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20.光輝く悪意

 ぐらり、と姿勢が傾く。

 魔槍は右肩を貫いたために致命傷にはならなかったが、それでも戦う上で大きな痛手であることは間違いない。


「く、くくく、はははは!さあ、今です団長!こいつを斬ってください!」


「何をやっている!リギルード!」


 理解しあった、とまではいかないまでもある程度お互いをわかりあった俺とレインディア。

 剣と剣。

 むき出しの本能同士のぶつかりあいは、時に言葉のやりとりを超えることがある。

 戦いの結果、俺とレインディアはお互いが敵同士でないことをわかりあった。

 それゆえに、レインディアはリギルードの行動が理解できない。

 なぜ、俺のことを犯罪者扱いしたのか、俺のことを不意打ちしたのか。


「何を?こいつはガインツ卿殺害の犯人、そして冒険者ギルド襲撃の犯人でもあります。騎士団権限で確保、抵抗のためやむなく殺害、それでいいじゃないですか?」


「ふざけるな!彼とガインツ卿の間に何があったかもわからない。それを調べずに命を奪うなどありえない!それにギルドの襲撃の事実を私は確認していない!」


「はあ、やはりあなたは甘いなあ」


 リギルードはようやく、ダメージが抜けたように立ち上がった。

 俺に槍を当てるくらいだ。

 さっきの時点で戦えるくらいには回復していたのだろう。


「甘い?甘いとはどういうことだ」


「リオニアスは邪魔。その戦力となりうる冒険者ギルドも邪魔、ついでに囚われている阿呆も邪魔。一気にまとめて潰してしまえばよい……そう、言われませんでしたか?」


「何を?何を言って」


「ああ、そうか。ハインヒート家はどちらかといえば融和派でしたね。だから、軍務卿もそこまで伝えなかった、と」


「軍務卿?リギルード、説明しろ、何が!」


 どこまでも話が通じあわない。

 というよりは、レインディアがそこまで理解していない。

 だから、俺はいきりたつ彼女を止めた。


 そして、リギルードに向けて冷静に話しかける。


「要するに、だ。リオニアスとニューリオニアのいさかいが本当に抗争になり、内乱になる前に手を打ってきたというわけか」


「なんだ。あなたの方が話、通じますね」


 意外そうな顔でリギルードは俺を見た。

 こいつの顔をまともに見たのは初めてだったことに気付いた。


「冒険者ギルドの一番強い奴を呼んだのは陽動。別動隊が今頃ギルドを襲っている、と?」


「正解です」


「そして、予想外に俺が強かったのでわざわざ騎士団の拠点まで来て、ここにいたこいつを使って倒そうとした」


「その通り」


「お前の誤算はいくつかある。一つは冒険者ギルドにはユグドーラスがいること」


「それについては、こちらにもまだ手があるんですよね」


「まだあるぜ。ギルドの一番強い奴を倒すつもりが、お前では倒せなかったこと」


「それについてはお手上げです。予想以上でしたよ」


「そして、あんたの槍が俺にダメージを与えたのに、俺が普通に話をしていること」


「!?」


 ようやく、リギルードはそれに気付いたようだった。

 俺とレインディアが戦っていた時に不意打ちした槍。

 その槍は俺の肩口を貫いたはずなのに、俺はピンピンしている。


 教えるつもりはないが、魔人には魔力由来の攻撃が効きづらい。

 それは魔人は魔界に満ちる魔力の影響を強く受けているから、らしい。

 雑種ハーフの俺は攻撃そのものは打ち消せない。

 しかし、そのダメージはすぐに無くなった。

 肩を貫かれた痛みはあるが、傷はもう塞がっただろう。


 これは直接、魔王軍の暗黒騎士をはじめとした魔人の兵と戦えばわかることだ。

 現に、勇者パーティの戦士職の奴らは単純な武器の重さや切れ味といった物理攻撃を重視していたし、勇者自身は魔力によらない神聖武器をメインウェポンにしていた。

 魔王軍の侵攻時に前線にいなかった王国騎士団が他国や前線と情報共有していないことが明白になったわけだ。


「さあて、ギルドの方が大変なようだからさくさくと片付けさせてもらうぜ」


「……リギルード!ギア殿の言うとおりなのか?本当にギルド襲撃の罪を彼に着せようとしたのか?」


 レインディアはリギルードの本心を聞こうとしている。

 部下が自分以外の命令を聞いていたというのは、上司としては納得できるようなことではないだろう。

 だが、彼にそれを問いただすような段階は過ぎていた。


