表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/417

206.幽霊にバルカーはかなりビビっていた

 俺たちが見張っている間に、襲ってくる魔物はいなかった。

 というか第三階層に魔物はいないようだ。


 その代わりに上で発生し続けていたらと思うと不安になる、が。

 最下層まで調査するのが先決だ。

 せめて有翼の魔物が発生する原因は突き止めたい。


「リーダー、ここの地図できたよ」


 とポーザが紙に書かれた地図を見せてくる。

 かなり複雑な分岐もある広大な迷路である、と地図を見ると理解できる。


「かなりの規模だな」


「ホント、ハウル君がいなかったらたぶん遭難していたよ」


「確かに、遭難しそうだ……今、ここなら下への階段は……ここか?」


 目の前に一部屋あって、そこに階段がある、はず。

 なのだが。

 目の前には壁があって、行き止まりになっていた。


「そうなんだよね。ハウル君の吠え反射で確認してるから、あるはずなんだよ」


 この地図の精度を見る限り、ここだけ間違っているとは思えない。

 二階層の玄室の隠し階段のように、どこかから入れるようになっていると思われる。


「ふむ。ここらかのう」


 ギュンターが壁をこんこんと叩く。

 他の部分と音が違う。

 中に空洞があるようだ。


「スイッチやレバーのようなものは見えないな」


 もしあれば楽なのだが。


「魔法的な仕掛けでしょうかね」


 ホイールもその壁を叩いてみる。


「殴って壊せばいいんじゃないか?」


「それで敵を呼んじゃったらどうするの?」


 バルカーらしい意見はポーザに却下された。


『もし……この声が聞こえますか……』


 どこからか聞こえた女性の声に、全員が無言になった。


「お、おいポーザ。変な声出すなよ」


「ボクじゃないよ……タリッサさんじゃないの?」


「ウチやないで……」


 女性二人が否定する。

 では、今の声は?


