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115/417

115.王国の危機、そして彼らがやってくる

 最初の一当たりで、ユベスタス将軍は討ち死にした。

 事前にリギルードの報告で“鎧を着飾ったオーガの群れ”と聞いていたにもかかわらず、だ。


 リオニア軍の作戦はこうだった。

 戦巧者のユベスタスが敵と当たり、引き付けつつ後退。

 ある程度誘引したら、両翼のナルダリオン隊と王国騎士団が挟撃、これを殲滅するという策だ。

 王都付近に待機していたのが、ナルダリオン、ユベスタスしかおらず、使える手駒として王国騎士団とレビリアーノ隊まで動員した今現在のリオニア最大戦力での決戦は、初手で潰えた。


 ユベスタス将軍の死に動揺したのか、ナルダリオン隊は後退を始めた。

 すると、ニブラス騎士の目標は王国騎士団に集中した。


「友軍の援護が来るまで、総員全力を尽くして敵と戦え」


 援護するべき友軍が撤退してしまったことを、みな知っている。

 だが、一縷の希望を胸にリギルードはそう指示を出す。


「教導騎士は私とともに来い、少しでも敵を減らすぞ」


 硬質な鍔なりの音を連続させて、レインディアは敵を切る。

 その合間に、指示を出している。

 教導騎士とは、共にアルシア山に向かい、ドラゴンに修行をつけてもらった騎士のことだ。

 向かった全員がレベルアップし、能力が強化されたため他の騎士への指南役になっていたのだ。

 つまり、王国騎士団の全力である。


 レインディアに率いられた騎士たちは屈強なニブラスの騎士を相手に善戦した。

 残されたリギルード率いる騎士たちも死力を尽くした。


 だが、それでもニブラス騎士は止まらない。


 どこかで、レインディアが叫ぶ声をリギルードは聞いた。


「王国騎士団、あれを使うぞ」


 あれ。

 そう、あれだ。

 騎士団になると同時に、その身に刻まれる印。

 それは持ち主の魔力を蓄積し、ある呪文で解き放つ。


 その呪文は、騎士団全員把握していた。


 レインディアも、リギルードも、全ての騎士が同じ言葉を唱えた。


「“聖印ホーリーシンボル”」


 戦場が黄金の光でまばゆく輝く。

 騎士団全員が黄金の鎧に包まれたのだ。

 身体能力を二から三倍する、騎士団の切り札。


 光に包まれた騎士団は、ニブラス騎士に突撃した。


 レインディアの抜刀術は目にも止まらぬ斬撃が、目にも止まらぬ速さで駆け抜けていく。

 それは触れただけで死をもたらす致死の風だ。


 リギルードもまた数百本同時に槍を錬成し、一斉に投射する。

 面の攻撃であるそれは、固まっていたニブラス騎士を次々に串刺しにしていく。


 破魔騎士と破刃騎士。

 リオニア最強の騎士の称号はだてではない。


 そうだ!

 この状態の俺たちを簡単に倒してしまう暗黒騎士あいつがおかしいのだ!


