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12.帰る場所

 帰りつくと、夜明けだった。


 勇者と戦った時以来のフル装備戦闘で、俺は疲れを感じていた。

 暗黒鎧、暗黒剣の魔法は消費魔力は少ないが、普段の力を超える能力をコントロールするのはやはり疲れるのだ。

 本来なら魔将クラスでもなければ、フル装備はしなくても勝てるのだがその前の一対多戦でのダメージが大きかった。

 そのため、全力でやらざるを得なかったのだ。

 よく考えたら、ネガパレスの戦い、パリオダ鉱山跡での盗賊退治とよくよく寝る間もなかった、と気付く。

 ボロボロといっても過言ではない。


 リオニアスの商店街前に展開された障壁は解除されている。

 終わったのだ。

 長い戦いの夜は。


 大通りに誰かが立っている。

 金に近い茶色の髪は日の出の陽光を受けて、きらきらと輝いているように見える。

 あわてて来たらしく髪は結んでいない。

 なかなか新鮮だ。

 緑の大きな瞳が、俺を見つけて開かれる。


「ギアさん!」


 リヴィは俺へ駆けてくる。

 そして、飛びつくように抱きついてきた。


「リヴィ……無事か?」


「それはこっちのセリフです!怪我はないですか?」


「ああ、ギルド長が頑張ってくれたからな」


 ユグのおかげで傷はない。


「魔獣の群れに突っ込んだって聞いて、もう会えないかと思って、心配で……」


「約束しただろう」


「え?」


「またあした、ってな」


「ギアさん……」


 リヴィは俺にひしっとくっついてくる。

 俺の胸元にリヴィの頭が来ている。


「服が汚れるぞ?」


「大丈夫です」


「あーと、臭いが」


「大丈夫です」


「あのな、リヴィ」


「はい」


「帰って何か食べよう」


「はい!」


 魔王軍最後の抵抗と言われ、後にリオニアスタンピードと呼称されたこの事件。

 それはある知らせとともに、リオニアスの住民の胸に刻まれることになる。


「魔王討伐完了」


 勇者よりもたらされた知らせは、世界中に知れ渡ったが魔王領に接しているリオニアにはじめに伝えられた。

 そのタイミングが、リオニアスタンピードの直後ということもあってある噂がリオニアスで流れることになる。


「勇者が止めた」


 これである。

 突発的な魔獣の襲撃を、魔王を倒した勇者が返す刀で制圧した、という話だ。


「勇者より、ギアさんの方が凄いのに!」


 とリヴィがぷんすかしていたのでバルカーとニコはそれを止めるのに苦心していた。


「この大武功を誇るにはギア殿はまだリオニアに馴染みが薄すぎるのよ」


 皆が俺のことを認めるまで、勇者の仕業にしようと言ったのはユグだった。

 まあ、俺も評判がほしくてやったことではないから別に良かったのだ。

 というわけでリヴィだけが怒っている状態だ。


 勇者一行は大歓迎で迎え入れられた。

 旧知のユグが一行を出迎え、(憂さ晴らしに)パレードを催し(さらしものにして)た。

 勇者は一泊し、翌朝にはリオニアの新しい都ニューリオニアへ出発した。

 国王に挨拶しにいくのだ。

 それを世界各国で繰り返す。


「魔王を相手にするより大変じゃろうなあ」


 とユグは笑った。


「あんたは付いていかないのか?」


 勇者一行の一人だろう?

