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バーティー・グーンのファンタジア  作者: 目安ぼくす
第一部第一章:遙かなる空へ
20/22

思いがけない紹介

次への繋ぎ。

 ネプチューンが目を覚まし、辺りの事象を把握すると、予想通りバーティーが暴れていた。


「軍医長、大丈夫ですか。俺も手伝いますよ。」


「いや、心配はいらん。私一人で十分だ。」


「あがーっ、痛え!痛えぜ、コイツは。婆ちゃんの拳骨よりも痛え!!」


 ジタバタ痛みに喚く小人少年を抑えるには軍医長。


 その様子を見て、片足骨折のハリスも手伝おうと申し出るが、軍医長は断る。


 非力なバーティーをその場に留めておくのは、予想以上に簡単だったからだ。


「とてもあの緑鬼と渡り合った奴には見えませんね。」


「あぁ、不思議だよ。解剖して調べてみたいくらいだ。」


 軍医長はポツリと呟き、マッサージでバーティーの筋肉をほぐす。


 下着の褌だけ履いて半裸状態のバーティーは、神経過敏の筋肉を触られて絶叫する。


「うおおおおお!おっさんに殺されるうううう!」


「はっ。殿下、ご無事ですか!?軍医長、これは敵襲ですか?このケブル・モースにお任せを!汚名返上の機会を!」


「君達は黙っとれい!殿下の体調に障るだろう!」


 大声で叫び続けるバーティーと、飛び起き抜剣して怒鳴り出すケブルに向かって、軍医長がキレる。


 目の前で飛び交う大音量に会話に、ハリスの耳は壊れそうだ。


「落ち着いて下さい、軍医長。ケブル卿の相手は俺がしますから、ね?」


 堪忍袋の尾まで切れそうな軍医長の肩を掴んで、ハリスが宥めた。


 彼は松葉杖を使って、ガタガタと揺れる荷馬車の上を器用に移動する。


 突然の喧騒に、周りの馬車の兵士たちもなんだなんだと起き上がる。


 時間はまだ早朝、辺りは暗く、みんなまだ寝ていたい時間だ。


「何でもない。怪我人の治療だ!」


 ハリスは、警戒を始める兵士に向かって言った。


「なんだ、軍医長の荒療治か。」


「いつも通りだな。」


 フハハと兵士たちは笑って納得し、寝直す。


 そんな彼らにムッとしながらも、軍医長はバーティーの治療を続ける。


「ただの筋肉痛だぞ、少年。大丈夫だから静かにしていような。」


 青筋の浮き出ている軍医長は、無謀にも小人少年の説得を試みる。


「大丈夫じゃねえええ!おっさんに殺されるううう!」


「私はまだ四十だ!まだおっさんと呼ばれる年齢ではない!!」


 軍医長は何故だか必死になって反論する。


 世間では「その年代の人をおっさんと言うんですよ。」と心の中でハリスは思う。


 発狂寸前の軍医長を傍目にバーティーは暴れ続ける。


「腹減った、メシー!メシをくれ!」


「ほれ、坊主。黒パンを分けてやる。だから軍医長の言うことを聞いてやるんだな。」


 ハリスは昨日半分食べた黒パンをバーティーに差し出した。


 それをバクリと一口で食いちぎるバーティーは、まるで餌にたかるピラニアのようだ。


 その隙に軍医長は、湿布に軟膏をベターッと塗りたくる。


「不味い!」


 笑顔で少年はド直球に味をレポート、ネプチューンは「やはりいつも通りだ」と呆れた。


 普段だったらオムスビをくれてやるところだが、第三者のいる状況で、ネプチューンは自分の正体を晒したくなかったし、力を溜めておきたかった。


(くく、しかし不様だ。きびだんごの代償は強烈な筋肉痛。これでしばらく奴は動けまい。その間に私はのんびりするのだ。)


 邪悪な考えの下、ネプチューンはバーティーを放置する。


 オムスビ生成は人々が思う以上に疲れるのだ。


 バーティーに握ってやるといい、彼は余裕で数百個要求してくるぞ。


「それにしても坊主。お前の名前はなんて言うんだ。おっと、先に自己紹介をさせてもらうぞ。俺はハリス。栄えある近衛兵団の第四歩兵隊所属、三番槍のハリスだ。よろしくな。フッ。」


 ハリスはカッコつけて自己紹介した。


 三番槍とはまた微妙な位置付けである。


 そんなことをこの小人少年は気にしないので、素直にスゲーと驚く。


 落ち着いたケブル・モースも口を開く。


「少年。恥ずかしながら、お礼を言っていないことに気づいた。近衛騎士として誠に面目無いことだ。申し訳ない。私は—」


「むぐ、王子だろ。知ってるぞ。」


 バーティーは、あの時のことを思い出して言う。


 ***


 あの時…


「一体何のようだ!」


「王子は…私だ。」


「何だって!?」


 ケブルの言葉にガントロは驚愕した。


 ***


「って言ってたろ。俺は天才だから昨日のことも覚えてるんだぜ。」


「「……」」


 壮絶なカミングアウトに思わず軍医長とハリスは無言になる。


(自分を大切にしろと毎日言っているというのに。)


 軍医長は愚痴て、


(おぉ、ケブルさん、マジでスゲエ。さすが近衛騎士。)


 と、ハリスは騎士ケブルを賞賛し、憧れる。


 田舎育ちのハリスにとって、近衛騎士なんてのは天上の存在で敬意しか湧かないのだ。


「…すまないが、私は殿下ではない。あれは嘘だ。」


「ん?そうなると本物の王子はどこなんだ。」


 モグモグ黒パンを食みながらバーティーは聞いた。


 どこまでも能天気な奴である。


「今、殿下はそこで眠られている。私の失態だ…」


 小人少年の質問は、ケブルのトラウマを抉る。


 頭を抱えて、顔は青白くなり、汗が流れて、発作が起きた。


「あああああああ、私に、もっと力があればあああ!!」


「ほれ、眠れる薬だ。飲んでおけ、ケブル卿。」


 軍医長は素早く懐から青色の液体の入った瓶を取り出し、発狂気味でストレスにやられているケブルに差し出す。


 それを震える手で受け取ったケブルは、一気に液体を飲み込んだ。


 するとバタン、と効果が即効性だったのか。


 倒れるように彼は眠り込んだ。


「うわ、大変ですね。ケブルさんは大丈夫なんですか?」


 ハリスが心配して聞く。


「うーむ。身体は有り得ない程の回復が進んでいるのだが…心の方はそうも簡単にいかないということか。」


 軍医長は禿げた頭を、髪があるかのようにクシャクシャと揉み回す。


 個人的に彼は、即効性の劇薬を何回も処方したくないのだ。


「それで、結局、坊主は誰なんだ。こんな僻地にまで来て。」


 ハリスは軍医長の様子を慎重に確認しながら、もう一度バーティーに聞いた。


「いや、ちょっと待ってくれ。王子様って、そこで死にそうになっている人か?」


「そうだ。殿下は今、危篤状態だ。」


 ハリスは当然とばかりに答えた。

展開が遅めに。少し反省です。

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