犬猿に猫
猿の惑星(過去)
北征将軍ガント・ロバーストンは天幕の中で焦っていた。
「まだ終わらないのか、この遠征は?」
「恐れながら…某王子の軍勢は精強につき、ネメアの獅子隊をもってしても、頑強なればこそとても二週間では落とせぬかと。」
副官は恐る恐る、控えめに付け加えた。
これは、大柄で長躯の大猿であるガントの怒りに、誰も晒されたくないからであった。
「ぐぬぬ、ミュウちゃんのライブに間に合わぬではないか、これでは!!」
ガントは両腕をぶん回して、苛立ちを露骨に表す。
副官は、振り回される腕にヒエっと縮こまった。
「これだから、骸骨兵だけではなく、あの新兵器を投入させてほしいと言ったのだ!全く、あの根暗は一体いつになったら—」
「根暗とは失礼な。それにしっかりと申し上げたはずです。新兵器の調整は万全ではなく、暴走の危険がある。骸骨兵といえども無限の貯蓄があるわけではないのです。あぁ、多大な損害が出てしまったら、我々は揃って首ですぞ!?」
白いローブを身に纏う顔の青白い男は、大猿のガントに対して嘆く。
その生気のない肌にガントは思わず顔をしかめた。
「不死者どもは揃いも揃って面妖な存在ですな。魔力周波が安定していない。まるでこの世に繋ぎとめられていないかのようだ。」
ガントは疑問を懐にしまわず、不躾にぶちまけた。
それに顔色の悪い男、フバースも思わず顔を引攣らせる。
「面妖とはそちらも随分と失礼だ。この世にいますとも、私は。私はまだ生きてる。死んでなどいない。生きているんだ!!」
「そ、そうか。そいつは悪かったな。」
ガントは哀れなモノを見る目で、バツが悪そうに謝った。
副官は居心地悪そうに隅っこに立って、天幕から逃げたそうにしている。
「ああ、怒りましたよ、私は!いいでしょう、解放してやりますとも。キメラの最高峰、ネメアライオンをねえ。これまで投入したキメラとは比べ物にならない、超重量級の力を見せてやりましょう!!グハハ、グハハハハハ!!」
狂ったフバースは、目を血走らせながら錯乱する。
その指示を待ってましたとばかりに、ガントは怒鳴る。
「聞いたな、お前!ネメアライオンを解放する。砦へ奴を誘導しろ!」
「は、はい、直ちに!」
慌てた副官は、足を滑らせながら天幕の外へ出ようとする。
そして、丁度入ってきた小猿の伝令と鉢合わせになり、もんどりうって倒れる。
「貴様、一体何を!?」
「お、親方、大変でさあ!!」
伝令はフバースと同じく狂ったように叫ぶ。
「なんだ!俺の邪魔をするのか、このガント様の!!」
「ち、違いまっせ、あの腐り大獅子が暴れ出して、骸骨兵が蹴散らされてんでさあ!」
「何を言っている、有り得んぞ、そんなことは!?」
怒号を挙げるガントと悲鳴を上げるフバースは、対照的だが似通った二者同一の反応を見せた。
「一体、どうしてそのようなことが起こった。言え!」
小猿の軍服の襟を掴んで、ガントは怒りのままに上下に振り回す。
フバースは放心して再起不能の状態だ。
振り回される小猿は、必死で弁明する。
「小さい人間が突っ込んできて、勝負を申し込むって。決闘とか冗談だと思ってら、冗談じゃなくて、それで—」
要領を得ない話にガントは激怒し、小猿を地面に叩きつけて圧し潰した。
「副官、この場とフバース殿は任せるぞ!」
「は、はい。ガント様はどうされるので。」
副官は、必死に恐怖に耐えながら質問を捻り出す。
「俺は、その小さな人間とやらと話をつけに行く!」
盛り上がった筋肉を唸らせ、大猿は吠える。
「喧嘩の時間だ!!」
伏線が既にセットされている…だと
次からは16:00更新です。
よろしくお願いするのだーヽ(・∀・)ノ
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