 とは口にしない。


「もう、長旅はこりごりじゃわい」


 とも、ユグは言った。



 しばらくたったある日。


「ギアさん、準備できましたか?」


 いつものように、髪を蝶の髪飾りで結んだリヴィが俺に声をかける。

 手には金属製のロッドを装備している。

 彼女の瞳の色のような緑の宝石が嵌め込まれている。

 軽戦士として、ミスティに鍛えられたリヴィだが、ユグによって魔法使いの才能があることが発見され、魔法使いに転向した。

 ロッドは新しく魔法使いとして一歩を踏み出すリヴィの新しい相棒だ。


「ああ、大丈夫だ」


 革鎧に、ブーツ、外套、愛用の剣を確認し、立ち上がる。


「じゃあ、ギルドに行って依頼を見てみましょう」


「そうだな」


 俺とリヴィはパーティーを組むことにした。

 冒険者初心者の俺と、見習いのリヴィ。

 なかなかアンバランスな俺たちだが、妙に息があう。

 まずは簡単な仕事からがんばることにしたのだ。


 ギルドに二人で入ると、またざわめきがおこる。


「俺の、俺たちのリヴィエールちゃんが奴とパーティー!?」

「僕はまだ諦めちゃいない」

「ああ、そうだまだ負けていない」

「ハァハァ、リヴィエールちゃん」


 掲示板に行って依頼を確認する。


「良いのありますか?」


「これなんてどうだ?」


 と、俺は掲示板に張られた依頼の中から一枚の用紙を取った。


「ええと……」


 西の村の付近に現れた魔王軍の残党と思われる骸骨の集団を倒してくれ。

 報酬、場所以下云々。


 リヴィの顔がひきつる。


「スケルトンのやからは脆いから倒しやすいと思う。難易度のわりに報酬もよい」


です」


「ほう?」


「わたし、怖いの嫌いです」


 リヴィは泣きそうな顔で訴える。


「そうか……苦手は克服しなければならないな」


「どうして、そうなるんですか!?」


 しかし、俺はもう決めてしまったのだ。

 怖いのが嫌いというのは、克服すべきだ。

 アンデッド類は弱いのに報酬がいい場合が多いので、狙って依頼をこなすと効率がいい。

 見た目はグロいのが多いのが欠点といえば欠点だが、簡単な依頼からこなしていけば、いずれ慣れるだろう。


「よし、では行くぞ」


「嫌ですッ!ほんとに、嫌なんですよおおおお!!!」


 だが、リヴィの懇願は聞き入れられることなく、二人は西の村へと出発していった。


「かわいそうなリヴィエールちゃん」

「俺たちに力があれば助けてあげられるのに」

「あいつ以上の力が欲しい」

「ハァハァ、リヴィエールちゃん」


 西の村へ行く途中の街道で、ついにリヴィは諦めたようだった。


「なあ、リヴィ」


「なんですかあ」


 うん、まだすねているようだ。

 口調がいつもよりぞんざいな気がする。


「しばらくの間、俺はリオニアスへ腰を落ち着けることにした」


「本当ですか!」


 一瞬で機嫌がなおる。


「ああ、本当だ」


「でも、なんでなんです?あ、もしやわたしがいるから、とか?」


「それもある」


「マジか」


 なぜかリヴィが物凄く喜んでいるので放置。


 本当は出迎えてくれる人がいるというのが、たまらなく嬉しかったからだ、とは言えない。

 ジレオンを倒した俺は、罪悪感にも似た感情を抱いていた。

 共に魔王軍にいた仲間を殺したという事実が俺を苛んでいたのだ。

 けれど、朝焼けの中出迎えてくれたリヴィがいた。

 彼女がいたから、俺はここにこうしている。


 もちろん、ジレオンを殺したことは悔いている。

 どうにかできたのではないか、と今も思う。

 その思いは忘れることはないだろう。


 だがそれ以上に、リヴィの笑顔があるなら俺は生きていける。

 その想いは多分、彼女に伝えることはないだろう。

 これ以上リヴィを喜ばせると、たぶん道端の水路に落ちるからな。

 どうして、リヴィといい、ユグといい、この国の人は喜びすぎると道端で踊り出すのか。


「それでな、依頼をこなして金を貯めたら家を借りようと思う」


「は、まさか!一緒に住もう、とか!?」


「リヴィは住む家あるだろう?」


「……ソウデスネ」


「でな、良い物件があるなら見繕ってほしいんだよ」


 ピキーンとリヴィの髪が反応した。


「いい物件がありますよ(ニヤリ)」


「おお、本当か?」


「はい!隣にやかましい兄と料理上手な妹が住んでいる、ちょっと一人で住むには広すぎる一軒家なんですけど……」

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