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203.二階層へ、爆破

「はいはい、ギュンターさんもギアさんもそろそろやめえや」


 本気、ではあるようだがどこか楽しんで戦っている二人は、タリッサの呼び掛けに名残惜しそうに剣を引いた。


「なかなかやる」


「そちらこそ」


「気いすんだら、そろそろ今後について話し合わへん?」


 タリッサが、戦っていた老人に話しかけた。

 ギュンター、とか言ったか。


「そうだな。別の依頼主から頼まれたようだが、お互い手を取り合わねば厳しい状況であろう」


 ギュンターは俺の方を向いてそう言った。


「協力することに異論はない。俺はマルツフェル冒険者ギルドから依頼されたパーティ“ドアーズ”のギアだ」


「私はギュンター・フォン・ブランツマーク。名の通り、ブランツマークを治めている」


 俺とギュンターは握手をする。


「今まで戦っててなんで握手ができるんやろな」


 そして、ドアーズとギュンターたちで情報のすり合わせを行った。

 ギュンターたちの目的は、遺跡及び棺の再調査。

 俺たちは凶犬ドッグの後始末と再調査。

 ギュンターの話からすると最奥の棺はルーン文字が刻まれていたらしく、その封印が解けているとするとかなりの異変が起こっているのではないか、ということだ。

 その予測は当たっている。


「有翼の魔物?」


「ああ、すでに百五十体は倒した」


「にしては通路はキレイだったぞ?」


「致死ダメージが与えられると光になって消えるようだ」


「光?」


「ああ。実体をもたない魔法生物ではないか、と推測している」


「それは厄介じゃな」


 ギュンターはため息をついた。

 魔法生物は術者(迷宮ダンジョンの場合はボス)がいて、その魔力が続く限り半永久的に呼び出し続けることができる。

 いわゆる召喚魔法というやつだ。

 外にいる分にはたいして問題はない。

 召喚魔法はたいてい一体呼び出すだけで術者の魔力を大量に消費してしまう。

 それに強力な魔物を何体も呼び出せる魔力があるなら、その魔力を使って攻撃魔法を使った方が効率的だったりする。


 だが、それが魔力に満ちている迷宮ダンジョンの中だとまた話が違ってくる。

 迷宮の魔力はとんでもなく多い。

 それを消費して魔法生物を生み出すとなると、それは“際限なく”とついてもおかしくない。


 このザドキ大墳墓の大きさからすれば万単位で有翼の魔物が出てきても不思議ではない。


「おそらく、この下の階は有翼の魔物でみっしりとなっている」


 俺は床をトンと突いた。


「棺を調べるには、その無数の魔物をどうにかせぬとならんわけか」


「俺もめちゃくちゃに切り払おうと思っていたがな。タリッサがいるなら丁度いい」


「ウチが丁度ええ?」


「ああ、お前なら爆発物の一つや二つ持っているだろ?」


「ウチを道具袋か何かと思うとるんやないやろな?」


「あるんだろ?」


「あるにはある」


 タリッサが取り出したのは“ヴォルカンの槌”という名の四角い固形物だ。


「これは?」


「硫黄、硝石、木炭を混合したものに小型爆発魔法をエンチャントとした小石を詰めて、障壁魔法で覆ってるんや」


「爆発するのか?」


「障壁解除魔法を唱えて、投げると時間差でボン!や」


「よし、ならそれに頼るぞ」


 俺が見る限り、階段に詰め込んだ瓦礫はもう限界だろう。

 ちょっとした運動もできたし、休憩も取れた。


「リーダー。突入ですか」


 ホイールが声をかけてきた。

 バルカーとポーザも問題ないようだ。


「ああ、瓦礫が破られたらタリッサの道具を投げ込み、敵を爆破する。残敵を掃討しつつ、下の階へ突入する」


 ドアーズのメンバーは了解して頷く。


「未知の遺跡に、未知の魔物、胸がたぎるのう」


 楽しそうなギュンター。

 と呆れたようなタリッサ。


 そして、階下から物音。


 白い光が瓦礫の中から放出される。

 有翼の魔物の手から出る光線だろう。

 それを使って瓦礫を消して来たのだ。


「タリッサ!」


「行くで!」


 タリッサは“ヴォルカンの槌”を瓦礫のあった階段へ投げ入れた。

 それに構わず、有翼の魔物が頭を出し始める。

