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207.白銀伯戦闘中

「ああ、もう突っ込んでいくんだから!」


 タリッサにとって、前衛職というのはいつもそうであった。

 幸か不幸か、一流の前衛ばかりと組んでやってきた彼女の経験上、腕に自信がある者ほど前に突っ込んでいく。

 審問官ティオリール、戦士デルタリオス、武道家ラウシンハイ、そして勇者。

 みんなそうだ。

 どんなに強そうな相手でも、魔将とか言われている強い奴でもガンガン前に突撃していくのだ。


 そして、今回のギュンターも、だ。


 自分で遺跡を調べに来たあたりから怪しく思っていたが、この老人も突撃脳筋バカだった。


 六枚翼の御使いパワーズは、今までの有翼の魔物と違い、武闘派だった。

 どこからか、赤い杖を取り出しギュンターを迎え撃つ。

 二メートルほどの長さのそれを振り回すと、人間の間合いでは近づけない。

 かといって、距離を取ると極太光線が放たれる。

 なかなか攻めづらいが、ギュンターの顔には笑みが浮かんでいる。

 果敢にパワーズの間合いの中に入り、一撃入れては距離を取る。


「なんでギュンターさん、突っ込んで無傷なの!?」


 ポーザの疑問にタリッサが答えた。


「戦士の勘、というか見切り的なものやな。そしてそれに加えてルーン剣で速度調整してるんや」


「速度調整?」


 タリッサの言うように、ギュンターの持つルーン剣は速度調整などができる。


 認知外攻撃防御みえないこうげきをふせぐ

 使用者認識帰還はなれてもかえってくる

 切断上昇きれあじがます

 身体能力向上からだがかるくなる

 魔法防御向上まほうにたえられる


 この五つの機能に対応したルーンが刻まれている剣の、機能をオンオフすることで相手の予測に乱れを起こし、長い間合いをかいくぐって攻撃している。


 斬られ続けたパワーズの表情の無い顔、いやその目に苛立ちが浮かんだ。

 攻撃が当たらず、一方的にやられ続けられればたいしたダメージではなくても頭には来るだろう。

 パワーズは翼を羽ばたかせ、宙に舞った。

 そして、左手を掲げた。


『神敵来るべし、来たれ御使い』


 その声に応えるように天井から白いものがぼたぼたと落ちてくる。

 落ちながら白いものは形を変えていった。

 白い羽を生やし、手足を伸ばし、微笑みを浮かべた顔を露出する。

 遺跡の一階層で俺たちが嫌になるほど戦った有翼の魔物“天使アンヘル”。

 その数はゆうに百体を超えていた。


「なんやこれ……」


「なるほどの、これなら危険度3も頷ける。魔物を呼び出せる、そして統率できるとなると都市国家では対処できぬ」


 やはりここで叩くしかあるまい、といってギュンターは天使の大群へ突っ込んでいった。


「タリッサさん。あの爆発する石、まだありますか?」


 ポーザの確認に、渋い顔でタリッサは答えた。


「あと一個や。意外と作るの難しいんやで」


「じゃあ、道はボクが切り開くので、ここぞという時にぶん投げてください」


「どうするんや?」


「あのデカイのはギュンターさんに突っ込ませて、ボクたちで道を作る。それだけです」


「……やっぱりあんたもあの黒いののパーティメンバーやね。染まってるわ」


「光栄です」


 来い、シマコブンザとポーザは叫ぶ、大フクロウの魔物が呼び出され、天使の大群に突っ込んでいった。


「ウチもまあ、見ているだけやとアカンね」


 そう呟いたタリッサはニッと笑い、懐から金属でできた筒を取り出した。

 握るところと引き金がついているそれは異世界では“銃”と呼ばれる武器だ。

 この世界でははじめて作られた火薬を使った射撃武器だ。


 道具使いの面目みせたるわ、と叫んでタリッサは引き金を引く。

 発射された弾丸は、一体の天使に直撃し、その天使は光となって消えた。


 ポーザとタリッサの援護によって、天使の大群の圧力が減ったことを察知したギュンターは、ルーン剣の“身体能力向上”をオンにし、跳躍した。

 まっすぐパワーズへ向かって。


 阻もうとした天使たちの放つ光線は“認知外攻撃防御”の機能で剣が勝手に防いでいく。

