万事塞翁が馬
猿の出番、なお主人公は……
近衛兵団最強、重装騎兵隊、参上。
「何、側面からだと!?一体どうやった、人間!?」
突然の出来事に北征将軍ガントは困惑し、驚愕した。
先頭を走るはずの騎兵部隊、最後尾にいるはずがないと読んでいた大猿は混乱する。
ありえない、そんなはずがない、との思考がガントの頭をよぎる。
そして、そんなことを考えている暇は彼にはなかった。
荷馬車の車列に突っ込もうとしていた猿たちの左側から現れた騎兵隊。
完全に横腹が無防備な猿人部隊にとって、致命的である。
「ふ、不可能だ。このガント様が読み合いで負けるなど…」
ガントら猿人部隊は、押し寄せる重装騎兵の波に呑まれた。
砦からの出撃前—。
「殿下が最後尾に残ることに私は反対ですが、これ以上主君が決めたことに口を挟むのは臣下の仁義にもとる行為。従士として貴方を、胸を張って送り出します、殿下。」
ケブルは渋々、王子が殿の指揮を執ることを認めた。
例えそれが、最後の王族であるジュース殿下を守り通すという彼の意にそぐわないものだとしても。
最後の近衛従士として、王子の意志を尊重すると決めていた。
「おお、分かってくれたか、ケブル。私は嬉しいぞ。」
近しい者が自分の考えを認めてくれたことに王子は破顔した。
「ですが、護衛を付けさせて頂きます。」
「それは構わないが、誰を?」
王子は首を傾げる。
いつも通り、護衛はケブルだけでいいと思っていたからである。
「近衛兵団付きの重装騎兵隊、百名全てを。」
「重装騎兵隊全員をか?そちだけで充分と私は思うのだが。それに重装騎兵隊は先頭の、騎兵部隊の主力として使いたい。却下だ。」
王子は、にべもなくケブルの提案を拒否した。
無論、それはケブルの想定内でしかなかった。
「それを承知しての忠言にございます、殿下。私に策がございます。まずは予想される敵の追撃についてです。」
ケブルは、最高機密の一つである砦付近の地図をテーブルに広げた。
三方を山に囲まれた要塞、南側のみからしか出入りが出来ず、敵にとって過酷な環境を誇る山脈を越えるのは困難。
敵に山を越えさせて、疲弊した所を一気に叩くことを主眼としているこの砦。
最悪の場合は砦に火を放ち、南の王国本土にまで逃げる戦略となっている。
しかし、今回は敵が南から北上してきたことが災いし、ジュース王子ら近衛兵団は砦に押し込まれ、逆に袋の鼠になってしまっていた。
北、東、西を囲む大山脈が壁となって彼らの逃げ道を塞いだ形である。
「そのようなわけで、本来なら逃げる場所はどこにもありませんが…。ここです。」
バシッとケブルは地図の上を指差した。
そこは砦の北側、只今絶賛、穴が開けられている場所。
「何者かの活躍で包囲網に穴が空きました。山まで一直線のようです。ここに勝機があることは、先ほど殿下ご自身が述べました。」
とケブルは王子に向かって発言する。
「そうだな。私の考えでは山にも穴が空いているはずだ。あの時に感じたエネルギー、とてつもない。一か八かだが賭けられる。ここで座して死を待つよりはマシだと…思う。」
バツが悪そうな顔で王子は語る。
あの時の弱音と情けなさを思い出しているのだろう、軽率な行いを反省しているようだ。
そこを強引に咳払いして、ケブルは話を進める。
「…ごほん。それで、殿下の考案した機動車列部隊で脱出を図るわけですが、一つ欠点があります。」
機動車列部隊、王国最先端の戦術及び戦略。
発案者はジュース王子で、大量の馬車・荷馬車を動員し、迅速な機動力と兵力の展開力で敵を圧倒する作戦。
その案を試験的に採用することが決まっていた北端の砦—つまり、ここ—には無数の馬車が保管されていた。
それでも全部集めて二千人が乗れるか乗れないか。
それを有効活用しようという訳である。
「まずは一つ目、後方の歩兵隊についてです。馬車についていけず、置いていかれる危険があります。」
ウッと唸る王子、彼もそこは想定していた。
「これは、騎兵隊と馬車を歩兵隊の速度に合わせる話でしたが、これでは機動力と突破力が大幅に削がれます。つまり、敵に追いつかれる危険が増すのです。」
「確かにそうだな。だがケブル、ここまで一緒にきた歩兵隊を置いていく訳にはいくまい。私には無理だし、絶対に見捨てない。」
断固とした態度でジュース王子は主張し、素直にケブルも頷いた。
「はい。その通りです、殿下。そこで私が一つ、策を講じました。」
ケブルは、自信に満ちた様子で王子に提案した。
「敵の騎兵部隊が確認されていない今、敵歩兵部隊を打ち破るために必要なのは騎兵隊!そこで、荷馬車を引く馬に偽装した重装騎兵を最後尾に配置。追撃してくる敵を奇襲して粉砕します。」
また地図を叩いて、ケブルは作戦の価値を強調する。
「ここで敵の出鼻をくじいてしまえば、こちらの勝利です。後は速やかな脱出が期待できるでしょう。如何ですか、殿下。どうかご採択を!」
「よろしい。この私、ジュース・ユリテールが命じる。重装騎兵隊を荷馬車隊に紛れ込ませ、奇襲隊として編成する。指揮は私が執る。ケブル、ついてこい!」
王子は立ち上がり、ケブルに命じた。
ケブル・モースは、それを謹んで拝命し、答えた。
「御意に、殿下。」
○○参上ってのをやりたかったんです。
申し訳ない。
次回も16:00
心して待て‼