「団長、あなたは騎士団のお飾りとして必要な存在です」


「は?」


「名門ハインヒート家の令嬢であり、見映えもよい、剣の腕もある程度はある。民草や一般兵をだまくらかすには丁度いい」


「だまくらかす!?」


「消すには惜しい、けれど、必要なら消せる、とも言える」


「私を、消す?」


聖印ホーリーシンボル


 リギルードはその魔法を唱えた。

 非常に強い言霊を感じる。


 そして、レインディアとリギルードの二人に異変が起きる。


 青白い魔力がリギルードから放たれ、それが二人の体にまとわりつく。


「リギルード!!それは!?」


「騎士団に入団する際に、我々はその身に見えない聖印を刻まれる。それは持ち主の魔力を蓄積し、詠唱と共に解き放つ」


 魔力は変質し、光を放つ。

 真っ白な光。

 眩しすぎる閃光が放たれ、それが収まった時。

 そこには二体の光輝く全身鎧に包まれた騎士が立っていた。


「これこそが騎士団の秘法“聖印”だ」


 ヒュン、とリギルードの姿が消える。

 次の瞬間、気配を感じた俺はその方向へ剣を向ける。


 ギィン!と剣が弾かれる。


「ッ!?」


「へえ、この状態の攻撃を防ぐんだ。元の状態の二倍から三倍に能力が引き上げられているんだけどな」


 リギルードの言うとおり、光の鎧をまとっていた彼は能力がおよそ2.5倍になっていた。


 リギルードに注意を向けすぎたことに気付いた時には、横から殺気を感じた。


 チン。


 涼やかな鈴の音にも似た納刀音・・・


 光輝く刃が全力回避した俺がいた場所を縦横無尽に切り裂く。

 刃自体は見えず、光を帯びた剣の残光だけが見える。


「早氷咲一刀流“吹雪”か」


 神速の抜刀術の連撃。

 数倍に引き上げられた身体能力から繰り出されるそれは、人の域を超えている。

 その技の名の通り、剣の残光が吹雪のように煌めく。


「余所見とは余裕がありますねえ!」


 回避した俺を突き刺そうとする槍。

 リギルードの攻撃を剣で受け止める。

 重い。

 引き上げられた身体能力によって、魔力で生み出された武器でも物理攻撃力が上昇している。

 それが、重い攻撃に繋がっている。


 リギルードに対応しようとすると、レインディアが抜刀術で隙を狙ってくる。

 あまりにも、連携がとれていた。


 さっきまで口論していたとは思えないほどに。


「レインディアの主導権はお前が持っているようだな?」


「もちろん。正義の騎士道にとらわれた騎士団長様にはこういう仕事は許容できない。実際、さっきもそうだったし。だから、こちらが優位の“聖印”を発動させてもらった」


「戦闘能力はそのままで主導権を持った者の指示に従い、ある程度の自律性を持つ、か」


「よく、そこまで見抜けるな。あんた何者なんだ?」


「さあな」


 俺はその魔法を知っていた。

 そもそも、この光の鎧自体も俺が知る魔法の属性違バリエーションいだ。

 そう、俺の契約した魔法“暗黒鎧アビスアーマー”。

 それに、“制御コントロール”もしくは“洗脳マインドウォッシュ”の魔法を連動しているのだ。


 魔王軍の捕虜や奴隷を中心とした部隊に施された魔法とそっくりだった。


「ま、どうでもいいよ。この戦いはあんたの負けで決まり、あとは後始末だけど。団長は始末しなきゃならないね。“聖印”を知られたら悪用されかねないし、あんたとの戦いで相討ち、かな。冒険者ギルドを襲ったならず者を騎士団長が命を睹して倒した……うん、美談だな」


「……お前は本当に騎士なのか?」


「ん?あんたも騎士道!とか正義!とかに拘るタイプなのか?そんなのは虚像さ。力を持つ権力者の力を裏付ける力、それが騎士さ。騎士道だなんて題目は下の者への目眩ましさ」


「……力を持つ権力者の力を裏付ける力、それは否定しない。だがな、騎士である以上は騎士道を蔑んではいけない。それは己が生きる背骨であるべきだ」


「理想主義だな……もう、いいよ。死ね」


 リギルードとレインディアは同時に攻め始めた。

 必殺の槍と必殺の抜刀術。

 どちらかを食らえば死ぬ。

 そして、俺はどちらかしか防げない。


 普段ならば。


 手段を選べなくなった俺は魔法を使う。


暗黒鎧アビスアーマー暗黒剣ダークエッジ


 漆黒の鎧が俺を包み、黒い剣が電光の如く閃く。

 暗黒騎士としての俺は戦闘を再開する。


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