桃栗三年 きびだんご
場面転換。
少しだけ前─
走り続けたバーティーは疲弊して息も絶え絶えだった。
「はあ、はあ、疲れたぜ。」
『ムスビを食べるのか?ほれ、やるぞ。』
転がってきたムスビに見向きもせず、バーティーはへたり込む。
「俺はもう限界だよー、ネプチューン。」
へたり込んで眠たそうな少年は、うとうとしながら船を漕ぐ。
それを見てネプチューンはもう何度目か分からないため息をついて、とうとう力を貸してやることを決意した。
『特別なムスビだ。食え。』
宙から転がり落ちたのは黄金色のムスビで、団子のような弾力のあるもの。
それをバーティーは興味津々に見つめた。
「これはなんなんだ。俺には分からねえが、美味そうだなあ。」
『これはグレートムスビ、吉備団子だ。短時間だけ、熊にも劣らぬ勇猛さと、象にも劣らぬ無敵の膂力を誇ることが─』
ネプチューンを無視して、少年はもしゃもしゃと吉備団子を口に詰め込んだ。
『私の話を最後まで聞け。』
「聞けねえ。」
断固としてバーティーは答えた。
確固たる信念をもって。
「力が手に入るってことが分かれば、それでいい。」
『だが─』
少年は、それを遮って叫んだ、魂からの熱意を聞かせた。
「俺の助けを待ってる人がいる。それだけで十分だ。俺は行くぞ、何処へでも。地獄の果てだって。教えてくれ、ネプチューン、どこへ進めばいいのか。俺は、救うぞ!」
彼の叫びは、天まで轟いた。
『─フ、ならいい。後で散々に苦しむんだな。それなら私は構わない。力を貸そう、バーティー。世界を救うためにな。死に呑まれつつあるこの世界を救うには、急がねばならない。』
初めてネプチューンは、少年の名を呼んだ。
そしてバーティーは力を感じた。
誰にも負けない無敵の、無双の力を。
腹の底から湧き上がる奔流を、肌で感じた。
『震撃の加護、見せてくれよう!嵐の夜、青龍は舞い上がる─【脱龍天翔】─』
そして舞い上がった。
空へ空へと、バーティーは。
「おお、すげえ。どうなってんだこれ。」
思わぬ出来事に、鈍いバーティーは今度こそ驚いた。
驚愕なことに、彼は空を飛んでいた、いや跳んでいた。
無意識に振り上げた脚は大地を抉り、少年を暗黒の大空へと誘っていた。
「太陽が出てるのに、空が暗い。これは夜なのか、ネプチューン!?」
『死が侵食しているのだ。陰陽の調和が乱され、今、巨悪が目覚めようとしている。』
緊迫した雰囲気で木槌のネプチューンは語る。
『まずは、侵食の加護を持つ者達をこの世から追放しなければならない。そして、最初の一柱は、あそこにいる。』
木槌の先が地上の茶色い点を指す。
その茶色の点は無数の城に囲まれ、今まさに陥落しようとしている。
その中で一際濁り輝く、大きな白があった。
『超不死怪物ネメアライオン、キメラの頂点だ。奴を、倒す。この星が絶望に覆い尽くされる前に─』
「分かった。倒せばいいんだな、アイツを。やってやるさ、この俺がね!!」
流星の如くバーティーは降下した。
炎の石となりて、彼は地上に降臨せんとする。
震撃の使徒として—
『私を抜け、バーティー!』
「おうともよ。ネプチューン!俺の手に来い!」
木槌はバーティーの背から抜け出して、少年の右手に収まった。
そして木槌の底から火炎が噴き出す。
「【バースト・オン】星の如く。」
地へと流星になってバーティーは落下した。
その衝撃はゆり起こす。
百獣の王、腐り切った王者ネメアライオンを。
ネプチューン:震撃の具現者、木槌
そして柱の…
伏線を投下した所で今日はサヨナラです。
また明日。