15.リオニア王国騎士団って?
「大丈夫でしたか、ギアさん」
追い付いてきたリヴィが元気よく声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だ。片付いた」
「よかったです。そちらの方は?」
「レインディアと申します。あなたは?」
「わたしはリヴィエールです。ギアさんと同じパーティの冒険者です」
「同じパーティ?に、しては実力が……」
と、レインディアははっきり言った。
「……たしかに、そう、なんですけど」
「実力が違いすぎる者が組んでも、うまい連携はできませんよ」
優しく諭すようにレインディアはリヴィに言う。
「……でも」
「ギア殿。どうです?私の騎士団に入りませんか?」
女神のような微笑みで、レインディアは俺に手を差しのべてきた。
「断る」
笑顔のまま、レインディアは固まる。
まさか、断られるとは思っていなかったようだ。
「……なぜです?」
「騎士団、というものに入る気がしなくてな。それに、俺は好きでリヴィと組んでいる。あんたの好意は嬉しいが」
「好きで、わたしと組んでいる!?」
なぜか、リヴィが興奮している。
そして、目の前のレインディアは固まったまま、プルプルと震えている。
「……わかりました。後悔なさっても知りませんわよ」
レインディアは手を下ろして、俺に背を向けた。
「後悔は、たくさんしてるさ」
「……ッ。……行きますわよ、リギルード」
重装男に声をかけ、レインディアはさっと歩きだした。
重装男は頭を下げて、レインディアを追っていった。
「なんなんだ、あいつら?」
遅れてきたバルカーが去っていく二人を見て、感想を述べた。
「さあな」
と、俺は返す。
そして、バルカーは興奮したままのリヴィを見つける。
「なんなんだ、こいつ?」
「さあな」
結局、リヴィが落ち着くまで待つことになった。
それにしても、なぜこんな人里に近い場所に小鬼王なんて出てきたんだ?
俺はあたりを見回しながら、考える。
小鬼の生息域は森の奥や山の中、下位種の小鬼は里の方までやって来るが、小鬼王などの上位種は拠点である洞窟や廃墟からなかなか出てこないはず。
この辺りの森は一通り調べてある。
そんな拠点になりそうなものはないはずだ。
それに不審な点はまだある。
王にまで進化した小鬼には、氏族と呼ばれる付き従う者たちがいる。
数十体、ときには数百体に及ぶ氏族の小鬼は王によって強化され、大侵攻を起こすこともある。
小鬼王が危険視されるのはそのためだ。
たった三体、もしあの森にいた小鬼を含めるとしても八体しかいない氏族など聞いたこともない。
その程度の氏族しか組織できないものが王になどなれないのだ。
現れるはずのない場所に現れたモンスター、そして本来より少ない構成。
さらにこのあたりをうろうろしている王国騎士団の連中。
「嫌な予感がするな」
「ギアさんも後始末手伝ってください」
リヴィの声にわれにかえる。
「おう、すまん。今やる」
なにせ、街道上には両断された二体の小鬼、穴だらけになった小鬼、そして縦に真っ二つの小鬼王の死体が転がっているのだ。
見過ごすわけにはいかなかった。
街道の保全と、そして小鬼討伐の報酬を。
「さすが師匠、小鬼三体と小鬼王一体で銀貨何枚ですかね」
「でもいいのかなあ、あれ倒したのギアさんとあの人たちですよね?」
「自分の実力に見合わない報酬を手にいれるのは後々悪い方へ響くだろうが、甘えなければ大丈夫だ」
「そういうものですか?」
「そういうものだ」
小鬼の後始末を終え、ようやく帰路につくことができた。
明け方出発してきたのに、すでに夕暮れが近い。
伸びてきた影を横目に俺たちはリオニアスを目指して歩く。
「そういえば、一つ聞いていいか、リヴィ?」
「何ですか、ギアさん」
「王国騎士団とはどういう組織だ?」
王国騎士団と名乗る騎士たち。
三人と出会い、それぞれ別の関わり方を俺はしている。
最初はガインツといういかつい男。
そいつとは、パリオダ鉱山跡地で戦い倒した。
次はレインディア、そしてリギルードと呼ばれた無口な騎士。
「王国騎士団は、誉れ高きリオニア王国の最精鋭。一騎当千の騎士になることを夢見て多くの貴族の子弟が日夜しのぎを削っている!という話は聞いたことがありますよ」
急に声を張り上げたリヴィに俺は(バルカーも)驚いた。
どうやら、そういう風に宣伝しているようだ。
「具体的には?」
「さあ。わたしもあんまり詳しいわけじゃないんですけど。数は百人くらいで、ものすごく強い人が四人いるらしいです」
「俺も聞いたことがあるぜ師匠。確か、破壊騎士、破刃騎士、破炎騎士、破光騎士の四人だ」
なんか聞いたことがある名前が一つあった気がするが。
「さすがバルカー君そういうのは詳しいね」
「だろ?」
誉められて胸をはるバルカー。
なんだかイラッとするのは気のせいか。
「百人くらいで強いのが四人、か。しかし、魔王軍との戦いには出てこなかったと思うが」
そう、俺が知らなかったということはそういうことだ。
対魔王軍の人間の戦力はほぼ把握していた。
その情報の中に、リオニア王国騎士団は存在していなかった。
「それはそうですよ。だって騎士団は王国最精鋭、王都にいて王様を守るのが仕事ですもん」
「……ああ、なるほど」
暗黒騎士団と同じか。
と、俺は納得した。
最精鋭であるがゆえに、最も重要なものを守る存在というわけだ。
そこでもう一つ疑問がわく。
なぜ、その騎士団の団長とやらがこんなところまで来たのだ?
「ギアさん、どうしたんですか?」
リヴィが聞いてくる。
「いやな。さっきの二人組がその王国騎士団の連中だって言っててな」
「はえー。あの方たちがかの有名な……?……あれ、ギアさん。騎士団にスカウトされてませんでした?」
「されたな」
「でも、断ってましたよね?」
「断ったな」
「なんでですか!?」
「入る気はないし、リヴィとパーティ組んでいるからと言っただろう」
「いやいやいや、それでもですよ。王国騎士団は一騎当千、つまりギアさんも認められたということですよ!それに騎士一人一人に召し使い付きのお屋敷が与えられたり、食事を高名なシェフが作ってくれて毎日美味しいごはんが食べられたりして凄いんですよ!」
騎士団の具体的なところはよく知らないのに、こういうのは詳しいのはどうなんだ?
「何を言ってるんだリヴィ。俺の住む家はリオニアスにあるし、召し使いなんぞいらん。旨いものが食べたければニコに頼めばいいだろう?」
「確かに」
「たしかに」
バルカーとリヴィが納得してしまう。
おそるべきニコの料理力。
「で、でもですよ。ギアさんの力が認められるってことじゃないですか。それにわたしギアさんの騎士姿見たいし」
「俺の力なんぞ凡百のものだ。それに騎士なんて見栄えだけだしな」
「むう。ぶれないギアさんも素敵ですけど」
「まあ終わったことだ。日が落ちる前にリオニアスに戻るぞ」
そう。
俺とあいつらの関係は、襲われているところを助けただけ。
その過程に意味があるかどうかは後から判ることだ。
とりあえず今は、帰ろう。




