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104.継承者の邂逅、だがまだ刻ではない

 朝が来て、出発の準備を整え、朝食を食べる。

 朝食のメニューは、白パンに目玉焼き、サラダ、温かいスープだ。

 パンは柔らかいし、野菜は新鮮だし、スープはうまい。

 そして、卵の味が濃くて、これもうまい。

 簡単なメニューなのに、どれもこれもうまいのだ。


「料理長は、どうやら私らで何かのテストをしているようですね」


 と宿の主人が言った。


「テスト?」


「ええ。リオニアスの本店はランチのみの営業でしょう?そこで私らのような客の入りが読める宿泊施設で、ディナーとモーニングの提供方法を模索しているような感じですね」


「ニコちゃん……どこまで、何を考えているんだろう」


 リヴィの言葉に、バルカーは頭をかかえた。


「兄ちゃんはお前がわからん、ニコ」


 ともあれ、食事の美味しい宿はいい宿だ。

 料金的にも大変得した気分で俺たちはタロニアを出発した。



 俺は再び、御者席についた。

 馬もよく手入れをされていたようで、元気いっぱいである。

 みんな乗り込んだのを見て、馬を走らせる。


 さあ、いざニューリオニアへ。



 吟遊詩人トロナルドと呼ばれる男。

 あるときは、魔法使いフランフルートであり、またあるときは別の名で呼ばれている。

 彼は出発した馬車を見ながら、ホッと胸を撫で下ろした。


 彼もまた魔王城ネガパレスで魔王軍と戦った者だ。

 そして、その中でも魔王についで強かった暗黒騎士の隊長と再び出会うなど想定外だった。

 リオニアスの冒険者パーティということから、すぐに知人の白魔導師ユグドーラスに確認すると。


「そうじゃよ」


 と軽い返事が返ってきた。


「そっちじゃ、暗黒騎士を冒険者扱いしとるのか?」


「成り行きじゃよ」


 他にも戦士デルタリオスにも確認したが、そちらも「なかなか面白い男だったろう?」という答えしかこなかった。


 少しはこちらの身になってほしい。

 例の暗黒騎士の目の前で、勇者が魔王を倒したという曲を演奏してしまったのだ。

 知らなかったではすまされまい、と訪れた部屋ではなんとかしのぐことができたが、ずっと冷や汗をかいていたことは気取られなかっただろうか。


「確か、ニューリオニアに行くと言っていたか」


 それなら、今後半月ほどはニューリオニアには行かない方がいいな、とトロナルドは判断した。


「そういえば、ニューリオニアには確かあいつが……」


 と呟いて、吟遊詩人はタロニアから姿を消した。



 俺たちの旅の終着点。

 ニューリオニアが見えてきたのは、その日の午後だ。

 幸い、魔物の襲撃もなく日程通りに到着できそうだった。


「あれが、ニューリオニア……」


 感慨深そうなリヴィの呟き。

 彼女たちの故郷リオニアスを捨てて作られた都に、彼女は何を思うのだろうか。


 ここ、ニューリオニアのある場所はもともとフェリジオという小さな城があった。

 魔王軍との戦いで、領主であったフェリジール子爵が亡くなると国王はその故地を接収した。

 同じような経緯で無主の地となったいくつかの城や村をまとめて城壁で囲い、そこを新たな都としたのだ。

 計画自体はおそらく魔王軍侵攻以前からあったと思われる。

 とユグは言っていた。

 でなければ、あまりにも遷都の動きが早すぎる、とも。


 そのために、あえてこの地の領主たちを前線に送り込んだのでは?

 という疑惑すら浮かぶほどの手際の良さ。

 腐敗しきっていた去年の政治体制ならありえる話ではある。


「王宮に改増築されたフェリジオ城が王宮区、ラスヴェート神を奉る古マルトル教会跡が神聖区、その間に城下町が形成されて、古い宿屋街だった商業区と繋がっている。おおざっぱに言うとそんな感じ」


