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101.夕陽を眺める二人(たち)

 馬車を一台、ギルドで借りて俺たち“ドアーズ”はニューリオニアへ出発した。

 御者は俺、幌つきの荷台には他の五人と荷物が乗っている。

 城壁を出て、商店街を抜けると農場がいくつか続き、雪に覆われた平野に森。

 そこだけ、緑が生い茂っている。

 あとは白。

 リオニアの大地を雪が覆っている。

 その雪の上をわだちを残して馬車が進んでいく。


 足を取られるほどの雪ではないため、思ったよりは早く進めている。

 途中、どこかの宿場で一泊して明日にはニューリオニアへたどり着けるだろう。


 そういえば、ニューリオニアの名はよく聞くが実際に行くのは初めてだった。

 魔王軍の侵攻から逃れるために造られた新しき都。

 それは、リオニアスの民から見たら裏切りの象徴であり、憎悪の対象でもあった。

 今は、二つの都市の交流も盛んになり、当時のような空気は無くなったがまだリオニアスにはわだかまりがあるように思う。

 とはいえ、俺たち“ドアーズ”はリオニアスを拠点とする冒険者パーティだが、リオニアス出身は少ない。

 俺は魔界だし、ナギはギリア、ポーザはベルトライズの辺境、メリジェーヌはどこだ……強いて言うなら魔界か?

 出身者はリヴィとバルカーだが、リヴィは俺の行くところにどこでもついていくと言っているし、バルカーはあまりそういうのは気にしないようだ。


「二つの勢力の融和をはかるなら、最適のパーティではあるわけか」


「ギアさん、何か言いました?」


 風にまぎれた独り言が、後ろにいたリヴィに聞こえたようだ。

 幌から顔を出したリヴィが俺の方を向く。


「いや、独り言だ。それより、寒くないか?」


「こっちは大丈夫です。それより、ギアさんにだけ運転まかせて、ごめんなさいです」


 意外なことに、“ドアーズ”のメンバーで馬に乗ることができるのは俺一人だった。

 俺はまあ、一応は騎士だったから乗馬のスキルはあるが、御者は初めてだ。

 馬が慣れているのだろう。

 今までの行程はそれほど苦労はない。


「気にするな。行程はまだ長い。休める時に休んでおけ」


「はい、わかりました。ギアさんも疲れてたら言ってください」


「ああ、その時は声をかけるよ」


「絶対ですよ?」


 馬車の心地よい揺れ具合に、後ろの荷台から寝息が聞こえてきたのはお昼を食べた後だ。

 街道の脇に馬車を止め、ニコの作ってくれたお弁当を食べ、少し休憩し、出発した。

 荷台には、ポーザが呼び出した低温サラマンダーなる魔物がいて、ぽかぽかとちょうどいい温度が保たれている。

 その余熱が御者席にも流れてくるから、外にいてもそれほど寒くはない。

 そもそも、俺は素で寒冷耐性が高いために耐冷装備などが無くてもマイナス一桁くらいの温度なら耐えられるのだ。

 魔王軍での寒冷地行軍訓練で鍛えられた肉体はそれほどやわではない。


 ここ最近、みんな忙しかったからゆっくり寝かせてやろう。

 リヴィたち三人は試験勉強を頑張ったし、バルカーとポーザは俺たちの代わりに依頼をこなしていた。

 宿に滞在しているメンバーの生活費をまかなうくらいの貯金はあるが、稼げるときは稼いでおくのが冒険者だ。

 余裕はあれど裕福ではない。

 二人はかなりの数の依頼をこなしたらしく、毎日へとへとになって帰ってきていた。

 と、なれば一番余裕がある俺が御者くらいしなくてはなるまい。


 そんな風に思いながら、俺は馬車を走らせていった。



 リオニアスとニューリオニアの間にある宿場町の一つ、タロニアで俺は馬車を止めた。

 日はまだ高いが、雲が出始めている。

 天気が悪くなれば道に迷ったり大変だろう、と早めに宿を決めることにした。

 そのころには、みな起きてぼんやりしたり、俺に話しかけたり、本を読んだりしていた。


 宿場町の中の上(と主人自ら宣伝していた)の宿“爪弾つまび雲雀ひばり亭”に泊まることにした。

 冒険者ギルド提携の宿のため、冒険者割引が効く。

 ギルド様々である。


「お部屋は三部屋でよろしいですね。二階の202、203、204の部屋をお使いください。夕飯は一階の酒場に皆さんお集まりになったら声をかけてください。今夜は吟遊詩人が来ますのでどうぞ、歌の方お楽しみください」