 “魔法防御向上”もオンになっているため、極太光線ならともかく下級の天使の光線など剣が勝手に打ち落としていく。


 止められないと悟った天使たちは、上位者を守ろうとパワーズとギュンターの間に殺到した。


「ぬ、厚いか!」


「タリッサさん、今!」


「ギュンターさん、これに乗ってや!」


 ポーザの合図でタリッサは最後の“ヴォルカンの槌”を投げた。

 狙い通り、天使たち全てを巻き込むようにそれは爆発した。


「乗れ、とは……!……こういうことか」


 爆発の火柱と爆風、そして黒い煙の中へパワーズは杖を突きいれた。

 しっかり見えているわけではないが、人間は空中で軌道を変えることはできない。

 ならば多少の誤差はあろうと、そこに杖を突き刺せばちゃこまかと動く老人の息の根を止められる。

 パワーズはそう思っていた。

 そして、突きいれた杖が空を突いたことに動揺した。


『!?』


「上じゃ!バカめ!」


 老人の声に、パワーズは上を向いた。

 その顔面にルーン剣の刃が振り下ろされた。


 ギュンターは“ヴォルカンの槌”によってできた爆風によってさらに上へ跳躍していたのだった。

 タリッサの言った、これに乗って、とは爆発でできた爆風に乗れということだったようだ。


 ルーン剣は“切断上昇”をオンにしている。

 金属でもやすやすと切り裂けるこの機能によって、パワーズの顔面は両断された。

 そのまま縦に両断されていく。


 切断された部分からパワーズは光となって消えていく。


 ギュンターが空中から降り立った時には、パワーズは完全に消え去っていた。


「ふう」


「ふう、やないでギュンターさん。まだ雑魚が残っとる」


「ほう?」


 パワーズが、呼び出した下位の天使たちはまだ残っていた。

 呼び出した数が多かったために、爆発で倒しきれなかったのだ。


 ギュンターはルーン剣を一体の天使に投げつけた。

 それは正確に天使を貫き、光と変えた。


「な、なんや?なにをしたいんや」


 武器を投げるという意味不明な行動に出たギュンターにタリッサは、大丈夫かこいつ、みたいな目を向ける。


「なに、あのデカイの相手に大暴れしたゆえな。楽をしようと思って」


「楽?」


 ギュンターは剣を引っ張る動作をする。

 すると瞬時に剣がギュンターの手元に戻った。

 それを再度投げる。

 天使が貫かれる。

 また手元に戻る。


「うわあ」


「ずっるう」


 女性陣の呆れたような顔にギュンターは苦笑いを浮かべた。


「私が一番高齢者なのだがのう」


 あらかた天使が掃討されて、ギュンターたちは余裕が出ていた。

 俺たちは瓦礫を抜けて、ようやく合流できた。


「手助けできずすまなかった」


「いや、私らで対応できた。それにこれからもっと強いのが出てくるであろう。力は温存しておいたほうがよい」


 そうやって雑談していると、ズズズズと重いものが動く音がした。

 見ると、床の一部が降りていき、階段が現れた。


「事前の印象としては五から六階層だったな」


「そうだね。規模からしてだいたい合ってると思うよ」


 とポーザが頷く。


「ということは、ここを降りると後半戦なわけだ」


 三階層を突破した今、残すのは二から三階層。

 まだ余力はあるが、ギュンターの言うように戦力は温存しておきたい。


 ただ時間的な余裕がどれほどあるかわからない。


 外では滞っている復興事業の再開をラッジらが待っているだろうし、マルツフェルではニコが俺たちの帰りを待っている。

 遺跡の奥では、この天使たちが発生した原因の何かが蠢いている。


「焦るなよ、ギア殿」


「さすがは将軍様だな。見透かされたか」


 肩にギュンターが手を置いてくる。


「いや、私もかなり焦っておるのだが、リーダー殿が落ち着いていれば皆も落ち着く」


 歴戦の勇士であるギュンターはさすがにわかっている。


「よし、皆大丈夫なら、降りるぞ」


 全員が頷く。


 俺たちは四階層目へ降りていった。

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