 実際にニューリオニアに住んでいたこともあるポーザが説明してくれた。

 リオニアスと違って、必要な施設をすべて城壁で囲っているため、防御的には堅固なのだという。


「よく、あんな城壁がすぐに造れたよな」


 木の柵ならともかく、石造りの城壁がニューリオニアをぐるりと囲んでいる。


「あれは魔法だよ、確か」


 ポーザが目をこらして、ニューリオニアの城壁を見て言った。


「都市一つをまるっと囲む魔法か」


「ギルド長と双璧をなすと言われた白魔導師レビリアーノ師の城壁魔法だね」


 ユグと並び称される魔法使いか。

 さぞかし、強力なのだろうな。


「障壁のユグドーラス、城壁のレビリアーノと言えばリオニアの双璧として有名……だよね?」


 ポーザが無反応な面々に恐る恐る確認する。

 リヴィとバルカーは知らない。

 ナギも遠国出身だから知らない。

 メリジェーヌはそもそも知らない。


「ポーザ。聞いた相手が悪い」


「うん。ボクもそう思った……」


「というか、レビリアーノ師は確か試験に出てきましたわよね」


「え?」


「そうじゃったかの」


「状況判断の問いの6、パリオダ領におけるリオニア、ニブラス間の武力衝突の際に、リオニア側指揮官レビリアーノ将軍の判断を推測せよ」


「……あ、それなら覚えてる。えっと、答えはパリオダ領の重要性を交渉しつつ、別動隊をニブラス軍の背後に回り込ませた。だったよね?」


「わらわは覚えておらぬな」


「交渉と奇策を組み合わせた奇襲の成功例の一つですわ。けど、そのレビリアーノ将軍が、城壁のレビリアーノなのですの?」


 ナギの問いに答えられる者は、この中にはいない。


 しかし、城壁の、でなくてもレビリアーノ将軍とやらが知将なのは確かだろう。

 パリオダ領は近年没落したが、それ以前はリオニア、ニブラス両国の重要な土地であった。

 それを戦火にさらすのはどちらの国も避けたかったのだろう。

 そして、その停滞を利用しての奇襲。

 もし、そのレビリアーノ将軍が前線にいたのなら、獣魔軍団もうかつな攻めはできなかっただろう。


「まあ、ニューリオニアに行けばわかるだろう」


 それほどの人物なら、一度会ってみたいものだ。

 白魔導師にして、将軍。

 ユグと並び称される人物か。


 ニューリオニアの城壁には街道と接するように関所が設けられており、そこで王都に入る者のチェックが行われている。

 俺たちのたどってきたリオニア街道も関所で遮られ、俺たちも入場まで待たされることになった。


「ねえ、リーダー。王様のお召しだって言えばすぐに通れるんじゃないの?」


 というポーザに俺は答える。


「いや、チェック体制がどれほどのものか見てみたい。それに権力を使うとその時は早くすむが、後々足を引っ張ることになるかもしれん」


「確かにそうだけど……たぶん、日が暮れると思うよ。このペースだと」


 ポーザの言うとおり、関所の前には長い長い行列ができており、王都に入ることの難しさをあらわしていた。

 進む早さはまるでかたつむりのようだ。

 いや、確実に進むかたつむりの方が早いかもしれない。


 長時間待つことに気落ちし始めたころ。



 ずる。



 ずる。



 と、何か重いものを引きずる音がした。


 俺は音の方向へ目を向ける。


 そこには、鉄板のような剣を背負いながら、しかしその剣の長さゆえに引きずりながら歩く鎧武者がいた。


 その彼は、並んでいる行列など目もくれずに歩いていく。

 その歩みは遅く、しかしかたつむりの歩みである俺たちを追い抜いていく。


 ずる、ずる、ずる……。


 足音が止まる。

 俺の隣で。


「すまぬ。この先は確か寂れた宿場ではなかったか?」


「いや、この先はリオニアの都だ」


「……解せぬ。記憶ではリオニアスはもっと東にあると思ったが」


「ああ、あんたここは久しぶりか?三年ほど前に遷都したんだ。リオニアスからニューリオニアへな」


「三年ほど前……ああ、了解した。ということは、このまま進んでも宿には泊まれぬか」


「だろうな。列に並んで時を待つしかない」


「そうか……いや、助かった。御者殿、感謝申し上げる」


「都に入りたければ列に並ぶしかないぞ」


「いや、近くの野営地を探す。リオニア軍の陣の一つや二つ残っているだろう」


 陣跡なら野営の痕跡もあるから、冒険者はよくそこに泊まる。

 この鎧武者もその手合だろうか。


「そうか。お互い良い旅になるよう祈ろう」


「そうだな。いろいろと参考になった。さらばだ」


 再び、ずるずると剣を引きずって鎧武者は来た道を戻っていった。



 そして、夕陽が沈む直前、俺たちはニューリオニアに入ることができたのだった。

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