 感情のない微笑みの表情、その視線がこちらをとらえた。


 瞬間。


 大音声とともに火柱が上がった。

 思わず耳をふさぐ。


 顔を出した魔物が光になって消えていく。


 火柱の周囲に輝く光、どこか神々しいのに地獄のような印象を与える景色だ。


「もう一丁!」


 タリッサは二個目の“ヴォルカンの槌”を投げ入れた。

 吸い込まれるように階段の中に落ちていったそれは、数秒後にドン!と火柱をあげた。


 その周囲でまたきらきらと光が舞っているのは、魔物が消滅した証拠だ。


 俺は手を挙げた。

 突入待機の合図だ。


 そして、火柱が消えた瞬間。

 振り下ろす。


 突入。


 俺を先頭に全員が階段に飛び込む。

 焼けた壁から煙が出ていて、熱い。


 煤で黒くなった二層目の玄室に魔物の姿はない。


 だが奥の方で何かが煌めく。


 棺だ。

 その中から光が漏れている。


 バッと光があふれ、そこから人型の何かが出現する。


『warning、avvertimento、Warnung、警告……言語固定、警告する。これ以上の侵入は敵対行動と見なし、攻撃する』


 言葉を発しながら現れたのは、身長一メートル八十センチほどの白い男性的な立像のような何かだった。

 その背には白鳥のような翼が生えている。

 その表情は慈しみを現すかのような微笑み、しかし目には蔑みの色が浮かんでいた。


「ほう、これはこれは」


 とギュンターが納得したようにあご髭を撫でる。


「俺たちの戦っていたのとは違うが」


「ということは強化されたものか。私には本気を出してくれるということだね」


 嬉しそうにギュンターは剣を抜いた。


『愚かな……絶対の上位者に剣を向けるか……万死に値する』


 有翼の魔物は翼を拡げた。

 体格的には、俺よりも小さい。

 だが、翼の圧迫感が半端ないため大きく見える。


「俺たちはそこを調べたいんだ。どいてくれ」


 それは最後通牒だ。

 これ以上は実力行使して突破するという宣言だ。


 有翼の魔物は首を横に振った。

 表情は変わらないが、哀れんでいることはわかる。


『愚かな者よ。我が名を知り、讃えよ。そして、その死への手向けとせん。我は位階第七位権天使“プリンシパリティ”』


 有翼の魔物、いやプリンシパリティは両手を拡げた。

 その手のひらから光線が放たれる。


「ホイール!」


「“障壁シールド”!」


 俺の呼び掛けにホイールは即座に障壁を展開し、光線を防ぐ。

 プリンシパリティの両手からそれぞれ放たれた光線は障壁を削り取ろうとする。

 当たった箇所が六角形の欠片となって消えていく。


「どれくらい持つ?」


「あまり持ちませんね」


 障壁を展開し続けるホイールの顔には汗が浮かんでいる。


「よし、俺とギュンター、バルカーが斬り込む。当たりそうなところに障壁を出してくれ」


「わかりました」


 相手の光線が二本であるなら、三人で攻めれば一人は光線を抜けて攻撃できる。


「ウチは何すればええの?」


「タリッサとポーザは温存しておく。もし、遺跡がさらに続いているとしたら、道具アイテム使いと魔物操士は働いてもらわなければならん」


「了解や」


「ボクもわかった」


「よし、ホイール。障壁解除!」


 障壁が無くなり、光線がこちらまで届いてくる。

 俺とギュンター、バルカーはそれを回避。

 三人それぞれ突っ込む。

 プリンシパリティは両手を再び拡げて、光線を発射する。

 それは俺とギュンターを狙ってきた。


「こちらを狙ってくるか!」


「行けッ、バルカー!」


「応!」


 俺とギュンターは光線を防ぎ、それをホイールが障壁を展開して支援する。

 そして、バルカーが無防備なプリンシパリティの前に立った。


「ルナノーヴ流“四崩拳”」


 それはバルカーの学ぶ流派、ルナノーヴ流における武道家として一人前の弟子が修めることのできる技だ。

 型はいわゆる正拳突き。

 全身の筋肉を駆動して、拳に集中。

 それを魔力で加速。

 常人がただ殴るより大きな威力となった一撃は、プリンシパリティの腹部を貫通した。

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