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155.開幕全体バッドステータス攻撃=悪意

「まぁ、ね。僕も暇つぶしとはいえ、やり過ぎたとは思うんだけどね」


 深淵の夢の使者、略してエンは、そう苦笑いしながらスツィイルソンの攻撃を受けてぶっ飛んだ。

 湖の上を、水切りの石のように跳ねていく。

 どういう理屈なのか、エンは湖の真ん中あたりで止まる。


「それがしの足は沈むでござる」


 と、ドウインドは湖に足を突っ込んだ。

 確かに、湖の上を歩けるわけではないようだ。


「いてて。……だからね、みんなで殴りかかってくるのはやり過ぎじゃないかと思うんだよ」


 とエンは立ち上がった。

 その体には傷一つついていない。


「実はさ。僕自身の本体は湖の下に封印されているんだよ」


 透明度の高い湖の底。

 そこにキラリと何かがきらめいた。


 剣……か?


 揺らめく水面から見えるその剣は魔界の業物と比べても遜色のないように思える。

 デンターがいれば、しっかりと判断してくれるかもしれない。


「それがドーンブリンガーだよ」


 ラグレラが湖を覗き込みながら言った。


「え?だって、宝剣は霊峰に奉られているはずでは?」


 ホイールが驚きを隠さずに言った。

 確かに、わざわざ山に剣の名前をつけているくらいだ。

 そこに、あるはずだ、と誰もが思うだろう。


「あれはレプリカだよ、きっとね」


 教会の秘密を知って唖然とするホイール。

 うんうん、秘密を知って少年は大人になっていくんだなあ。


「ねぇ、魔王(予定)君。提案があるんだけど!」


 ふにゃふにゃと笑うエンが俺にそう言った。


「なんだ」


「今から、僕の眷族を呼ぶから、そいつと勝負してほしいんだけど!」


「……お前自身が来ないのか?」


「まぁ、封印されてるからね。それに僕が本気だしたら、こんな大陸すぐに、ボン!だよ」


「わかった」


 なんだか、ペースを崩される。

 それは、余裕からくるものなのか。

 生来の気質か。


「夢を見る者は、みんな夢の中で繋がってる。無意識の奥の奥、底の底。その心の海には夢見る者たちの閉じ込めている怪物、というか怪物的精神がたくさん眠っている」


「何を?」


 小難しいことを言っているようだが、要するに。


「そう、要するに僕はそんな怪物を呼び出すことができる。おいで、我が眷族、月の魔女にして女神の息子、来たれアヴァグドウ」


 湖全体に極薄の魔法陣が展開された。

 青白い光で描かれた幾何学模様の組み合わされた円が、水の上に拡がっていく。

 それは次々に展開されていく。

 幾重にも重ねられた、つまりは積層魔法陣だ。

 ラグレラの作った魔人封印装置が児戯に見えるほどの。


 そして、魔法陣自体が集まって、2メートルほどの高さを持つ毛むくじゃらの怪物の姿を取る。

 目は真紅に輝き、口には長く太い牙が生えている。

 毛に隠れているがその肉体はみっしりと筋肉に覆われている。


「ま、まさか、これは召喚じゃ、ない!?」


 ナギが震えている。


「お姉さん、よく分かったね。その通り、これは集合的無意識に漂う怪物アヴァグドウの情報データを魔法陣という血肉で構成したんだね。召喚なんて無理矢理呼び出すような野蛮な魔法じゃないんだよ」