 ゆっくりとわかりやすい口調で宿の主人が説明した。

 酒場は少しずつ人が入り始めている。


「荷物を置いたら食事にしよう」


「はーい」


 みんないい返事をする。

 よほど腹が減っているのか。


 二階に上がり、部屋に入ることにする。


「ええと、部屋分けは……男子、女子、女子でいいか?」


 俺とバルカー、女子は二人ずつ分かれればいいのでは。

 という俺の考えに待ったがかかる。


「異議あり!」


 勢いよく手を挙げたのはリヴィだった。


「異議とはなんだ、リヴィ?」


「わたしはギアさんとがいいです!」


 ピキン、と緊張が走る。


「おい、リヴィ……家じゃないんだから」


「いいですよね?皆さん」


「ボクはいいよ。ね、バルカー」


「お、俺にふるなよ」


「私はメリー姉様と一緒の部屋がいいですわ」


「わ、わらわの選択肢は?」


 なんか知らない間に人間関係が関係しつつ関係ありになっていないか?


「ほら、行くよ、バルカー」


「こ、こういう時は男子と女子で別れたほうが……」


「つべこべ言わない。良いよね?」


「は、はい」


 バルカーはポーザに引きずられていった。


「あらあら、あちらもお熱いことですわね。ではお姉様。私たちも参りましょう」


「……」


 無言でついていくメリジェーヌ。

 逆らうとどうなるか思い知らされている顔だ。

 本当にあれは魔王だったのだろうか?


「……なあ、リヴィ」


「なんですか?」


「ウチのパーティ。大丈夫か?」


「大丈夫ですよ?」


 俺とリヴィも部屋に入った。


「見てください、ギアさん。夕陽がきれいですよ」


 確かに山ぎわに沈んでいく夕陽はとてもキレイだ。

 雲が夜の方から暗く、青く、紫に染まり、ゆっくりと黒さを増していく。


「寒くないか?」


「ギアさんといるとあったかいです」


「そうか」


「……バルカー君とポーザさんは火事事件から仲良くなったみたいですよ」


 フレアをめぐる一連の事件は、たくさんのことが一度に起こった。

 そのため、その事件のことを言うときは火事事件と呼ぶことにリオニアスではしていた。

 まさか遺跡で伝説の怪物が目覚め、王都から来た脱獄囚が竜に乗っ取られ、ついでに西の村からアンデッドが大量発生、こっそり竜王兼魔王も復活、事件!!

 とは呼べないだろうしな。


 確かにあの事件のとき、バルカーとポーザは同じ行動をしていた。

 なるほどなあ。


「バルカーはタリッサといい感じだと思ったんだがなあ」


「タリッサさんは、そうですねー、バルカー君にとっては憧れのお姉さん的な?手が届かない人みたいな感じですかね」


「逆にポーザは手の届く妹か?」


「うーん。ポーザちゃんも年は下ですけど、冒険者としては先輩なわけじゃないですか。いろいろ教えてくれる年下の先輩って、よくないですか?」


「まあ、そうだな。確かに男子の憧れるシチュエーションではある」


「で、ポーザちゃんからすれば、年上の後輩なんですけど、いざって時には頼りになる男性なわけですよ」


「ああ、それでドキドキしたわけか」


「胸がキュンキュンしたそうですよ」


「……青春だなあ」


「ついでにナギさんは今までお姉さん的な扱いが多かったから、自分より年上のお姉様にドはまりしたそうです」


「……なんか、バルカーたちの青春模様のあとに聞きたくなかったな」


「……確かに」


「そうか。だから、リヴィはちょっと強引に部屋を決めたわけか」


「それもあります。なんか歯がゆかったんです。馬車の中とか」


「馬車の中?」


「ええ、バルカー君とポーザちゃんが不自然に間をあけて、さも何もありませんよー、みたいな感じで」


 俺はその様子を想像して、くくくと笑った。


「リヴィみたいに素直になればいいのにな」


「ホントですよ。お互い悪く思ってないんだから、さっさと付き合えばいいんです」


「ま、今までの関係が壊れるかもしれない、と思っていたのかもしれんよ?それはとても怖いことだからな」


「それは……確かに……うーん、わたし悪いことしましたかね?」


「いや、今回はうまくいったようだ」


「ようだ?」


 リヴィの顔を横に向ける。

 そこには隣の部屋の窓から、俺たちのように夕陽を眺めるバルカーとポーザの顔があった。

 距離も近い、いやくっついている。

 二人の世界ができているのか。

 こちらには気付いていない。


「な」


「確かに」


 俺たちは部屋に引っ込んで、夕食に行く準備を始めた。

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