 というリギルードの叫びは戦場の大音声にかきけされた。



 一時、王国騎士団はニブラス騎士の進撃を食い止め、追い返しさえした。


 だが、それはまさに一時。


 “聖印ホーリーシンボル”の効果時間の終了とともに、攻守は交代し、再度王国騎士団は押され出した。


 それを苦い顔で見ていたグルマフカラ王のもとに、レビリアーノ将軍がやってきた。


「我が隊が騎士団の後詰めに出ます」


「……それはよいが、大丈夫か?」


 レビリアーノのニューリオニアを囲む城壁魔法がウラジュニシカによって破られ、魔力が逆流し、全身に傷を負ったのは昨日のことだ。

 その傷が癒えたのか、グルマフカラには判断がつかない。


「ご心配めさるな。あの暗黒騎士殿の連れの女性、なかなか良い治癒の腕でありました」


「くくく。あやつめは女子供しか連れておらぬではないか?」


「はは、確かに」


 レビリアーノを治療したのはメリジェーヌである。

 逆流によって乱れた魔力を治し、そのうえで肉体を回復させた。

 彼女には片手間でできることだが、白魔導師のレビリアーノには驚嘆の出来事であった。

 が、それはここでは言わない。

 ともあれ、普通の魔法を使ったり、普通に戦ったりする分には問題ない。


「頼むぞ」


「御意。まずはユベスタス卿とナルダリオン卿の兵員を回収しましょう」


 レビリアーノ隊はグルマフカラ王隊を追い越して、前線へ布陣した。

 そして、将軍であり白魔導師であるレビリアーノが魔法を唱える。

 いや、その魔法と契約しているレビリアーノにとって、呪文は気分を上げる技法。

 呪文なしでも放てるが、あった方が魔法使いらしくて良い、とレビリアーノは常々思っていた。


「そは無限の回廊。石なる迷いの意思なる道を、我が手によりてここにいざ示さん“石壁八陣”!」


 戦場に突如、複雑な迷路を構成する石の壁がズズズズと生えてきた。

 それはニブラス騎士だけを閉じ込め、王国騎士団や他の隊を後方へ追いやった。


 “聖印ホーリーシンボル”は確かに強力だが、効果時間の終了とともに全魔力が消費される。

 魔力とは精神の力とされるため、肉体的にはともかく、精神的にどっと疲労が襲ってくる。

 まるで睡眠不足の時に、睡魔が間断なく襲ってくるような感じだ。

 それでもレインディアは声を張り上げ、撤退を促した。

 お飾りの団長と言われたのはもう過去の話。

 その姿は一軍を率いる者としてふさわしいものだった。


 これが負け戦でなければ、とリギルードは悔しく思った。


 前線へ配置された三軍は撤退を完了した。

 だが、そこでニブラス騎士たちを留めていた“石壁八陣”は効果を終了し、死兵の騎士たちは解き放たれた。

 レビリアーノは城壁を展開し、自隊の兵たちに有利な状況で戦わせるが一人一人の実力差はいかんともしがたく、ついにニブラス騎士は城壁のあった場所を突破した。

 そう、つまりはニューリオニアに侵入されたのだ。


 国王軍は仮の砦とした神聖区のマルトル教会まで退却し、王国騎士団らはせめて盾とならんとその前面に布陣した。


 いかに城壁魔法の達人といえど限界はある。

 レビリアーノの集中が途切れた瞬間、ニブラス騎士は隊の中程まで突撃を敢行した。

 これによって、レビリアーノ隊は左右に分断され、連携は阻害された。

 どちらに城壁を展開しても、もう片方が危機に陥る。

 その選択をレビリアーノは迫られた。


 どちらを守ったとしても、もう片方が倒れれば戦力は半減する。

 それが繰り返されるとしたら、最後の部隊であるレビリアーノ隊が全滅するとなれば。


 ニューリオニアは終わりだ。


 どちらにする!?

 全滅までの道が決まった中で、レビリアーノは選択せざるを得ない。

 右か、左か。


 長い長い一瞬を、レビリアーノは迷う。


 その時、声が聞こえた。


「おぬしは右じゃ、わしは左をやろう」


 天啓のごとき声に従い、レビリアーノは右に城壁魔法を展開する。

 そして、左には半透明の障壁魔法が展開されていた。


 そんなことができるのはただ一人。


「ユグドーラス!」


「すまぬ、遅くなった」


 白髪、白髭、白装束の白魔導師。

 “白月”と称される英雄級冒険者。

 レビリアーノの学友でもある。


「助かった。助かったがしかし、そなただけでは」


 防御力がいくら増えても、敵を倒す力が無ければじり貧だ。


「誰がわしだけと言った?」


「え?」


「我が歌は炎のごとく、風のごとく、つむじ巻きて、炎巻きて、共に巻かれて業火とならん“火炎旋風バーストトルネード”」


 赤い衣装の吟遊詩人の歌にあわせて、魔力が紡がれ、炎の旋風となってニブラスの騎士を焼く。


「魔法生物は遺品ドロップアイテムを落とさんから嫌いだ。“剛断”!」


 巨大な斧を振り回す、どこにでもいるような戦士。


「いかな装甲といえど継ぎ目はある。そこを重点的に叩く。“四崩拳”!」


 武道家がニブラス騎士に打撃を浴びせ、打ち倒していく。


「虫とは一度戦ったちゅうねん、ほないくで“ビーナスの水晶体”」


 よくわからない言葉を使う若い女性が、虹色の球体をぶん投げる。

 それは当たった先で爆発し、泡を発生させる。

 泡を浴びたニブラス騎士は徐々に動きが鈍くなり、やがて止まった。


「ははははは、喰らえ!我が黄金の鉄槌!“審判ジャッジメント”」


 ひときわまぶしい黄金の鎧の審問官が過剰攻撃オーバーキルな一撃を放つ。

 その一撃で、多数の騎士が消滅する。


「私が連れてきたけど、やっぱり過剰だなあ」


 と忍者は独り言をいいながら、ニブラス騎士の首筋に短刀くないを突き刺し、動きを止める。

 次から次へ、確実に素早く相手を仕留めていく。


「僕の打ち漏らしが原因だものね、僕も一つ手を貸そう。勇者奥義“七天斬セブンスヘブン”!」


 の剣から放たれた光の一閃は、七度放たれた。

 一つ一つが多くの敵を巻き込んで倒していく。

 単純な討伐数では、が最も多くの敵を倒していた。


 レビリアーノは言った。


「いくらなんでも勇者一行勢揃いは、やり過ぎではないか?」


 ユグドーラスは苦笑いして、頷いた。

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