伸縮の森人
精霊の守り人(ボソッ
オマージュだよ、オマージュ。
そして、大猿は局所的ゲリラ台風と化した。
独楽のように高速回転する体高5Mの大猿は、アスファルトを抉るドリルマシーン。
それほどの威力が、たかが鎧を着ただけの人間を直撃する。
「ヘブシッ。」
「アブシュヒーン。」
振り回される剛腕に、頬を平手打ちされた馬上の兵士が吹っ飛び、肉バラを直撃されたどデカくヘビーな軍馬が真っ二つ。
刺身をスライスするように、重装騎兵のエリートたちがザクザクバラバラにされる光景にも、王子とケブルは咄嗟に行動する。
「あの大猿に近づくな、弓兵を呼べ!」
「重装騎兵隊、転進!あの猿の相手は私がする。」
大声でケブルは遠距離攻撃要員の増援を要請し、ジュース王子は状況に即応して、迅速な戦術的処置を行う。
状況はガントという異分子の存在に揺れ、傾く。
「逃すと思うか?」
ブシャリ。
脳漿の飛び散る音が、王子の耳元で聞こえた。
ちょうどすぐ側だ。
「え"あぐ!?」
ジュース・ユリテールの隣で馬を駆っていた伝令の頭は、ひしゃげたトマトになって、バタンと倒れる。
それは、部下を誰よりも大切にする彼にとって衝撃だったが、それ以上に重要なことがあった。
「馬よりも速い…のか?」
否、大猿ガントに馬並みの速さがあるわけではない。厳密には違う。
その違いを、何とか王子の優秀な目は捉えた。
バッと駆け出した大猿の腕がビヨーンと伸び、まるで木の枝でも掴むかのように伝令の頭に引っかかった所を。
その、身体に体重を掛けてぶら下がるその姿は、紛れもない、オランウータンのようであった。
「君はオランウータン、なのか?」
「俺様は、森の人オランウータンではない。遠い昔の話だ。今はそう、森の勇士にして猿人の大戦士が一人、オランパラワーン!オランパラワーンのガント・ロバーストン将軍様だ!」
自慢気にガントは王子ジュースの真ん前まで来て、言い放つ。
その巨体に王子の白馬は、思わずすくみ上がって、どうどうと王子にいなされた。
だが我らのジュース・ユリテールは怯えず、堂々と応えた。
「なぜ私達の土地を不当に侵略する?なぜ私達をそれほど憎む?私達が何をした?答えよ、狼藉者!」
叱責する王子に対して、大猿は眉をひそめ、その長い腕を組んだ。
ジュース王子は、ゴクリ、と唾を飲み込んで緊張し、馬上槍を構えた。
白馬も覚悟を決め込んだのか、逃げようとする野生を理性で封じ込めて、ヒヒーンと鳴き、大猿を威嚇する。
「なぜ、とは面白い質問だ。返してもらいに来ただけだ。我々の土地をな。」
淡々と大猿は説明した。
もはや怒りなどなく、彼の感情には王子に対する呆れさえあった。
「そして、そのためには貴様らの存在そのものが邪魔だ。分かるか、人間?」
ボキャボキリとガントは拳を鳴らし、腕を伸縮させた。
その伸び具合はゴムなんてものではない、粘土のように伸縮自在でこねくり回せるもの。
「やはり、伸びるのか。その腕は。」
「おうとも。これは、俺様が御方様から授かった加護だ。」
そう言って、ガントは腕をあらぬ方向に捻じ曲げた。
すぐに元の位置に戻ったそれは、ガントの肉体がゴムのような復元性能を持っていることを示す。
「では死ね、人間。これが俺様の怒りだ。受けてみよ。」
大猿にして猿人の勇者ガントは、拳を握ってみせて、ニヤリと笑う。
「もし出来たら、死ぬ気で耐えるんだな。それではサヨナラだ。」
音の壁を突き破らん速度で、拳は放たれた。
狂喜の二回更新…明日休んでも許してピョン。
パラワンってパダワンに響きが似てるよね(察し
次回は16:00更新…だ。
また明日!




