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バーティー・グーンのファンタジア  作者: 目安ぼくす
序章:ワールドスワップ
13/22

急がば決闘

やったか?

 音の壁を突き破らん速度で、拳は放たれた。


 衝撃波を伴う音速の一撃は、拳自体が王子に到達すると同時に空気の塊を押し出して、馬ごと彼を吹き飛ばした。


「ありゃ、強すぎたか?これだから五分の魂もない虫ケラは嫌いなんだ。」


 それを発見して、ガントはすかさず王子に当たった拳を戻す。


 直近から攻撃をモロに食らった王子は、何とか原型を留めたまま、遥か遠くの地面に着地した。


 馬の方は上手いこと衝撃を受け流したのか、足が全て明日の方向に曲がっているだけで済んでいる。


「こりゃあ駄目だな。失敗した。俺様としたことが、ミュウちゃんみたいなドジを…」


 でも、あんなに脆いなんて誰も思わないだろう、と大猿はため息をついて寝転がった。


「で、殿下!?ご無事ですか!」


 衝撃波から逸れていたケブルは、彼にとって忍びなく、不運なことに全くの無事だった。


 倒れた王子へ向かおうとするケブル。


 彼の生き甲斐ともいえる護衛対象が、危機に瀕している。


 それが、彼の、敵に対して背を向ける行為を可能にしていた。


 もっとも、ガサツな大猿はそれすら許さなかった。


「おっと、そいつは戦士的じゃあない。敵に背を向けるのは駄目だな。俺様はそういうのに細かいんだよ。」


 巨大なオランウータンが、ケブルの前に立ちはだかって行先を遮る。


 それは焦げ茶色の妖怪ヌリカベのようで、似ていないところといえば長い腕と短い足ぐらいだったのだ。


 壁となって行く手を塞ぐ大猿ガントに対して、ケブルは吐く。


「黙れ下郎、主君の身を案じるは臣下の務め!ましてこの状況で殿下を見捨てろだと。恥を知れ!」


 馬から降りて馬上槍を捨て、騎士らしく正々堂々と、ケブルはブロードソードを抜いた。


 甲冑を着込み、兜のバイザーを下ろしたその姿は、怪物に立ち向かう正義の騎士。


 対するは、未開の野蛮人じみた体高5Mの怪獣にしてオランパラワーンのガント・ロバーストン。


「私、騎士ケブル・モースは、お前に決闘を申し込む。私が勝ったらここを去って、兵を退け!」


 ケブルは、長躯のガント・ロバーストンにも聞こえるように声を張り上げた。


「ほう。じゃあ俺様が勝ったら、お前を好きにさせてもらおう。それでいいな?」


 ガントは、ケブルを見下げながら答えた。


 その頰に浮かぶ笑みは隠せていない。


 大猿は勝利を確信し、ケブルのことを嘲笑っていた。


「では…」


 ケブルの言葉をガントは継ぐ。


「いざ尋常に…」


 両者は、互いの武器を構えた。


 ケブルは両刃の剣、ブロードソードを上段に構える。


 相対するガントは、右拳を腰に添えて、先ほどのようなロングパンチの構えを見せる。


「「勝負!」」


 そして、二人の決闘は始まり—


「ぐわっ。」


 呻き声が漏れた。

次回は一時間。

そしてケブルの実力が明らかに。

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