「私、と同じ……」


「大丈夫!強さは折り紙付き!少なくともドラゴンよりは強いよ!」


 笑顔なエンに若干、いらっとしながら俺は全員に指示を出す。


「というわけで、だ。あの怪物と戦うことになった」


「リーダーはリヴィエールちゃんのことになるとキレるのは自覚してください」


 震えをなんとかしずめたナギにさとされる。


「お、おう」


 ナギは大きく深呼吸をした。

 震えた自分を恥じるようにキッと目を開いて、そして大きな声でこう言った。


「では、皆さん。今回の事件の締めです!あれをボッコボコにしてうっぷんを晴らしましょう!」


 おー!と全員が声を上げる。

 ナギもリーダー気質があるよな。


「よし、ナギは魔法で攻撃してくれ」


「わかりました。それと前衛に“彼”が行きます」


 ナギは錆を呼び出し、そこから半魚人が構成される。


「ガルギアノ、か」


「ええ、私の矛ですわ」


「頼むぞ。ホイール!強化補助バフを途切れないようにしろ」


「はい、わかりましたギア殿」


 ホイールが杖を構えて詠唱を開始する。


「フォルトナ!相手に効く限りの妨害デバフを頼む」


「わ、わかった」


「ドウインド、俺と肉弾戦だ、やるぞ」


「承ってござる」


「アペシュ、全力を出していいぞ」


「クルクルウェ!」


 わかった、という亀語の返事だ。

 ついで亀魔獣ザラタンが三体ほど呼び出される。


 え、複数体呼べるんですか?とナギが驚いている。

 島ほどもあるアペシュの警備をさせるのだ、魔力の続く限り何体でも呼び出せると思うのだが。


「スツィイルソン。隊の規則にのっとり、決然と戦うべし」


「了解しました」


「ラグレラちゃんは自由に戦うこと」


「わかったよー。ふうん、暗黒騎士ってこういう風に指揮するんだねえ」


「俺は、元、だがな」


 全員への指示が終わると、エンが声をかけてきた。


「そろそろ、いい?」


「ああ、いいぞ」


「おっけー、じゃあ……戦闘開始!」


 気の抜けた合図とともに、戦いが始まった。



 とはいえ、アヴァグドウは強敵だった。


 なにせ。


「“毒吐息ベノムブレス”」


 開幕、魔法攻撃をしてくるのだから。


「な、魔法!?」


「あの見た目で!?」


 近接戦専門に見えたアヴァグドウがいきなり出してきた広範囲魔法攻撃に全員虚をつかれたのだ。


「落ち着け!ホイール、“解毒ディスポイズン”は使えるか!」


「はい!」


「ドウインドとラグレラに掛けろ!」


「はいッ!」


 “毒吐息ベノムブレス”はブレス自体にダメージがあり、その周囲に毒の追加効果をもたらす魔法攻撃だ。

 ダメージは防御してれば軽減できる。

 しかし、毒の状態異常は厄介だ。

 一般的な毒は致死性のものを指すが、追加効果の毒はスリップダメージをもたらすものが多い。


 このアヴァグドウの毒もそのタイプだ。

 ブレスダメージに加えて毒スリップダメージも与えてくるこの攻撃を開幕で食らったら、その後の戦闘で大きく不利になるのは間違いない。


 俺とスツィイルソンは毒耐性を(部下いわく“地獄の訓練”によって)持っているし、後衛にまでブレスは届かない。

 アペシュは種族特性で毒は効かない。

 というわけで、前衛にいるドウインドとラグレラに解毒をかければ戦闘の不利は抑えられる。


 真っ青な顔をしていたドウインドとラグレラは、“解毒ディスポイズン”の白い光を受けて、生気を取り戻す。


「まだ、始まってすらいないぞ、油断するなよ!」


 俺は暗黒鱗鎧アビススケイル暗黒刀ダークブレイドをまとい、さらに朧偃月の名を呼んで真の力を引き出す。


 アヴァグドウはその強靭な腕を大きく振ってくる。

 大振りすぎて回避が簡単、なのだが。

 事前に毒をくらってる場合、この時点でかなりダメージを食らっているはず、避ける体力が残ってるか微妙なところだろう。

 対策がなければ致命の一撃となる。


 とりあえず、俺たちはほとんどダメージを食らわず、アヴァグドウの初撃を切り抜けた。


 そこへ、電撃が一つアヴァグドウに命中する。


「やった、命中!」


 やったのはナギだ。

 アヴァグドウはビリリと痺れたように痙攣する。


 麻痺の追加効果だ。

 一秒も持続しないだろうが、それでも隙は隙だ。

 戦闘に長けた前衛たちはそれを逃さない。


 まず、ドウインドが叩きつけられた腕に杖を思い切り叩きつける。

 ラグレラも指を狙って打撃を加え、俺も肩を切りつける。

 そして、スツィイルソンは腕を踏み台にして顔面を切りつける。


 麻痺の解けたアヴァグドウは傷ついた腕を薙ぎはらう。

 前衛組は大きく避ける。

 この軽快な動きはホイールが前衛に掛けている“飛躍リーピング”によるものだ。

 また、アヴァグドウがわずかに鈍重な動きなのはフォルトナの“鈍化スロウダウン”をかけられているからだ。

 ただ、アヴァグドウは魔法耐性が高いようで効きが悪い。

 それでも効果を発揮しているのだから、フォルトナの魔法の才もかなり高い。


 痛みに怒りを覚えるアヴァグドウの頭に上から何かが降ってきた。


「クルルウ」


 思いきり跳躍したアペシュが空から落ちて踏みつけたのだ。

 アヴァグドウは顔面から地面に叩きつけられた。


 とりあえず、初戦はこちらが有利のようだ。

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