あんたは……」
リギルードは俺の姿を見ておののいた。
「元魔王軍暗黒騎士、今はリオニア冒険者ギルド二級冒険者のギア、だ」
「は?暗黒騎士?冒険者?」
「暗黒騎士は引退したんだ。今の俺は単なる冒険者だ」
「単なる……ねぇ。チッ、魔槍錬成!」
リギルードは再度槍を生成。
間髪入れずに投擲してくる。
だが、その槍が俺に効かないのはわかったはず。
ならば、何を企んでいるか、だ。
それはすぐにわかった。
投擲された槍は目眩まし、リギルードは俺の背後に移動していた。
おそらくは“飛行”の魔法を使いこなしたのだろう。
一瞬で背後を取るというのは、戦士にとって垂涎の魔法に違いない。
「気付いてももう遅い!俺の前後から突き立てる槍を味わうがいい!!」
射出された槍と、背後から襲うリギルード。
前後からの同時攻撃。
普通なら回避不能だ、が。
「遅いのはお前の方だ。闇氷咲一刀流“二連牙”」
最速の闇氷咲一刀流の抜刀術は、剣のみならず、鞘をも武器と化す。
右手で抜刀した剣で前方から迫ってきた槍を切断し、左手で鞘を握り、リギルードの槍を受け流しつつ、彼の鼻に叩き込む。
魔力の込められた鞘はその硬さだけなら、輝く鎧を打ち壊せるほどだと証明される。
輝く鎧の面と面頬が輝く粉になって消えていく。
残ったのは驚愕に目を見開いたリギルードの顔だ。
俺はパッと鞘を手放し、空いた左手を握り、無防備な顔面に打ち込んだ。
呆けていたあまり、まともに拳の直撃をくらうリギルード。
「う、そだ?なんで、おれ、が?」
リギルードは膝から崩れ落ち、倒れた。
彼の意識の消失とともに、輝く鎧は黄金の粒子となって消え去った。
同じく、もがいていたレインディアの鎧も消えた。
「とりあえず、これで終わりか?」
周りを見渡しても、異変は見受けなれなかった。
さて、こいつらはどうするか。
リギルードは昏倒しており、レインディアも聖印の鎧が解除され、壁にめり込んだままだ。
リヴィはどこだろうか。
居場所を知るために、リギルードを起こすことにする。
手足を拘束し、近くにあった井戸の水を頭にかける。
「ぶっはあ!?」
すぐに、起きた。
「よお」
「……なんだ?まだ俺は生きているのか?はやく殺せばいいだろう」
「お前がさらった娘はどうしてる?」
「さあな」
くくく、とリギルードは笑う。
奴の目的は時間稼ぎだ。
自分が殺されても、その間の時間を稼げたのだとしたら奴の勝ちなのだ。
その手段にリヴィが使われている。
「ニューリオニア側の最高権力者はおそらく国王だろう。だが、国王がこんな汚い手段を考え付くわけもない。おそらくは軍務卿とやらの独断だろうな」
「……何を…?」
「ならば、その策謀の生き証人であるお前を殺すわけにはいかない。だが、もしリヴィが見つからなかったら、俺はその全てを無視して”お前を殺す”」
ひゅうと、リギルードは息を吸った。
自身に向けられた俺の殺気のせいで生きた心地もしないのだろう。
「こいつを冒険者ギルドまで運ぶ。手伝ってくれ、レインディア」
「ここまでボロボロにしておいて、そうおっしゃるのですね」
億劫そうにレインディアは立ち上がった。
鎧がクッションになってダメージはほとんど残っていないはずだ。
多少ふらついていたが、大丈夫だろう。
「団長……」
「あなたのしたことは許されることではありません。裁かれるべきです」
「俺の連れがこいつに拐われた、心当たりはないか?」
レインディアはしばし考え込む。
「この駐屯所の客間か、どこかにいるのでは?」
「窓に面した客間はあるか?」
「窓?」
リギルードは“飛行”の魔法を使えた。
レインディアに気づかれず、監禁できるとしたら空を飛んで窓から投げ入れた可能性が高い。
「外から鍵がかけられる、窓に面した部屋だ」
「それでしたら、三階貴賓室が一番あてはまります」
「外から鍵がかけられる貴賓室……か」
「言いたいことはわかります」
騎士団に反抗的な“貴賓”を閉じ込めておく部屋、ということだろう。
立派の騎士団は後ろぐらい牢獄など用意していない。
しかし、それに準じる施設はもっておかなくてはならない。
必要だからだ。
「その部屋へ案内してくれ」
「はい」
レインディアは俺の前を走りだした。
金の髪が揺れる。
俺はその速さにあわせて、足を早める。
ついさっきまで戦っていた俺たちは今は協力しあっている。
人間と魔人も、いつかそういう関係になれるのだろうか。
……わからない。
今、この状況が奇跡なのかもしれない。
騎士団の駐屯所、遷都される前は王国騎士団の本拠地だった建物だ。
三階建ての魔法で強化された木造建築で、魔法の直撃を受けても耐えきれるらしい。
つまりは非常に金がかかっている建物だということだ。
いくら遷都したといっても、こんなものを放置していける騎士団の懐具合を俺は少しうらやましく思った。
俺が率いていた暗黒騎士団二番隊はそういう贅沢は許されなかったからな、と昔を思い出してしまった。
階段を駆け上がり、一気に三階へ。
「リヴィ!」
応えはない。
「この部屋です」
とレインディアは鍵穴のついた扉を指す。
俺はガチャガチャとドアノブを回すが、扉はびくともしない。
「鍵は?」
「鍵自体はニューリオニアで管理しているんです。今回はこの部屋を使う予定がなくて……」
レインディアは鍵をもってない、か。
一回降りて、リギルードに問いただすには時間が惜しい。
「そうか。なら修理代はまけてくれ」
構える。
腰を落とし、納刀した剣の柄に手をかける。
「ちょ、ちょっと待って」
「もう、待てん」
柄を握り引き抜く、と同時に腰をきることで剣の刃が姿を見せる。
さらに魔力をこめて剣を鞘から射出する。
魔王軍の“剣魔”によって改良された早氷咲一刀流。
俺はそれを“闇氷咲”と呼ぶと教わった。
「闇氷咲一刀流“氷柱斬”」
抜刀術として、この技は早氷咲のものと変わりはない。
ただ一点、魔力を使うことでその速度を大幅に加速できる。
そして、抜刀術において速さとは威力と同義だ。
魔法強化された木材であろうが、俺の剣はそれを斬った。
チン、という納刀の音と同時に扉が崩壊する。
「あ、あああ、扉が……」
呻いているレインディアはおいて、俺は部屋の中へ。
その部屋の寝台の上で、すうすうと寝息をたてて寝ているリヴィがいた。