 辺りを見回すと、隅のほうにうっすらとした影が映った。

 目を凝らすと、つばのひろい三角帽子をかぶった女性のシルエットが見えてくる。


「もしかして、お前、凶犬ドッグの魔法使いか?」


「え?」


 バルカーたちがその影に目をやる。

 俺は幽体を見る力は無いが、魔力の流れがよどんでいるのはわかる。

 そのよどみかたの形がなんとなく、大きな帽子をかぶった魔法使いの女性、のように見えるのだ。


『はい……私は凶犬ドッグの魔法使い、マルチと申します……』


 かすかだが、それは皆にも聞こえたようだった。


「何か思い残したことがあるのだろう?」


『はい……私たちはとんでもないことをしてしまったのです……』


 マルチがとぎれとぎれに語ったのは、凶犬ドッグのメンバーがこの遺跡で何を見つけ、そして何が起こったか、だった。


 大型の遺跡の調査という仕事に、はりきっていたメンバーは遺跡の第一階層を軽々と踏破した。

 やはり、優秀な盗賊シーフがいると探索は捗るようだ。

 また、俺たちと違って有翼の魔物とは遭遇せず、スケルトンなどが主な相手だったようだ。


 そして二階層の玄室で、彼女たちはルーン文字が刻まれた棺を見つけた。

 本来なら謎のオブジェクトは調査の依頼主に報告してから開封するのが筋だ。

 特に棺は、誰か偉い人が埋葬されている可能性が高い。

 もしかしたら、付近の領主の祖先ということもある。

 そんなことを気にせずにガンガン開ける冒険者もいるが、凶犬ドッグは探索に長けたパーティだ。

 そういうルールはよくわかっているはずだった。


 けれど、リーダーのポメラニアは開けた。

 何かに取り憑かれたように、ためらわずに。


 棺を開けた瞬間、何も起きなかった。


 拍子抜けして、リーダーにことの是非を問おうとした盗賊職のブルドクが突然倒れた。

 白目を剥いて倒れた彼が、死んでいることはすぐにわかった。


 逃げましょう、と言った森術士ドルイドのプレーリーが倒れたのが見えた瞬間、魔法使いのマルチも意識を失った。


 そこから、彼女の意識はあいまいとしていたらしい。

 死んだ、とはわかっていたがいつもふらふらと漂っていたようだ。


 うっすらとブルドクとプレーリーの二人も同じような状態だとはわかった。

 この遺跡を漂っていると、たまに宙を行く天使アンヘルの姿を見ることがあった。

 羽の生えた魔物はやはり天使アンヘル

 棺に刻まれたルーン文字の示す魔法生物だ。


 その数は増えていったらしい。


 そして、高い魔力を持つ存在がやってきたのを感知して、魔法使いマルチの幽霊はこちらにやってきて、声をかけたのだった。


 それを俺が見つけたのだ。


「三級冒険者を即死させる攻撃か……」


「な、なあ、師匠。なんで普通に話せるんだ?」


 青い顔をしたバルカーがふるえていた。


「いや、そんなに怖くないだろ」


「ど、どうやったら昇天するんだ」


「こいつも含めて、凶犬ドッグのやつらは迷宮ダンジョンに捕らわれてしまった。それを解消するには」


ボスを倒すしかないってことか」


 目標が一つ見えて、バルカーは落ち着いた。

 倒せば解決というのはシンプルでわかりやすいのだ。


『気をつけてください……まだ、彼女は……』


 とまで言って、ふっとマルチの幽霊は姿を消してしまった。


「なんだ!?」


 俺は壁の向こうにチリチリとした気配を感じた。

 二階層で感じたプリンシパリティのような。

 そして、それよりも強い。


「む」


 ギュンターも気付いたらしく、ルーン剣を構える。


 遺跡に囚われた幽かな霊ごとき、かきけしてしまうほどの魔力の圧。

 それがいるから、この階層には低位の天使などはいなかった。

 いや、存在できなかったのだ。


 目の前の壁が白く輝き出す。

 そして、壁面の装飾がドロリと溶けた。


「全員、横に跳べ!」


 俺の声に、全員が左右に分かれて跳んだ。


 極太の光線が壁を融解させて突き抜けてきたのは、その直後だ。


『我は見る者、ここまで来たりし者ならばすでに命はいらぬであろう。わずかな希望など打ち消して、永劫に罪を償うがいい』


 真っ白な立像というイメージは変わらない。

 しかし、赤い上衣が目をひく。

 そして、背に生えている翼は三対六枚に増えていた。


『我は調和を司る、万の能を行使する第六位階能天使“パワーズ”』


 二階層のプリンシパリティは七位階と言っていた。


「危険度3じゃったか。出現したら周辺諸国に避難勧告」


 ギュンターが言った。

 そうだ、棺に刻まれたルーン文字が示していた危険度。

 それには能、あるいは力の出現が危険度3と示されていた。


 ということは、こいつの出現は周辺諸国にかなりの被害が出る事態を招きうるということだ。


「ギュンターさん、何であいつに剣を向けてるんや」


「何、どれほどのものか、確かめてみようかと思うてな」


「え、ボクもやるの?」


 さっき回避した時に俺とバルカー、ホイールは右に跳んだ。

 そして、ちょうど瓦礫が目の前に崩れてきてすぐに向かえない状況になってしまった。

 左に跳んだギュンター、タリッサ、ポーザがパワーズと対面する形になっていた。


「ギア殿、次は私がやらせてもらうぞ」


 と、ギュンターは宣言して前へ歩きだした。



「さっきの光線には気をつけてや」


 タリッサの注意にギュンターは頷きつつも、歩みを止めない。


「武道家の小僧でも一撃で倒せるのだ。危険度が上がるとどれほど差が出るのかのう」


「バルカー君はそれなりに鍛えてるんだよ」


 ポーザの声にギュンターは笑みを浮かべた。


「それは暗に私が剣と鎧に頼っている、と言うことかな?」


「それは……」


 その通りだ、と言ってギュンターは消えた。


 それは目にも止まらぬ速さで跳躍したからだ。

 人間よりも頭一つ高い身長のパワーズの、脳天を狙った一撃。


 空中から振り下ろした剣は、パワーズの右腕に阻まれた。

 その防いだ腕には傷一つ無い。


「これを防ぐかよ」


『いと高き神に造られし我に剣を向ける。その罪は償いきれぬものぞ』


「あいにくと私はラスヴェート教徒なのでな。貴様のような小神の使いのことなど知らぬよ」


 その変わらない表情の奥で、パワーズが不快だと思ったことがなぜかギュンターにはわかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